珍しい依頼(秋房side)


とある日、青森県の恐山にてー


「…あれ、秋房さん…」

「どうしたんだい、百石。」

「表にいるカラス…脚に紙がつけてありますよ。もしかしたら誰かからのお手紙では…」


言われて外を見てみると、確かにカラスが1羽いた。伝書鳩ならぬ伝書鴉なのだろうが…はてさて、鴉で手紙を送ってくる身内なんていただろうか。竜二やゆら達ならば、それこそ鳩か式神、もしくは遣いの者をよこしてきそうだ。


「いかがなさいます…?」

「そうだな…取り敢えず見てみよう。百石は念のため中に入っていてくれ。」

「は、はい!」


ここは多くの死霊が漂う山。故に、何が起きてもおかしくはない。そろそろと身構えながら鴉の元へ行き、足につけてあった文を取る。胸が高鳴るのを抑え、意を決してそれを開いてみれば…


「…なっ!?
何も書いてない……」

「キャアアァッ!!??」

「しまった、百石っ!!」


屋内から聞こえてきた悲鳴に慌てて駆け寄る。
すると、そこにいたのは…


「はぁ〜い♪ アッキー、元気してた?」

「鯉菜さん!? 何でココに…!!」

「依頼をpresent for you」

「い、依頼?」


珍しいな…
鯉菜さんは時折ここにきては、私が(練習用で)作った刀をかっ攫って行く。売り物にならないんなら頂戴と言うので、一定量の試作品がたまったら連絡するようにしていた。
要は、鯉菜さんがここに来るときは、私が前もって連絡していた時だけ。だが今回は連絡などしていない。


「お、お茶、入れてきますね!」

「あ、ありがとう百石…」

「ありがとう〜♪」


今回の異様な事態を察してか、やや不安気な面持ちながらもお茶を用意しに百石はここを去った。そしてその後ろ姿を見ていた鯉菜さんは、何故かニヤニヤし始める…あぁ、嫌な予感しかしない。


「本当久しぶりだね。ここに来たの何年ぶりだろう…なのに、何故にアッキーと百石の子供が人っ子一人見当たらない!?」

「なっ……は、はぁっ!? 何言って…!!」

「貴方達……もしかしてまだデキてないの!?」

「で、デキてるさ! 子供は……その……」

「ん?」

「子供は、本家で預かられている…。」

「……えっ、それ真っ赤な顔して言うこと?
まぁ、いいや。子供できてたんだねぇ…おめでとう!」

「あ、ありがとう…」

「初心なアッキーがねぇ…百石ちゃんとアンナコトやコンナコト、ソンナコトまでしたとはねぇ…」

「ちょっ、わー!! わー!!」

「あれ〜? 何考えちゃったのアッキー。私はあくまで代名詞しか言っていないよ〜?」

「なっ、ななな、何も考えてないよ!!」


約15年前に、ようやく百石に想いを告げることができた。しかし、そこからはなかなか恥ずかしくて進むことができず…子供ができたのは数年前のことだ。
最初はここで育てていこうかと思っていたが、子供が歩き回るようになってからそれは不可能になった。刃物がたくさんあり、不穏な霊もいる。危ないことだらけな恐山では育てることができないかもしれない。そう頭を悩ましていた時、竜二達が来たんだ。私達の子…百秋を、花開院本家で預かることを言って来たのだ。


「寂しいけど、でもあっちの方が安全だし…それに修業もできるからね。」

「そっか…。」

「お茶、持ってきました。」

「ありがとう!…あ〜温まる〜!!」

「うん、美味しい!
…それで、今日はどういったご依頼で?」


百石が持ってきてくれたお茶を一口飲み、本題へと入る。すると鯉菜さんもキリッとした顔つきで、こちらを見た。


「刀を作って欲しい。勿論、報酬は払う。」

「…妖刀かい?」

「そう。」


普通の刀ならば試作品で充分だと言っていた。
こうやって依頼してくるのは、普通の刀ではないということだ。
しかも妖刀だから、これはきっと娘の菜也ちゃんのためだろう。


「あともう一つ」

「ん? なんだい?」

「妖怪を斬らず、人間のみを斬る刀も欲しい。」

「えっ、人間のみを!?」

「うん、できるよね。」

「…………ぜ、全力は尽くすけど……何のために?」


人間のみを斬る刀って……そんな出番あるかな。
陰陽師は基本人間を妖怪から守るためにあるわけだし、そんなモノを作った歴史は勿論ない。つまり、レシピも作り方も全く分からない中、自分で模索して作らなくちゃいけないんだ。


「目的…か。もしかしたら役立つかもなぁって。」

「役立つ?」

「……例えばさ、誰かを守るために、誰かを倒さなくちゃいけない時ってあるかもしれないじゃない? でも、倒さなくちゃいけないその人を殺したくないって時もあるでしょう。それが人かもしれないし、妖怪かもしれない…。
菜也には…そんなツライ想いをさせたくないから。」

「…………」


まるで、自身がそれを体験してきたかのように。
辛い目に合わせたくないという子を想う、親として当然の気持ちが伝わってくる。


「……分かったよ。できる、とハッキリ断言できないのが申し訳ないけれど、全力は尽くすから。」

「ありがとう!
出来上がったら取りに…」

「あ、私が届けに行くよ。今京都に住んでるんだろ? ついでに本家に寄って、あの子の顔も見たいからね…
ね、百石。」

「はいっ!!」

「……ありがとう」


とんでもない依頼を受けたものだ。
陰陽師が、妖怪を斬らずに人間のみを斬る刀を作るなんて…。だが、それでも、少しワクワクしてしまうのは何でだろう。


「あ、報酬はいつ払えばいい?」

「まだできるかどうか分からないからね……
完成品を持って行った時、鯉菜さんがそれに見合うと思った分だけ払ってくれればいいよ。」

「うわぁ〜…面倒なパターンできた〜…」

「はははっ」


何十年と…妖怪や武器について勉強してきた。
そして恐山では約20年ほど刀を作り続けている。
普通の刀だけではなく、妖刀を作ったりしてきたが…こんな挑戦は初めてだ。


「どこまでやれるか…腕の試し所だな。」

「頑張りましょう、秋房さん!」

「頑張ってね、アッキー。でも百石ちゃんを放ったらかしにしたらフラれちゃうで〜?」

「なっ……鯉菜さん!?」

「ふふっ、秋房さん、顔が赤いですよ」


突然の来客、珍しい依頼……
いつも通りの日常に今日みたいなちょっとしたハプニングが起こるのも…それはそれで一興である。
もし此度の依頼を成功させることができたら、作り方を忘れないようにそのレシピを大事に保管しよう。
いつの日か…
私と同じような道に入る子が来ても大丈夫なように。





おまけ

「そういえば鴉って……あれ鯉菜さんの仕業?」

「うん。カーナビなの。道覚えてないからね。」

「カーナビ……」

カー カー

「……確かに、カーナビ……ですね。」

「でしょ♪」




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