引き返す場所
「…そうだねぇ…
愛息子と可愛い嫁さんを持つイケメン育児パパ、とか?」
そう言ったのはリクオの父である奴良鯉伴で…
彼の言葉に凛は眉を歪めて『どうでもいい』と答える。
「…それで?
お嬢さんは今何をしようとしてたんだい?」
『……あなたには関係のないこと。』
「まだこんな小せぇ命を奪うなんて…穏やかじゃないぜ?」
続いて、可哀想と思わないのかいという鯉伴の問いに返ってきたのは…『可哀想だから楽にしてあげようとした』と言うだいぶズレた回答。
思ってもみなかったのだろうその答えに、鯉伴も何とも言えない表情を浮かべる。
「…そりゃあ…歪んだ優しさだねぇ。」
そう言うや否や、未だブルブルと震えている子猫を抱き上げる鯉伴。
もちろん、
警戒態勢に入ってる動物にそんな事をすれば、攻撃されるのは当たり前で…
「イテッ!
ちょ、大丈夫だから、落ち着けって!」
引っかかれながらも離そうとせずに、鯉伴は興奮した子猫を宥める。
『どうするの?』
「どうするって…まぁ、これも何かの縁だ。オレの家で飼うかねぇ。」
その答えに、ふーん、と興味なさ気に返した凛は再び地面に穴を掘り始める。一方、鯉伴は子猫を未だに宥めており、二人の間には会話が一切ない。
そしてしばらくし…漸く子猫が大人しくなったところで、猫を埋めている凛へと鯉伴が言葉を投げかける。
「…お嬢さんが何者なのかは知らないが、まだ若い今のうちに引き返した方がいいんじゃねぇのかぃ。」
『…意味分かんない。』
「要は…人間、墜ちるのは簡単だが、這い上がるのは楽じゃねぇぞって話だ。」
そこまで言って、猫の餌でも買って帰るかと歩を進める鯉伴。それじゃあな、と去って行った鯉伴の背を凛は見えなくなるまで見つめ…
『…引き返す場所なんか…どこにもない。』
と、誰に言うでもなく、ポツリとそうこぼした。
(「…あの殺気は…只者じゃねぇ。」)
(「にゃー」)
(「おーぅ、今すぐ餌買ってやるからな〜」)
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