城島犬


『ボー、いい?
もし私が死にそうなピンチに陥ってたら、私と刀を凍らせて氷のオブジェを作ってね。』

「ボー! 
……ボッ!??」

『怪我しそうとかそんなピンチの時は要らないけど、本当に命落としかねない時にだけよろしく。できるだけ硬い氷でね。
あ、でも隠れてやるんだよ? もしボーちゃんが見つかったら大変だもの。』

「……ボー!」

『ふふ、ありがとう!』


ふよふよと空を浮いて私の隣を行くボー。彼(彼女?)は凍夜兄ちゃんが作った妖怪だけど、小さくて綿毛みたいなものだから戦うことはできない。けれど、雪女みたいに凍らせることはできるから…いざという時には役に立つ。空も飛べて目立ちにくいこともグッドポイント。


『あ、もうすぐ沢田家に着くから隠れててね』

「ボッ」


ボーちゃんはコックリと頷き、気配を消すように体の色彩を薄めて空高く飛ぶ。
これで誰にも見られないだろうと安心し、そのまま曲がり角を出ると沢田家に到着。どうやら準備万端なようで家の前にて皆集まっていた。
……ていうか、


『何で獄寺いんの!?』

「ああ!? オレがいちゃー悪いのかよ!!」

『いや、大怪我してたのに……あんた馬鹿!?』

「誰が馬鹿だ! あんなもん屁でもねぇよ。」


そうは言ってるけど…顔色悪いぞニコチン中毒者め。だが確かに10代目ラブな獄寺が大人しく待機するはずもない。
そんな獄寺が姉として心配なのだろう…ビアンキさんも一緒に黒曜中討伐に参加するようだ。結局メンバーはというと…沢田、獄寺、ビアンキ、山本、私、そしてリボーンだ。

そんなこんなで私達は敵のアジトらしい黒曜ランドへ向かっているのだが…
……うむ、何か心配になってきたぞ。


『(獄寺があまり戦えそうにない今…ちょっと不安かも。いや、でも…リボーンがいるんだし、何とか死ぬ気弾で沢田が……)』


そう、心配なのはこの面子だ。獄寺と山本がいるのは心強いけど…それでも獄寺は弱ってる。ビアンキは…ポイズンクッキングの技は恐ろしく強いのだが、銃の腕は壊滅的。
そんな私の考えを勝手に読んだのかもしれない…さっきまでビアンキの腕の中にいたリボーンがぴょんと降り、今度は私の肩の上に乗ってきたのだ。
そしてー


「そういや今回の件はツナへの指令だからオレは戦わねーぞ。あと死ぬ気弾も残り1個しかねぇから、ツナはいつもに加えて頼りにならねぇからな。」


とんでもない問題発言をしやがった…………!!


『……は? どうせ戦わないのは予想ついてたけど、死ぬ気弾が残り1発ってなに。どゆこと。』

「死ぬ気弾の弾はレオンが体内で生成してんだ。だがそのレオンが今は尻尾が切れて睡眠中だ。まさかこんな事になるとは思ってなくてな…ストックが全くねぇ状態なんだ、残念だったな。」


てことは、だ。ぶっちゃけ沢田が役に立てるのはワンチャンスだけってことじゃないか。
それ即ち、他の者が頑張ってせっせと戦わなくちゃならないってことじゃないかい!


『……うへー……お母さんに戦い方習ってりゃ良かったー』

「実戦で身につけてきゃいーじゃねーか。ガンバ☆」

『他人事だと思いやがってこのモミアゲチビ。』


リボーンにモミアゲを引っ張られて痛いなう。
若干涙目になりながらも足を進めていれば、ようやく着いた黒曜ランド。昔は大きな娯楽施設だったらしいが、一昨年の土砂崩れで完全なる廃墟と化したそう。


「正面突破よ、ポイズンクッキング溶解桜餅!」

『…………。』


正門は閉ざされており、鍵もかかっている。だがビアンキさんの前にはそんなの通じない。紫色の煙を発する食べ物を鍵にぶつけてジョワアァ〜。
鍵がドロドロに溶けたことで、無事進入成功した。
そしてしばらく歩いて行けばー、


「何か来るぞ…!」

「うおっ……!?」

「や、山本ぉっ!!」

『……!?』


何者かの急な襲撃により、山本が地ベタへと勢い良く転がった。それだけならまだしも…どうやらそこは土砂崩れで埋もれた旧植物園の上だったようで、衝撃による天井落下により落とし穴の如く山本は落ちていったのだ。
そして、山本を追うようにして同じく穴へ落ちたのは…黒曜中の制服を着た男。


「カンゲーすんよ、山本武。
柿ピー寝たままでさー、命令ねーしやることねーし超暇だったの。そこへわざわざオレの獲物がいらっしゃったもんな。超ハッピー。」


柿ピーって誰だよ、美味しそうな名前しやがって。
それにしても山本が獲物ってことは…こいつが犬ってやつかな? さっき獄寺が戦ってた相手は「お前は犬の獲物」って言ってたし。


