妖怪の血


「菜也の言った通り、刺客は主犯の3人組だけじゃなかったようだな。ディーノの情報によると、コイツらは骸と一緒に脱獄した連中だ。3人以外の消息は途絶えてたんだが…まさか骸のもとへきてたとはな。」


リボーン曰く、脱獄は六道骸、柿本千種、城島犬の3人組とさっきのM・M、バーズ、双子で行われたらしい。でもようやくこれで骸以外の全員は倒したわけだし、後の残りは目覚めたらしい柿本千種と六道骸だけになるだろう。
そう考えてるのは沢田も同じようで、キョロキョロと辺りを見まわして不安そうにしている。


「もーいないよな……」

「いるわ。隠れてないで出てきたら?
そこにいるのは分かってるのよ、こないならこちらから行くわよ。」


ポイズンクッキングを片手にそうすごむビアンキさんの先には、たくさんの木が生い茂る森。
どうやら木の陰に隠れているようで…ビアンキさんの言葉に、怖ず怖ずとその何者かは表へ出てきた。


「ま、待って…僕だよ」

「フゥ太!
よかった、元気そうじゃんか〜!もう皆いるから大丈夫だぞ。さぁ、一緒に帰ろーぜ!」


ランキングが書かれた本を大事そうに抱えているフゥ太は確かにどこも怪我がなさそう。
だが…


「来ないでツナ兄。僕…もう皆のもとへは戻れない。僕…骸さんについていく……」


最後にさよならと言葉を残し、森の奥へと走り去っていった。


「な、何言ってんだ……?
待てよ! おい、待てってフゥ太!!」

『……?』


そんな何処か様子のおかしいフゥ太を追い、沢田も森の中へ向かって走ってゆく。
どうしたんだろう…リボーンから聞いてフゥ太はてっきり人質になっているのだと思ってた。でも本当に人質なら、何で沢田にお別れをしたんだろう。普通なら「助けに来てくれたの!?」って喜びそうなのに…。


「どーなってんだ?」

「10代目! 深追いは危険です!!」

『…危険…?
……ぁっ……、待って沢田!』


獄寺の言葉に、嫌な想像が一気に思い浮かんだ。慌てて沢田の後を追いかけようとすると、目の前を凄い勢いで何かが通り過ぎる。ついでドゴォンという音をたてたソレを見れば、そこには折れた鉄柱があるではないか。
鉄柱が飛んできたということは、誰かがそれを投げてきたということだ。


『(誰…?)』

ザッ…

「!」

「(黒曜中の制服……!)」

「(次の刺客か!)」


現れた新たな敵に慌ててコッソリと明鏡止水を使って、その場を去る。さっき鉄柱を投げてきたのは、私達に沢田を追わせないため。だから沢田の前ではなく、私達の前に鉄柱をぶん投げたんだと思う。
そしてわざわざ追わせないようにするのは…


『沢田っ…深追いするな!
多分罠だ!骸は、フゥ太を使ってお前をおびき寄せるつもりだよ!!』


ガサガサと生い茂る草木を分け、森の中を走り回る。フゥ太を呼ぶ沢田の声を頼りに向かって行けば、ようやく発見した沢田の姿。ホッとしつつも急いで沢田のもとへ駆け付けると、そこには沢田だけでなく黒曜中の制服を着た知らない男がいた。


『…っ、下がって沢田!
私がコイツを足止めする間に早く逃…』

「ま、待って奴良さん!
この人は黒曜中の被害者なんだっ!!」

『…あ?』

「ひいっ! 
だ、だから…この人も六道骸に捕まってるんだって!」


あたふたとそう弁解する沢田を見れば、本気でそう言っているようだった。でも沢田が騙されてる可能性もある。そこでチラッと相手を見ると…うーん…確かにニコニコしてて優しそうな顔をしている、かも。


「貴女もありがとうございます!助けに来てくれたんですよね!いやぁ助かったー、一生ここから出られないかと思いましたよー!」

『は、はぁ…』


ホッと胸をなで下ろすその人は本当に優しそうな顔をしていてる。それに脱獄した囚人らの写真の中にこの人は映っていなかった…てことは、本当にこの人は被害者なのかもしれない。
そんな私の心配を余所に、この男と沢田は仲良さげに話し始めた。


「それにしても凄いな〜、やはり選りすぐりの強い仲間と来られたんですか?」

「いや…あの、女の人と赤ん坊もいたりするんですけどね…。(言っちゃった!!)」

『沢田、(何言ってんのよ馬鹿!)』

「え…赤ん坊? こんな危険な場所にですか?」

「えぇ、まぁ…あいつは例外っていうか…。」

「へぇー凄い赤ちゃんだなー!
戦うと物凄く強いとか?」

「まっまさかー!赤ん坊が戦うわけないじゃないですか−!
…いや実際今回直接戦ってくれたらどんなにいいかとは思うんですけどね…」

「というと間接的に何かするんですか?」

『!!
 …沢田ッ……』

「え…まぁ…詳しくは言えないんですが…
あ、そーだ!それより雲雀さんっていう並中生知りませんか!?」

「ここのどこかの建物に幽閉されています。」


えっ…雲雀さん来てんの!?
てゆうか幽閉ってそれ、あの雲雀さんが負けたって事じゃないの!? 
あの雲雀さんを負かすということは六道骸は並大抵の強さじゃない。正直舐めすぎていたかも…。
ーいや、そんなことより今は…目の前にいるコイツから逃げなければ。


