ひとこと
「そういえば、菜也ちゃんのパパとママはどうやって出会ったんですか?」
「あっ! 私もそれ聞きたい!」
「おっ いいぜいいぜ。オレが鯉菜との運命的な出会いを話してやろう!」
はい、皆さんこんにちは。
ただいま我が家は大所帯になっております。
雲雀さんを除くボンゴレファミリーとシモンファミリー、ハルちゃんと京子ちゃん、それにディーノさんが集まっているからです。
…え?
何で雲雀さんを誘わないのかって?
やだなぁ。さっきまで居たけどどっか行っちゃったんだよ。群れすぎとか意味分かんないこと言って。
…ん? シモンファミリーって何ぞや?
それはアレだ。ボンゴレファミリーの類友ファミリーとでも思って欲しい。一時は敵対した仲だが今では大の仲良しだ。
「そんなわけで、まぁ、こいつは近所の姉さんって感じだったわけ。ガキの頃から英語とか教えてもらっててなぁ…最終的にはオレが大学に入った時に付き合い始めたわけ。」
「はひー! ロマンチックですぅ!」
「菜也ちゃんのママは頭がいいんだね!」
「いやいや、コイツが頭いいのは英語と日本史だけ。数学とかいつも分からねぇって言ってたし、オレも分かりやすいように数学を教えてるのに苦労したんだぜ?」
「へ? 数学を教えてたんですか?」
「おう。オレこいつの担任で…あ"っ。」
「…担任?」
「あり? 何か…時空列おかしくないっスか?」
「どういうことなんだ?」
あーあ…ミスったな、お父さん。
話の流れがおかしいことに皆が気付いた以上、誤魔化すことはもう困難だろう。しかも、よりによってリボーンが食い付いたんだからね。
「ぁー…どうしよう、鯉菜」
「どうしようって…普通に転生したことを言えばいんじゃない?」
「「「転生っ!!?」」」
「クフフ…転生とは、面白いですね。」
「妖怪になると転生までするのか…!?」
皆が単純に驚く中、約2名だけ興味津々な反応を見せている。言わずもがなパイナップルボーイとニコ中野郎だ。
「さっきオレ達は近所のお姉さんと近所のガキの関係から始まったっつったけど、本当は違うんだよな。オレ、こいつが中学ん時の担任だったんだぜ。手を焼きましたとも!」
「そのセリフそのまんまアンタに返すわ。
誰? 教師の癖に生徒にテストの採点やら何やら手伝わせてたやつ。」
「ええっ!? そんなことしてたんですか!?」
「誰だ? 遅刻早退、自主休講は日常茶飯事。その弁護のためにオレと取引したのは。」
「「私だ/オレだ」」
『あきれるっしょ?』
「「「…………」」」
皆が絶句しているのを見て見ぬフリか…お父さんとお母さんは転生の話を含め、二人の生い立ちを再び話し始めた。
本当は浮世絵中学校の生徒と教師の関係だったこと。奴良組のいざこざに巻き込んでしまい、お母さんがお父さんを殺してしまったこと。その後、お母さんのもとに転生したお父さんが訪れたこと。
「あの…」
「お、確か君は…炎真くんだっけ。どうした?」
「こんなこと言ったら失礼だとは思うけど…恨んだり、しなかったんですか。」
「…鯉菜のことか? そらねぇよ。
まぁ…ある男に乗っ取られたおかげでオレの坂本先生としての生は終わっちまったけどさ、でもそれにもちゃんと意味はあったんだ。」
「意味…?」
「あぁ。詳しくは言えねぇけど…なぁ?」
「…えぇ。あの時はとても辛くて"何で"って思ってたけれど、今では良かったって思えるの。坂本先生の命を奪ってしまったけれど、その代わり、私は家族との絆も深めることができたし…ようやく前に進むことができたからね。
辛いことに無駄なことなんて何一つないんじゃないかしら。」
私も、詳しくは知らない。
お母さんもお父さんも転生者だってことは知ってるし、お父さんを乗っ取ったのも誰かは知っている。けれど、お母さんが前世のお兄さんと何のわだかまりがあったのかは知らないのだ。
