敵の標的
「10代目…!
逃げてください………っ!!」
「獄寺君、大丈夫!? 獄寺君!!」
煙と爆発音を頼りに商店街を歩いていれば、ようやく現場へとたどり着く。
その光景は異常なものだった。
血を流して倒れてる大学生くらいの男が2人…
黒曜中の制服を着たズタボロの男が1人…
そして、
沢田を庇ったのだろう。大量の血を流して、地に伏せている獄寺がいた。
『…な…何これ…』
「ツナ!!」
どうやら黒曜中の男は次に沢田をターゲットにしたようで、手にある何かを振るう。
あれは…ヨーヨー?
いや、違う。ヨーヨーから飛び出ている「何か」があいつの武器。その「何か」は沢田に向かって飛んでいくが、駆けだした山本のおかげでそれが沢田に当たることはなかった。
「フーッ、滑り込みセーフってとこだな。」
「山本ぉっ!!」
「今日学校が半日で終わってさ、通りかかったら並中生が喧嘩してるっていうだろ? 獄寺かと思ってよ…」
「! そうだ、獄寺君が…っ」
「あぁ、分かってる…
こいつぁ…おだやかじゃねぇな。」
『!』
ハッ…そうだ、ボーッとしてる暇ない!
今のうちに少しでも獄寺の応急処置をしなければ。
慌てて獄寺の元へ行くと、私も来ていたことに驚く沢田。「獄寺君が…どうしよう!」と慌てふためく沢田を無視し、自分の鞄の中からタオルと包帯を取り出していれば…
『…針?』
「え?」
先程沢田が立っていたところには、無数の鋭利な針が刺さっていた。どうやらヨーヨーから飛び出ていたのは針だったようで、それがあいつの武器だということだ。
…あれ、この針…
『……なんか…塗られてる………』
「ぬ、奴良さん!? 触ったら危ないよっ!!」
触った感じ、普通の針にはないようなべと付き感があった。臭いはないけど…何だろう、油?
でもヨーヨーに油なんて使わないよね…。
チラッと相手のヨーヨーを見ようと思ったものの、あっさりと山本が刀(バット)で壊してしまったため、それは叶わなかった。
そこですかさず「切ったー!つぅかいつからそのバット常備!?」というツッコミを入れた沢田の情報により…
「そうか…お前は、
並盛中学2-A 出席番号15番 山本武………」
「だったら何だ」
「お前は犬の獲物、もめるの面倒い…」
『(けん? …仲間の名前かな。)』
よく分からないけれど、何やら興味をなくした相手はずるずると足を引き摺りながら帰って行った。
ついで、誰かが通報したからだろう…お巡りさんらがやってくる。
「おい!しっかりしろ獄寺!!」
「獄寺君大丈夫!?」
『バッ…揺らすな!
多分、針には毒が塗られてる。あまり揺さぶると毒の巡りが早くなる。』
「そ、そんなぁっ!じゃあどうすれば…っ」
どうすれば…?
そんなの私が聞きたい。
お母さんを呼ぶ…?
でも…あの力はあまり知られちゃいけない。人間も妖怪も欲深い生き物だから、知れ渡ったら争いを生むし災いを呼ぶ。
じゃあ、病院へ連れて行く…?
マフィアだし、獄寺はダイナマイトを使っていたから事情聴取されるかもしれないけど…
ーいずれにせよ、治療が最優先だ。
『病院に……』
「ダメだ。」
「リボーン!
お前…今まで何処に行ってたんだよ!こっちは大変だったんだぞ!!」
「ちょっとディーノに情報を貰ってたんだ。
それより病院は危険だから保健室に行くぞ。あそこにはシャマルがいる。」
シャマルって…本当は殺し屋だけどあの変態な保健室の先生か。でも男は看ないって花見の時に言ってた気がするけど、大丈夫なのかな。
…それより、
『何故病院は危険なの?』
「奴等の狙いがツナだからだぞ。
獄寺がツナと繋がりがあるとバレた以上、ツナの情報を少しでも得ようとまた獄寺を襲いに来るかもしれねぇ。しかも獄寺が大怪我を負っていると敵は知ってるんだ…入院してるんじゃねぇかって病院にやって来る可能性がある。」
『なるほど…スッキリだわ。
てか敵の標的って沢田だったの!? てっきり好き勝手やってる風紀委員の雲雀さんに怒って喧嘩売ってるやつなのかと…』
「違ぇ、喧嘩売られてんのはツナだ。
被害者が歯を折られてるのは知ってるか?
奴等は歯でカウントダウンしてるんだ。そこでピンと来たんだ…こいつをみてみろ。」
ピラッと渡された1枚の紙には、並盛中の喧嘩の強さランキングが書かれていた。つーかこのランキングの紙ってフゥ太くんのじゃん。
「襲われたメンツと順番が一致してんだ。だから3位の獄寺が襲われ、次は2位の山本。そんで最後はツナだ。」
なるほど…。
ふむふむと話を聞きながらも、私達は並盛中の保健室へと足を進める。ちなみにリボーンが応急処置をして、山本が獄寺をおんぶして向かっております。
本当はカメレオンのレオンに担架になって貰いたかったのだが、どうやら今レオンは使えないようだ。
尻尾が切れて形状記憶の制御ができなくなっているとのこと…。ちなみに尻尾が切れるのは不吉な象徴らしい。リボーンも謎の存在だけど、リボーンのペットのレオンも不思議生物だ。
『でもさ、おかしくない?
さっき襲ってきた人の身のこなしからいくと、どうせ相手もマフィア関係なんでしょ。でも相手はフゥ太くんのランキング情報を持ってた。あれって…極秘情報だから絶対に手放さないし漏洩しないってフゥ太くん言ってたよ。』
それなのに相手が情報を持ってるのは、フゥ太くんが沢田達を裏切ったってこと? もしくは…最初から裏切るつもりで、沢田に近づいてたとか?
「……ここ最近フゥ太を見ねえ。憶測にしか過ぎねぇが、奴らに誘拐されて無理矢理吐かされたのかもな。」
『あ、そっちか。なるほど。』
恥ずかしい…裏切り行為しか頭に浮かばなかった。
そんな私をリボーンは見透かしてるのだろう…「フゥ太はお前とは違ってピュアだから、裏切りや騙すなんてことできねぇぞ」なんてニヒルな笑みを浮かべて言ってきた。
一言余計だっての!私だってまだそんな汚いことしてませんもんねーっだ。
「つ、着いたぁー!」
「今日が休校で良かったな。あんま人に遭遇しなかったし!」
「確かに! …普通こんな血だらけの人をおぶってったら注目を浴びそうなのに、全然気付かれなかったね。」
「ラッキーだな!」
『………………』
「サンキュー、菜也」
『しっ!(バレるでしょーが!!)』
何を隠そう……この私、ここまで明鏡止水でやって来たのだ!
獄寺の背に左手、獄寺と山本の鞄を持ち歩く沢田の肩にかかっている鞄に右手。そしてリボーンが私の肩に。この状態でずーっと保健室まで歩いてきたため、山本にも沢田にも気付かれることなく、明鏡止水で誰にも認識されずにいたのだ!
『(妖怪変化はまだできないけど、人間の姿のままでも力を使えて良かった…。まぁ、使えると言っても明鏡止水で姿を消すぐらいしかできないけれど。)』
あとは…
いつか治癒の力を持てるようになればいいな、と保健室のベッドで治療を受ける獄寺を見て思った。
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