Sランクの報酬3倍分


『ベルってさ……まさかのドM?』

「は?
…オレがドMかどうか、確かめてみる? ししっ」

『や、結構です。』


ギラッと銀色に光るソレを構えて、ベルはししっと笑う。
ソレとは何か。ベルのオリジナルナイフ…ではない。
私の長刀だ。しかも妖怪のみを斬る桜刀の方。


『だってさ、妖刀っていくら人間を斬らないとはいえども、斬られるような痛みはするはずだよ。』

「お、マーモン、これ見ろよ。
痛えのに斬れてないんだぜ、面白ー♪」

「…へぇ、そんなのがあるんだね。ちなみにそれで菜也を斬ったらどうなるんだい?」

『死ぬよ!
じゃなくて、痛いのに何度も自分の腕を試し斬りするとかドMじゃんって言ってるの!!』


ーそう。
ベルは今、桜刀で何度も自分の腕を斬っている。そして傷一つない手品のようなそれを楽しんでいるのである。痛みよりも楽しみが勝つとか…コイツヤバくね?今更だけど。
改めてドン引きしていれば、傍に居たマーモンから大きく息を吸い込む音が聞こえてきた。
そしてー…


「ずびーーーっ」

『……鼻水すごいね。風邪?』

「粘写だよ、ほら。」

『うわ…汚なっ!
普通鼻かんだティッシュ人に見せる!?』

「ムムッ…ティッシュじゃなくてトイレットペーパーさ。」


ここにもドン引きなやつがいたよ。ネチャアとしたものを見せられた私は今とても気分が悪い。それなのにベルはそんな私達をゲラゲラ爆笑して見てるし…紅葉刀で刺してやろうかコイツ。


「ししっ、お前マジウケる。
…で? 見つかったの、相手の霧の守護者は。」

「相変わらずだよ。」

「やっぱ用意できてねーんじゃねーの?あいつら」

「それはないよ。僕の粘写を阻止しようとする力を感じるからね。」

『ちょっ、だから鼻水人に見せん……
あれ…鼻水が"cd"って文字書いてある…』


再びマーモンが見せてきたソレには、cdという文字が鼻水で浮かび上がっていた。…もしマーモンが鼻水を直接手で触ってこの文字を作ったとしたら…いや、そんなこときっとないはず。うん、ないない、そう信じよう。


「CD…何それ? 暗号?」

「さぁね。こんなことは初めてさ。どーやら相手は僕と同じ特殊な人間らしい。」

「うしし と・く・しゅ・ねぇ。
ま、いいや。オレとしては初公開のマーモンの力を見せてくれればさ。」


マーモンって特殊な人間なんだ…
まぁ、そうだよね。赤ちゃんなのに暗殺部隊入ってるんだし。つーかソレ言うならアルコバレーノって全員特殊な人間だよね。
…あれ、そもそも本当に人間なの?


「ただで見せる気はないよ。今晩の勝負も見物料くれなきゃ入れないし。」

「うわー何このチビ。ムカツク、殺して−。」

『……っ(ゾク)』

「やるかい?」

「退屈しててさ」

「だろーね」


脳が別世界へ飛んでいた私を、ベルの殺気が現実へと引き戻す。
あれれ、おかしいな?
いつの間に2人ともこんな殺る気満々になっちゃってんの。今晩はマーモンの戦いだよね、怪我しちゃ駄目だよね。やめようよ馬鹿共。
だが、私の心配は杞憂だったようで、ベルはクルッと踵を返して自室に戻っていく。


「ボスが近くにいなきゃなー」

『…ボスがいなかったらやってたんだ…』

「僕の口座にSランクの報酬3倍分ね」

「ふざけんな鼻タレ小僧」

『ぶっ』

「ちゃんと入金チェックするからね」


バタンと閉じられて、マーモンと必然的に二人きりになってしまった。
あぁ…それにしても、気になる。


『…ねぇ、Sランクの報酬っておいくら?』

「あげないよ。」

『いらねーよ! ただ聞いただけ。』

「それより君はいいの?
君の刀、ベルがまだ持ってるよ。」

『あっ、忘れてた!!』


マーモンを置いて慌ててベルのあとを走って追えば、いつの間にやら仕掛けられていたワイヤーに、足を引っかけて強烈な床とのキスをした。









そして、今宵もその時がやって来る。


「なぁ、何であいつ倒れてんの?」

『…さぁ…何でだろうねー。』


今宵は霧の守護者同士の対決、場所は体育館。
体育館の真ん中に立つ準備万端なマーモンに対して、沢田側の守護者は未だ現れない様子。というか何故か沢田は獄寺や山本達に囲まれて倒れている。
…あ、起きた。


