開いた距離


『き、気分悪い…酔いそう…』

「もう酔ってっし。てか妖怪のくせに弱っちー。」

『妖怪関係ないっての!…うえぇ…頭も痛い…』


何故ここまで私の体調が悪いのか…
それは、目の前で行われている霧戦のせいだ。

序盤、クロームはマーモンに圧されて倒れた。
そこで現れたのは六道骸。
倒れたクロームが霧に包まれたと思いきや…そこに六道骸が現れたのである。クロームも霧の守護者に違いないけれど、真の霧の守護者はどうやら六道骸らしい。2人で1人、みたいな? 摩訶不思議。


「マーモン圧されてるし。」

『…骸ってあんな強かったのか…』


沢田と戦ってる時はここまで強いと思わなかったんだけど…実力を隠してたのかな。それとも沢田の力を見誤って負けたとか。…うん、あり得そうだ。

霧の守護者というのは要は幻術師らしい。
ないものをあるものとし、あるものをないものとする。脳を直接支配して、幻を見せて、戦う。
だから、先程から非現実的な光景を先程から見せられている。地面が崩れたり、火柱が立ったり、その火柱が凍ったり、マーモンが大量に分身したり…


「幻覚汚染ってゆーらしいぜ。」

『…え?』

「だから、幻覚による脳の直接的作用が頭痛やめまい、吐き気を起こすんだってよ。前にマーモンが言ってた。」

『ふぅん…』


その話題の主であるマーモンに目を向ければ骸に圧倒されていて、そして遂に…


「…霧のリングはクローム髑髏のものとなりましたので、この勝負の勝者はクローム髑髏とします。」

「ししっ…粉々かよ」

『…………』


マーモンの負けが決まった。
でも…なんだろう。確かにマーモンは、風船が割れたかのように文字通りの粉々にされた。
気になることと言えば…マーモンの死の跡形が何もないことだ。いくら幻術師といえど、死んだら死体がそこに残るんじゃないの?

でも誰もマーモンの死を疑っていないようだ。沢田なんか「そこまでしなくても良かったんじゃないか」って骸に話し掛けてるし。


「この期に及んで敵に情けをかけるとは…どこまでも甘い男ですね、沢田綱吉。
心配無用…といっておきましょう。
あの赤ん坊は逃げましたよ。彼は最初から逃走用のエネルギーは使わないつもりだった…抜け目のないアルコバレーノだ。」

『(あぁ…なるほど。それで死体がないのか。)』

「………ゴーラ・モスカ。
争奪戦後、マーモンを消せ。」

『……』


ザンザスの命令に、プシュウゥと不気味な煙を出すゴーラ・モスカ。モスカとは話したことない…なんせ彼はロボットなのだ。
話すこともできない、戦闘ロボ。
それ以外は私も知らない。
でも、六道骸はどうやら違うらしい…


「まったく君はマフィアの闇そのものですね、XANXUS。君の考えている恐ろしい企てには僕すら畏怖の念を感じますよ。」

「……」

「なに その話に首をつっこむつもりはありませんよ。僕は良い人間ではありませんからね。
ただ一つ…君より小さく弱いもう一人の後継者候補をあまりもてあそばない方がいい。」


何の話だろう…
最後のは、きっと沢田のことを言ってたんだろうけど。ザンザスってまだ何か企んでるのかな。てか何でソレを骸は知ってるんだろう。
言いたいことを言い終えたからか…骸は沢田達のもとへと歩いていく。そして少し話していたかと思いきや、骸はクローム髑髏に姿を戻した。
…うーん…摩訶不思議!妖怪よりも摩訶不思議!!