「やっぱりここにー!
どこの建物か分かりませんか!?」

「今質問してるのは僕ですよ」

「え…?」

「その赤ん坊は、間接的に何をするんですか?」

「ひっ…(目…目が…!
っていうか、何か感じが変わった…!!)」

『……ッ!!』


コイツ…やばいかもしれない。リボーンのことをしつこく聞いてくる時から違和感を感じてたけど、今になって本性を出してきた。
さっきまでは普通に両目とも綺麗な青色をしていたのに、急に右眼が紅くなった…しかも右眼にだけ「六」という文字が眼球にある。


「そーだ!はぐれちゃったから皆の所に戻らなきゃ!また友達と来ます!じゃあまた!」

「クフフフ…」

『………………』


私が警戒態勢に入っていれば、沢田は一気にそうまくし立てて走り去っていった。何というか…ある意味羨ましいわ。私は蛇に睨まれた状態で動けないってのに。


「君も行かなくていいんですか?」

『……行きたいのは山々なんだけどね…あなたの後ろにいる子を置いていくのは忍びないからさ。
それに、後ろ向いた瞬間、ヨーヨーであの攻撃されたりしたら嫌だもの。』

「クフフ…気付いてましたか。」


いつからかは分からない。けれど、彼の後ろにある木から出てきたのはあちこちに包帯を巻いてある柿本千種…それと本を大切そうに胸に抱えるフゥ太だった。私がここに来たときには彼らの気配は全くしなかった。なのに、途中で急にその気配が<現れた>のだ。
まるで明鏡止水を解いた時のような…元からそこにいたように2人の気配が現れた。しかも目の前の男の雰囲気も変わるし…何が何だか分からない状態だ。ただ、1つだけ確信できるのは…


『あなたが誰かは知らないけど、あなたも六道骸の一味でしょう?』

「クフフフ…ご名答。君は随分と変わった人間ですね。」

『そりゃどーも。』

「ところで先程のバーズとのやり取りを見させて貰ったのですが…その刀には一体どんな秘密があるんです? 彼を紛れもなく刺そうとしてたということは…その刀に何らかの仕掛けがあるんじゃないですか?」

『!』


男が指差すのは私の持つ刀。取られまいと人斬り<紅葉刀>の方を抜刀して構えれば、後ろにいた柿本千種がヨーヨーを構える。一方、彼はそんな柿本千種に「大丈夫ですよ」とひと言告げた…私が抜刀しているのにも関わらず、随分と余裕そうにだ。


『……ムカつくやつ。
取りあえず、フゥ太君は返して貰うから!』


刀を男に向かって振るえば、それは三叉槍によって防がれる。キンッという金属のぶつかり合う音を数回鳴らしたところで、今度はギギギ…と互いの武器を押し合う音が鳴った。
そして、せめてもの救いは柿本千種がこの男に加勢しないことだななんて思っていたのが私の痛恨のミス。気が付けば蓮の蔓が体中を締め付けていて、身動き取れない状態になっていたのだ。


『何を……した……!?』

「クフフ…さぁ、何でしょうねぇ。」


段々痺れてきた手は刀を持てなくなり、遂にカランとそれは手から滑り落ちた。それを男は拾い上げ、興味深そうに見ながら感嘆の声をあげる。
そしてー、


『……ッ…』

「なるほど…これは面白い刀だ。」


両方に刀身がついてることに気付いた彼は、それぞれ自分の指を少し切ることで試していた。もちろん<紅葉刀>では指から一筋の血が流れたが…<桜刀>は妖怪のみを斬る刀だ。よって、血は流れることなく…彼は酷くそれに興味を持っていた。


「…なるほど。だから貴女はバーズとのやり取りでも強気に出られたのですね。これで彼を斬れば、彼は傷付くことないと…。」

『…そうよ、だから何だって言うの。返しなさいよ!』

「問題は…どうしてこんなものを持ってるか、ですねぇ?」

『……!』


キラッと輝く刀身は妖刀<桜刀>のもの。その切っ先を私へと向けながら、彼は無邪気な顔で楽しそうな笑みを浮かべる。
その表情に、私の背筋を冷や汗が伝うのを感じた。

…刺される…
でも…私は今は人間だから、きっと大丈夫…。
リクおじちゃんだって…人間の時は祢々切丸で斬られても何ともないって言ってたし。
きっと私も……


『…………ゴフッ…………な、…んで……?』


口から溢れる苦くて赤い液体に、腹周りに感じる熱と痛み。効くはずのない刀が私に効いているというのを理解するには…充分過ぎるものだった。


『……ぅ、……ぁああ…ッ…!!』

「これは……」


血じゃないナニカが体全体から抜ける感じ。痛くはないけど、コレを失ったら私のナニカが死ぬような…恐ろしい感覚がする。刀を抜こうにも蔓に縛られてるため身動きが取れない。

……誰か助けて…

その言葉すら出せなくて、ただ森の中から空を見上げることしかできない。しかも目蓋が重たくなってきたため、徐々に視界が狭まってゆく。


『(……寒、い…?)』


最後に、
体温が下がっているのか、それとも急に冬がやって来たのか…体中が急な寒気に襲われる中、意識を失う前に私の視界に映ったものは…晴天の中浮かぶ小さな白い綿のようなものだった…。

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