己の武器
「菜也、お前武器持ってるのか?」
『……………カッターとハサミなら持ってる。』
「…一旦家に帰って武器を取ってこい。今から敵のアジトに乗り込みに行くぞ。」
『あれ、私もそれ強制参加?』
獄寺を保健室に運んだ後、今度こそ帰ろうと学校を去れば、それは現れた。
リボーン…君はどうしてそんなに神出鬼没なんだ。我らぬらりひょん一族よりも神出鬼没じゃないか。
「ついでに言っておくが…今回はツナ自身の手で決着をつけなくちゃならねぇ。アイツの成長のためでもあるが、そういう指令を9代目から貰ったんだ。だから藤組には手を出さねぇように鯉菜に伝えとけ。」
『じゃあ私も藤組だから自宅待機しても…』
「お前はボンゴレ兼藤組だろ。ボンゴレの同盟関係にある鯉菜達藤組とは違ぇぞ。残念だったな。」
この…クソ憎たらしい笑みを浮かべるな乳幼児が!
そんな心の叫びを何とか抑えた私は偉い。いやまぁ実際はチキンなだけですけどね。
取り敢えず、準備できたら沢田家に集合ということで一時解散。どうやら山本も行くみたいで、私同様一旦家に帰るそうだ。
『ただーいまー』
「あら…今日は随分と早いのねぇ。サボリ?」
『んーん、並中襲撃事件で休校になったの。
…それよりお母さん、武器…貸してくれないかな。』
「………まず理由を…」
「なりません!
断じて、なりませんよ!菜也様!」
『「陽炎……」』
で、でた〜…藤組で1番くそ真面目でうるさいやつ。お母さんとお父さんも割と親バカな方だと思うけど…陽炎は最早過保護過ぎなモンスターペアレントのようだ。せっかくクールでイケメンなのに、ここだけが致命的。
取り敢えず武器が入り用な理由を話せば、お母さんは何かを考え込んでいるようで…陽炎は相変わらず反対意見。ぷんぷんと怒り散らしていて、最早難攻不落な気がしてきた…どうしよう。
「お嬢がわざわざお手を汚しに行かなくとも、オレが行けば一瞬で片がつきます! なのでオレに行かせてください!」
『だからそれは…リボーンが駄目って。』
「そんなの知りません!
あのようなクソチ……赤子の言うことを聞く必要、オレ達にはないはずです!!」
今クソチビって言おうとしたよね。絶対そうだよね。
まぁ…気持ちは分からんでもないけど、でもリボーンの言うことを聞かないと私は脅される羽目に違いないのだ。具体的には妖怪のことをバラされたり、虫を大量に派遣してくるとかね。
それにしても…どうやって陽炎を納得させようかなぁと頭を悩ましていると、案外意外な人物のおかげで私は助け船を得られた。
「鯉菜様も反対ですよね! 訳の分からぬマフィアごっこに菜也様を巻き込み、挙げ句の果てに敵の陣地にまで向かわせるなど!!」
「……別にいいんじゃない?」
「そうですよね!
……って、鯉菜様あんた何言ってんですか!?」
キャンキャンと意義申し立てる陽炎が煩かったのだろう。お母さんは「ボー」とその名を呼ぶと、近くにいたらしいボーが一気に陽炎を凍らしてしまった。おかげで静かにはなったけど、部屋が少し寒いし不気味なオブジェができて微妙な気分だ。
「菜也、改めて問うけど…
何のために武器をいるの?」
『だからそれはー…』
リボーンに言われたから。
確かにこれは答えだけど、でも…この答えじゃきっとお母さんは武器をくれない。
お母さんは放任主義なようで、時々厳しいくらいに真面目になる。そして今…こうやって真剣に話をするってことは、武器を持つことがそれほど重大なことだからだと思う。
「菜也、あなたは任侠一家で生まれ育ったから…武器なんてどれも見慣れてると思う。だから武器を手に持つってことを、軽々しく行ってはならない。」
『別に、私は軽々しく……っ……』
そこでハッと気付いた。
私はリボーンに武器を持ってこいと言われたから、言われたままにそうしようとしていた。
でもそれは…あまりに軽はずみなんじゃないだろうか。
「…武器を持つってことは戦うってこと。
戦うってことは、誰かを傷付けることよ。そしてそれは時に誰かの命さえ奪ってしまう…。
そこまでして、
…あなたに戦いたいと思わせるものがあるの?」
『……戦いたいと、思わせるもの……』
それはつまり、何のために戦うのかってこと。
……何のため?
武器を持とうとしたのは、リボーンの発言がきっかけ。
じゃあ…その手にした武器で私はー?
『……止め、たい…』
「何を?」
『これ以上、並中生が襲われないように、敵を…
黒曜中の犯人を止めたい!』
「……そのためには?」
『戦って…勝つ!!
