普通と異様
『………面倒だ…』
ガヤガヤとした廊下を、ため息をつきながら歩く者が一人…最近騒ぎの原因になっている門井凛だ。そんな彼女が向かった先は自分の教室で、怠そうな目をしながら教室のドアへと手を伸ばす。
ガララッ…
『……………?』
彼女が教室のドアを開けると、一気に静まり返る教室。
いつもなら彼女が教室に入ってきても誰も何も反応しない。それが今日はどうしたことか…皆彼女を微妙な表情をして見ている。
そんないつもとは違う状況に違和感を抱きながらも、彼女は自分の席へと向かう。
『…………臭う…』
最近の日課となりつつある、汚れた机と椅子。
だが、いつもは落書きやらゴミが入れられているだけなのに対し…今日は何故か異臭を放っている。
その異臭の元を確認しようと、彼女が机の引き出しを確認すればー
『……………ネコ…』
猫の死骸がそこにはあった。
殺されたのか、それとも元から死んでいたのを誰かが拾って来たのかは分からない…
教室にいる者がそれを何とも言えない表情で見守る中、これまたタイミングが良いのか悪いのか…教室に一人の男子生徒が入ってきた。
「おはよー、皆!
……あれ? どうし…ぇっ…門井、さん?」
『…あぁ、おはよう。』
「それ…、その猫、…どうしたのっ!?
誰がこんな事…!!」
教室を漂う異様な空気にすぐ気付いたリクオ。
そして凛が持つ猫の死体で、直ぐに事の状況をなんとなく察した。
流石にこれは度が過ぎてるのではないか…
そう思ったのだろうリクオは、難しい顔をしてクラスの皆の顔を見渡す。
「これ…誰がやったの?」
もちろん、リクオの問いに自ら名乗り出る馬鹿正直者はおらず…誰もが「自分ではない」と言わんばかりに目を逸らす。
「流石にこれはないんじゃないの!? 門井さんにも失礼だし、猫だってかわい…」
『ねぇ、ちょっといい?』
「え、あっ、ごめん…」
正義感強いリクオが怒っているのにも関わらず、空気を読まずにそれを中断させる凛。そんな彼女に周りも驚きの表情を見せるが、リクオも出鼻を挫かれたような顔をして戸惑いを示す。
だが、
皆の驚きも戸惑いも…次の彼女の行動でまた更に大きくなる。
ドサッ
「なっ…何やってんだよ!?」
『…? 捨てただけだけど…駄目なの?』
リクオが声を荒らげるのも無理はない。
彼女は猫の死体をなんの躊躇いもなく、教室のゴミ箱に捨てたのだ。
まるで、それが当たり前かのように…。
「いくら何でもそれはないんじゃっ…!」
『? だってこれ…死んでるよ?』
「死んでるからって捨てることないだろ!? 普通は地面に埋めたりとか…するじゃないか!」
リクオのその言葉に、表情を見せない彼女が珍しく驚いた顔をする。やる気の感じられないいつもの垂れ目は見開かれ、フリーズしたかのようだ。
たが少しすると、目を伏せて…ゆっくりと口を開く。
『…………ごめん…』
とても小さな声で出たのは謝罪の言葉で、
『……埋めてくる…。』
先程ゴミ箱に捨てた猫の死体を取り出し、それをそっと手に持ち教室を出た。
彼女が出た後、しばらくは静まり返る教室だったが…
「今の…みた?」
「普通捨てないよね…」
「有り得ない…感情ないんじゃないの」
先程の様子について、徐々にざわざわと騒ぎ出すクラスメイト。そんな光景を見かねてか…、「猫の死体を入れる方が質が悪い」と言うリクオ。その言葉にまたもや教室が静まり返るが…リクオはそれを気に止めずに「取り敢えず片付けよう」と凛の机や椅子をカナちゃんと共に掃除し始めたのだった。
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