それに、本人達もそのことは言うつもりがないのだろう。リボーンが単刀直入に「その男ってのは誰だ」「関係性は」とか問うものの、ふたりは言葉を濁して頑なに語ろうとしない。
その後…
お父さんがトイレへと席を外した時、素直じゃないお母さんが、素直に当時のことを静かに話し始めた。
「君達にとって大切な人って誰?」
「大切な人…」
「親、兄弟、家庭教師、友達、恋人…今思い浮かべた人は誰だろうね。未来に行ったり、未来の記憶を見た君達なら分かるんじゃないかな…その人を失う怖さを。」
「………」
コーヒーカップを置く音が、大きく聞こえた。
誰も言葉を発しない…
いや、発することができないのだ。
ツナと炎真君は顔を青くさせて、他の皆やディーノさんも難しい顔をしている。今までの戦いの中で、仲間が傷付き、時には助けることができなかった時の気持ちを知っているから。
「そんな大切な人を、私は自らの手で殺してしまったんだ。勿論、殺したくなかった。むしろ助けたかったのに…心臓をひと突き、先生は二度と帰らぬ人になってしまった。」
「…前世の達也さんとは…その、どんな関係だったんですか?」
「達也…いや、坂本先生はね、私が心から信頼した人だったんだ。奴良組の皆にも一線引いていた私が、学校でも誰に対しても心を開かなかった私が…唯一、繕わずに羽根を伸ばせた相手なの。
家族にも私が転生者であることを打ち明けてなかったのに、先生には何故か打ち明けたくなった。学校なんて退屈で窮屈な場所だったのに、先生に会えてからは楽しくなった。
…家族以外で人をあんなにも尊く、守りたいと思えたのは初めてで…」
「鯉菜さん…」
「…そんな人を私は自らの手で殺めてしまったってこと。」
『……』
そう言って、お母さんは困ったように笑った。
こんな暗い話をしてごめんね、と。
でも今はこうして達也と菜也に囲まれているから幸せだ、と。
「…グスッ」
『…え!? ハルちゃん!? 京子ちゃんも…泣いてんの!?』
「だって…なんて切ないラブストーリーなんだって思いまして」
『そんな泣かなくとも…
って、あれ? もしかして、ツナと炎真君も泣いてる…?』
「「な、泣いてないよ!!」」
「涙と鼻水流しながら言うセリフかよ。」
『あ、お帰り、お父さん。』
「ただいま、結構たまってたからスッキリしたわ。」
「そんな情報いらないから。」
京子ちゃんとハルちゃんが泣くのはなんとなく納得だけど、まさかツナと炎真君まで感情移入して泣くとは…正直驚いた。どんだけピュアなんだお前らは。ちなみに彼ら二人は今鼻水をかんでいます。
「おい鯉菜、こいつらに何か一言言ってやれ。」
「出たーリボーンの無茶ぶりー
そもそも一言って何よ。」
「こいつらはまだガキだが腐ってもボンゴレファミリーだ。それにこいつも部下がねぇと駄目駄目なへなちょこだからな。長年任侠者として生きてきたお前なら、何か伝えておきてぇことの一つや二つあんだろ。」
ニマニマと笑いながら言うリボーンに、ツナやディーノさんは「オレはマフィアになんかならない」「いつまでガキ扱いすんだよ」と文句を言っている。そんな彼らをリボーンはひと蹴りで黙らし、お母さんに早く一言を言うように促した。相変わらずなんと横暴な赤ん坊なんだ。
「ひとこと…か。う〜ん…そうだねぇ。
今までにも何度かあったかもしれないけれど…これから先、極限の選択を強いられる時が何度もあると思う。その時には自分を偽らずに、後悔しない選択を選びなさい。」
「後悔しない選択…」
「そう。どんなに辛いことが起きても自分が取った行動に悔いがないなら、きっと乗り越えられるから。」
その言葉は、私が小さい頃から聞かされてた言葉。
お母さんとお父さんの生い立ちを全て知り尽くしているわけじゃないけれど、何年経っても言うことが変わらないその言葉に、なんとなくホッとしたのはここだけの秘密だ。
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