「…ん?あれ?なんだっけ!?
何か大事なこと忘れてるよーな…」

「こっちの霧の守護者のおでましだぞ」

「あぁ!!そうだった!!」

「あ…あれ…? あいつらって…」

「ば…ばかな!! 何故こんな時に!!」


体育館に入ってきたのは城島犬と柿本千種だった。黒曜による並盛襲撃事件の時の人で、六道骸の子分2人。どうやら霧の守護者を連れてきたらしい。ということは…六道骸が霧の守護者か。


「クフフフフ 
Lo nego Il mio nome e' Chrome
Chrome 髑髏」

『あれ…六道骸じゃない……
…ってか今彼女何て言ってたの?』

「ししっ そんなのも分かんねーの?
My name is Chrome 髑髏 だってよ。」

『馬鹿にしてるの?
流石に英語は分かりますから。クローム髑髏ちゃんね。』


こっちがこんな話をしている一方で、沢田達は彼女を霧の守護者として認めるかどうかを揉めているようだ。反対してるのは主に獄寺で、沢田はまだ困惑している様子。

……あっ、クロームちゃんが沢田のほっぺにチューした。沢田顔真っ赤にして照れてるし。獄寺は激おこ。


「へーあれがね…
もっと仙人のじーさんみたいなのが出てくると思ったな。女かよ。」

『…それ言うならマーモンだって赤ちゃんだし。
私は獄寺が異常に怒ってる件に関してキモいと思ったな。』

「よ……妖艶だ………」

「……ししっ オレはあの女を見て発情してるレヴィ死ねって思ったな。」

『それ同感。』

「なぬっ!? 貴様ら…!!」


未だ騒ぎ続けている沢田達を見れば、どうやら意見はまとまったらしい。クロームが1人中央へと出てきた。


「今回の戦闘フィールドは体育館全てで、館内の何を使っても構いません。尚、このフィールドには特殊装置は用意されておりませんのであしからず。」

「観覧席は同じ館内の指定スペース内とします。嵐戦と同じように赤外線感知式レーザーが設置されてますので気を付けて下さい。」


今までの時限爆弾とかアクアリウムが嘘のように、ここには何も仕掛けられていないらしい。まさに、お互いの実力が鍵となる戦いだ。


「なぁ、賭けねぇ?」

『は? 何を?』

「マーモンが勝つか、あの女が勝つか。」

『賭けない。だってマーモンの戦うところも見たことないし、クロームちゃんとも初めましてなんだよ? 知らない奴に賭けるほど、私お金持ってないので。』

「ちぇっ これだから貧乏は。」

『私まだ学生ですので。親のお金で勝手に賭けをするような真似をしたくない良い子ちゃんなの。』


嘘くせーとベルが笑うや否や、
チェルベッロの声が体育館中に響き渡った。


「それでは霧の対戦
マーモンVSクローム髑髏 勝負開始!!」

『(フフン。いくらか知らないけど、Sランクの報酬3倍分のバトル…見せて貰おう!)』


Sランクの報酬3倍分…
この半分は私の分の金額だということを、隣に立つベルは知らない。




(『マーモン。Sランクの報酬3倍分ってどれだけ高いの?』)

(「ハァ…君まだそれを言ってるのかい。言っとくけど、3倍分の半分は君の分だよ。」)

(『は?』)

(「でも勿論君は払えないだろう?だからベルに君の分をつけてるのさ。本人は知らないけどね。ちなみにレヴィにはボスの分をつけてるんだ。」)

(『…あれ?ゴーラ・モスカはただでいいの?』)

(「………あれは別さ」)

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