「上の人達はお友達〜? 首を洗って待っててねーん、順番に殺ってあげるから。」

「ヒイッ!?」

『…ベロ出してて本当に犬みたいだね。阿呆面だし。』

「てめぇ何呑気なこと言ってんだ!」


そんなこんなで山本VS犬(仮)の戦いが始まったのだが、結論から言うと山本が勝利した。もちろん無傷でとはいかず、山本は左手を犠牲にすることで勝利をおさめたのだ。
野球命な山本が腕を自らなくすなんて信じられないことだったけど、それよりも驚いたのはあの犬(仮)だ。普通に人間だと信じて疑わなかったけれど、奴の戦い方は人間離れしていてつい疑ってしまった程だ。


『……入れ歯を入れ替えると色んな動物の能力を発動する、か。』

「どーした、菜也」

『…理解できないんだわ。チーターの歯を入れたら身体能力がチーターに、ゴリラの歯をセットしたらゴリラになるなんて…そんなの普通の人間にはできないはずよ。
…でも、妖気は感じられない。間違いなくアレは人間なはず、……だけど……』

「……今は深く考えてる暇ねーぞ。次に行かなくちゃならねぇからな。」


何かが引っかかる。
まぁリボーンの存在が最早異常だし、今更常識を訴えても意味ないけど…。でも妖気も何もない普通の人間がこんな特異な能力を持ってるなんて…うーん…。
そんなことを悶々と私は考えていたが……どうやら他の者は何も気にならないらしい。山本なんか「おもしれー手品だったな」なんて笑ってるし…お前らの感覚はおかしいと思う。
それはともかく、
一応敵の1人を倒したわけでひと段落。ビアンキさんが山本の怪我の手当てをしてる一方で、リボーンは1枚の写真を取り出しながら話し始める。


「ディーノの情報によると今倒したのが主要メンバーの城島犬だ。この写真を見てみろ。」

「こ、これが敵の3人組!?」

「あぁ、真ん中の奴が六道骸…主犯だな。」

「左の奴は商店街でオレを襲ってきたヨーヨー野郎ッスね。名前は…柿本千種か。」

「てーことは…後は残り2人なんだな!」

『でも柿本千種は獄寺がボロボロにしてたし…実質残りは六道骸1人じゃない?』


案外サクッと終わっちゃうんじゃ?
そう楽観視するも束の間、先程山本が落ちた旧植物園の中から馬鹿にしたような笑い声が聞こえてきた。


「ププッ! めでてー連中だぜ!」

「アニマルヤローだ。」

「さっきまで完璧に気絶してたのにー!」

「ひっかかったなー!お前達に口割らねーためにオポッサムチャンネル使ったんだよん!」

『…リボーン、オポッサムチャンネルって何?』

「オポッサムは死んだふりをするのが得意なネズミみてぇなもんだ。」


へー、なるほど。そんな動物がいたんだ。というかリボーンって殺し屋なのに何でこんなに博識なんだろう。むしろ殺し屋だからなのかな、知らないけど。


「でもよーく考えてみたら、お前達に何言っても問題ないじゃん! ぜってー骸さんは倒せねーからな!全員顔見る前におっ死ぬびょーん!!」

「んだと、砂まくぞコラ!!」

「甘いわハヤト」

ヒョイ

「あ」

ヒューン…………ゴッ!!

「キャンッ」

「ヒクヒクしてるけどあれも死んだフリかしら」

『もう1個落としてみます?』

「ハハハハ! ビアンキさんと奴良って息合うのな!」


ビアンキさん、あなたステキです。
砂まくぞなんて幼稚な脅しをする獄寺に対し、脅すどころか無言実行するあなたを尊敬します!
しかも城島犬は脱走できないように岩に括り付けられてるからね。避けようがないのを知ってて重くてデカい岩をこんな高いところから下の城島犬に向かって落としたからね。
普通あれされたら死ぬわ。


「だが奴の言うとおり六道骸を侮らねぇ方がいいぞ。奴は幾度となくマフィアや警察によって絶体絶命の危機に陥ってるんだ。だがその度に人を殺してそれをくぐりぬけてきてる。脱獄も死刑執行前日だったしな。」

「この人何してきたのー!?
てか六道骸ってやっぱ怖えー!!」


確かに写真の六道骸って顔が怖いわ…残虐そう。
それにしてもマフィアからも警察からも追われてるってどんな状況なの? 沢田じゃないけど、本当何をしたらそんなことに遭うのか不思議でたまらない。
でもそれはまぁ六道骸に会ってみれば分かるかもしれない。気になるのはむしろ…


『ねぇ、リボーン。さっき敵の写真見せてくれたけどさ…この写真以外にも敵はいるんじゃないの?』

「えっ、そうなのか!? リボーン!!」

『さっき城島が言ってた。骸を倒せないって。その後、骸の顔を見る前に死ぬって言ってたけど…敵が3人ならそれは不可能だと思うの。柿本千種って男もボロボロだし、こっちの方が人数多いから。
でもさっきのあの口ぶりからすると余程自信があるみたいだったから……』

「……確かに、その可能性もねぇとは言い切れねーな。」

「そ、そんなあぁ〜!!!」


あーぁ……何でこんな面倒なことに巻き込まれてるんだろう、私は。
気を緩めずに行くぞというリボーンの言葉に、ぞろぞろと再び歩み始める私達だったが…


『(面倒だなぁ…私もオポッサムやって帰りたい…)』

「(ヒィ〜怖いし早く帰りてぇ〜!!)」


中でも2名…
理由は違えど帰りたいという同じ願いを持つ者が2人もいたことを、誰も知らなかったー。


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