そのためにも、武器を貸して欲しい!』
正直言って、並盛の平和のためだとか、沢田のためとか一切思わない。そこまで私は正義感溢れるようなヒーローでもないし、お人好しでもない。
でも…京子ちゃんのお兄さんが襲われて、京子ちゃんが泣いて、花ちゃんもそれで元気なくすなんて嫌だ。獄寺が大怪我して学校が静かになるのも…今更過ぎて何だかつまらない。
『正直、ケンカとか戦ったことないから倒せないかもしれないけど…それでも私に何かできることがあるならば、手伝いたい。』
「……そう……」
一通り自分の想いを吐き出せば、お母さんが静かに溜め息をつく。その溜め息は別に嫌なものではなく、むしろ…どこか嬉しそうなように聞こえた気がした。
「…まぁ、いつかこんな日が来るかもしれないと思ってたけど、ね。
菜也は使いたい武器とかもう決まってるの?」
『…ううん。正直自分に何が合ってるのかも分からないし、何を使えこなせるかも分からない…』
「そっか、そうよね。
じゃあ…無難に刀はどう?」
『刀?』
首を傾げる私に対し、お母さんはニコニコとして「あれ持ってきて」と小妖怪に告げる。言われた小妖怪らは力を合わせ、せっせと1メートル程度の箱を運んできた。
開けてみてごらん?
そう言われたためドキドキとしながらも蓋を開けると、そこにあったのは一風変わった刀だった。
皆の使う刀よりも、随分と全体的に長い。
しかもー、
『これ…どっちが刀身!? 柄というか…縁みたいなのが真ん中にあるから分かんないんだけど。』
「縁?……あぁ、鐔のことね。
それ両方とも刀身だから、鐔が真ん中にあって長いのよ。」
『ええっ!!?』
何ということでしょう…!
まさか、両方とも刀身だとは。じゃあこの鞘から抜けば…
『お、おおっ…刀だ。』
「それが妖刀・桜刀。」
『へぇ…名前あるんだ。あ、刀身に桜が彫ってある。洒落てるね、可愛い。
こっちは…』
「そっちは人斬り・紅葉刀。」
『…なんか今物騒な単語が聞こえたけど、こっちは紅葉が彫ってあってお洒落ー!』
「花開院、知ってるでしょう?
そこ1番の刀作りの秋房くんに頼んでおいたのよ。いつか菜也に必要になった時のために…ね。」
『お母さん……』
ずしっと少し重みのある刀はずっと使われずに仕舞ってあったのだろう。曇り一つなく光り輝いている。
お母さんの想いにジーンとしながらも、私は先程気になった単語について聞いてみることにした。
『お母さん、さっき妖刀と人斬りって言ってたけど…』
「あぁ、それね。妖刀は人間を切らずに妖怪だけを切る刀よ。今はリクオか凍夜のどっちが持ってるかしらないけど…祢々切丸みたいなものね。
人斬りは逆に妖怪を切らずに人間だけを切る方法よ。」
『…妖刀はまぁ、使い道なんとなく分かるけど。人斬りの…その、妖怪を切らずに人間だけを切るってどういう時に使うの?』
「………さぁ?」
『さぁ!? え、じゃあ何で……』
「いや、取り敢えず人間も切れる刀が一応欲しいなぁって思ったんだけど…
秋房くんに<妖刀と反対なものをセットに作っちゃって!>って適当に言ったらこうなったんだよね。」
『じゃあ普通の妖怪も人間も切れるもので良かったんじゃ…』
「まぁまぁ、いつか役立つ日が来るかもしれないしいいじゃない! でも達也…お父さんには刺しちゃだめよ〜。」
『刺さないよ!!』
何というか…凄い刀なのに、何だろう。この脱力感というかずっこけ感は。口が引き攣るのを抑えられない。
でも取り敢えずは武器ゲット。お母さんとの話もそうだけど、陽炎との言い合いもあって随分と時間かかってしまったし早く沢田家に向かわなければ!
『じゃあ行ってきます! ありがとね!』
「はい、行ってらっしゃい〜!
あっ、せめてボーちゃんを連れてってー!」
『はーい!! 行こうボー、遅れちゃう!』
「ボー!♪」
手を振って見送るお母さんに、「無理はなさらずに…」と溶けかかった氷の中で言う陽炎。その他行ってらっしゃいの見送りをしてくれる妖怪達を目に焼き付け、私達は走り去った。
……初めて手に入れた、自分だけの武器を持って。
(「本当に良かったのですか?…護衛もつけさせずに。」)
(「あら、護衛ならボーちゃんを行かせたじゃない。」)
(「……それは……」)
(「それにさ、あの子がボンゴレに巻き込まれると分かった以上…あまりノンビリとあの子の成長を待ってあげられないのよ。
…早く、少しでも強くなって貰わなきゃね。」)
(「……ボンゴレを潰すのが得策では?」)
(「……それが手っ取り早いけど1番難しいわね。それに人類最強規模の任侠者を仲間に持っていた方が…こちら側としても幅が広がるわ。フフッ…」)
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