「てかお前向こうに戻らなくていーの?」

『あ』

「…勝負は互いに3勝ずつとなりましたので、奴良菜也は本日の勝者に基づいて沢田側の元へ行ってください。」

『あ、はい…
えーっと…お世話に、…なりました?』

「ししっ 何で疑問系なんだよ下僕のくせに。」

『誰が下僕だクソ王子。…うわっ!?』


クソ王子と言ったのが気に食わなかったのだろう。ヒュンと投げられたナイフを避ける。そしてチェルベッロに促されるまま、ヴァリアーの元を離れて沢田達の元へ行った。


「おっ、帰ってきたな。」

「奴良さん! よかった…元気そうで。」

「ははっ、おかえり!」

『皆ボロボロだねぇ、ただいま〜』

「けっ…こっちは死ぬ気で戦ってるってのに、暢気なもんだぜ。」

『相変わらずキャンキャン吠える駄犬だな。』

「んだとぉ!?」


予想通りのお出迎えありがとう。
久しぶりだってのに早速獄寺を殴りたい気分だよ。怒る獄寺に沢田はビビり、山本はヘラヘラと笑って獄寺を宥める。そして良平先輩はガオーと相変わらず熱い感じ。
懐かしいなぁこの感じ。
そう思っているのも束の間、チェルベッロにより明日が最期の守護者対決…雲の対戦であることが発表された。


「おいXANXUS どーするんだ?
次に雲雀が勝てばリングの数の上では4対3となり、既にお前が大空のリングを手に入れているとは言えツナ達の勝利は決定するぞ。」

『(そういえば…そうだな。)』

「そん時は約束通り負けを認め、後継者としての全ての権利を放棄するんだろーな。」

「当たりめーだ。ボンゴレの精神を尊重し、決闘の約束は守る。雲の対決でモスカが負けるようなことがあれば、全てをてめーらにくれてやる。」


リボーンの問いに、口角を上げて答えるザンザス。
ここ、勘違いしちゃ駄目だよ。
ニッコリ笑ってるわけじゃないからね、ザンザスは。何やら悪いこと考えてますって感じの笑みです。分かり易く言えば、悪代官の笑み?

けど、ここまでハッキリ言うということは…2つ考えられる。
1つは、モスカがとてつもなく強く、ザンザスはモスカが勝つことを確信していること。
もう1つは、モスカの勝ち負けに関係なく、事を有利に運ぶタネを仕掛けてあること。


『んー……骸の口ぶりからしてきっと後者かなぁ。』

「ぬ、奴良?」

「誰と話してんだ?」

『…いや、何でもない。
そうだ、私ちょっと急いで帰らなくちゃいけないから。先に帰るね!おやすみ!』


オイと後ろで私を呼ぶ声が聞こえるが…無視だ。
別に用も何もないけれど、何だか一緒にいるのが 少し息苦しかったんだ。

だってさ、私の立場ってちょっとツラくない?

正直、戦わなくてすむのはありがたい。
でもさ、ヴァリアーとは『どうも〜お邪魔します〜』的な関係でしょ。沢田達は…私のいない間に「ヴァリアーに勝つぞ!」って一致団結してる。そこで敵側にいた私がノコノコ帰ってきてさ、一緒に『ヴァリアーに勝つぞ!』なんて同じテンションできるわけないじゃん。


『はぁ…何だかなぁ……』


ヴァリアーにいた時はこんなこと一切悩んでなかったのに…。というか最早ヴァリアーライフを楽しんでたけどね。
そんなことを思いながら、目の前の玄関をガチャッと開ける。私が帰ってくることを知らないから、勿論お出迎えはない。
…と思ってたけど、


「お帰りなさ〜い」

『お母さん…まだ起きて…』

「菜也〜!! Welcome back!!
オレ…オレすっげぇ淋しくて爆発するところだったんだぞ!!よく帰ってきたなぁ!!」

『た、ただいまお父さん…爆発しないで良かったよ…』


ニコニコとお出迎えしてくれたお母さんと、私が帰ってきたと「うおおおおお」と謎の雄叫びをあげて喜ぶお父さん。そして次々に、お帰りなさいませ、と言ってくれる藤組の皆。
皆の顔を見てると、何だか胸の辺りがホッコリした。


『…やっと帰ってきたんだなぁ…
ただいま、皆!』


明日は雲の対戦、そして明後日は大空の対戦があるけれど…今日くらいはいいよね。
せっかく家に帰ってきたんだ。
今日は何もかも忘れて、ぐっすりと眠らせて貰おう。

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