襲撃


「正体は分かったの?」

「カラスの情報によると、犯人は2人の男子生徒だそうです。」

「…ふぅーん。並盛中の生徒?」

「いいえ、隣の町にある黒曜中学校の制服でした。学力も風紀もあまりよくなく、正直評判は良くない学校ですね。」


朝起きれば、いつもとは違い何処か騒々しい我が家。またお母さんとお父さんが痴話喧嘩してるのかと思いきや、お母さんが話してる相手は陽炎だった。


「どうなさいますか?」

「……そうねぇ。聞く限りでは、私達への恨みで動いてるわけじゃなさそうね。」

「はい。犯人からは妖気を感じられなかったとのことなので、妖怪絡みでの騒ぎではないでしょう。
ですが…気になることが1つございます。襲撃された被害者は全て並盛中の生徒、そして皆、歯を抜かれているのです。」

「は?」

「…親父ギャグですか?」

「違うわよ、燃やされたいの?」

「丁重にお断りさせていただきます。
……最初の被害者は歯を24本全て、次の被害者は歯を23本、そのまた次は22本というように…被害者の数が増えるにつれて、歯を抜かれる数は減っているのです。」


何だか朝から物騒な話をしているなぁ。にしても並盛中の生徒が黒曜中の生徒に襲われてるって…一体全体、並盛は黒曜に何をしたんだろう。凄い恨みを買ったに違いない…でないと歯まで普通折らないっしょ。


「…犠牲者は何人出てるの、今の所。」

「…19人、ですね。なので次また襲撃者が出るとすれば、5本の歯を抜かれるでしょう。」

「24+23+22+21+...+7+6は〜………えーっと…
285!! 計285本もの歯を抜いたのね!!!」

「……うえっ…何で計算したんですか。」


スマホの電卓にて算出した数字をドヤ顔で見せる我が母に、抜かれた大量の歯を想像してしまったのだろう陽炎は恨めしそうな目でお母さんを睨み付ける。何というか…話の内容に反してこの2人は賑やかだな。なんと不謹慎なこと。


『そんなに歯を集めて何がしたいんだろうね〜。おはよう、お母さん、陽炎。』

「菜也様もお気を付け下さいね、まぁ…私共が全力で菜也様を御守りしますけれども。おはようございます。」

「一応襲われてるのは男子だけだし…大丈夫とは思うけど、一応警備を強化させとくわね。おはよう、菜也。」


話は続けるけど、挨拶は忘れない!
それが私のモットーです!勿論嘘だけど。
テーブルの上に置かれた朝食に手を付けながら、私は何となく並盛襲撃事件のことを考える。仮に藤組頭首の娘である私が狙われてるならば、こんなまどろっこしいやり方はしないと思う。ヤクザからしたら、表沙汰にして騒ぎにしたくないだろうからね。
でも……


『ねぇ、お母さん。この騒ぎがどうして妖怪絡みじゃないって言えるの?
もしかしたら妖怪が黒曜中に扮してるかもしれないじゃない。妖気を上手く隠して。』

「………んー、どうしてって言われてもねぇ。
仮に妖怪絡みだとして、何で黒曜中に紛れ込むのかなって思わない?」

『何でって、隣町の中学だから攻撃しやすいんじゃ?』

「でもさ、忍び込むならもっと灯台下暗しのところがあるでしょう? ね、陽炎。」

「はい。私なら並盛中の生徒に扮し、菜也様とお近づきになりますね!」

『………あぁ、そっか。確かに黒曜よりも並盛中に紛れ込む方が動きやすいし、騙しやすいし、ある意味バレにくいよね。』


てか陽炎こっわ!!
お母さん、陽炎ってばめっちゃ良い笑顔でニコニコして言ってるけど……大丈夫だよね! 陽炎にお母さんは騙されてないよね!! 陽炎は基本優しいけど時々ブラックが入ってるから恐ろしいよ。


「はい、じゃあ朝のクイズのお時間です、ジャジャン! どうしてその隣町ボーイズは歯を抜いて行くのでしょーか!?」


当てたらご褒美に食後のデザートをあげる!だなんてゼリー片手にお母さんは言っちゃってるけど……母よ、それあなたの食べかけですよね。


『単純に歯を集めてるんじゃ………いや、違うか。』


単純に歯を集めるのが目的なら、全員の歯を手っ取り早く24本抜いていくだろう。それに並盛中を集中攻撃する必要もない。わざわざ抜く歯の数を減らすのには何かしらの理由があるはず。24本、23本、22本、21本……まるでこれ…カウントダウンみたい。
………カウントダウン?
もし、歯を抜くことでカウントダウンしてるのだとすれば……最後の人は………


『………最後…の、人………カウントダウン……』

「…何か分かった?」

『最後、歯を1本抜かれる人が本当の狙い。その人を襲撃するための…これはカウントダウンで、その最後の人は並盛中の生徒ってことじゃ…?』


答え合わせをするかのようにパッとお母さんを見れば、お母さんは悪戯っ子のような笑みを浮かべて「ついでにもう1個!」と指を立てた。


「どうして最後の人が、歯を1本抜かれる人だと思ったの? もしかしたら1じゃなくて0の人が最後かもしれないじゃない?」


確かに…それは私も思った。1本だけ抜かれる人が最後なんじゃなくて、0本抜かれる人が最後の人なのではないか。でも0本抜かれるってのは、要は歯を抜かないってことで…


『歯を抜かないってことは襲撃しないって事だと思う。でもそうなるとその0本の人は沢山いることになるから<最後の人>とは言えない。だから1本だけ抜かれる人が最後だと思ったんだけど…』

「フフッ、いいね! 上出来………」

『ハッ…でも、もしかすると、1が最後じゃないかもしれないっ! 1本だけ抜かれた人の次は、襲撃されたけど歯を抜かれなかった人になるかも…そしてその次の人は抜かれた歯を1本だけ無理矢理何処かに埋められる人かもしれない…!!』

「「………えっ?」」

『そ、そしたら………
そのまた次は2本歯を埋め込まれ……3本、4本、5本………最終的に24本の歯を埋め込まれて計48本の歯を持つことになる人が<最後の人>かもしれない!!』

「そ、それはないのでは………それだとカウントダウンがあまりに長すぎではありませんか。」

「……うん、最初の答えで合ってると思うわよ、菜也。(我が娘ながら怖ろしい深読みをしてくれるわね…)」


結局、犯人の狙いは歯を1本だけ抜かれる人であるとまとまった。そして今はその余興としてカウントダウンをしてるだろうとのこと。けれどまだ謎は沢山残っている。
例えば、
最後の人は誰なのか?
その人に犯人らは何の恨みがあるのか?
カウントダウンの犠牲者となった人達は無作為に選ばれたのか、それとも何らかのデータ・情報を基に選ばれたのか?
もし後者なら……次の5本歯を抜かれる人〜2本歯を抜かれる人は誰なのか?
まだまだ沢山疑問は残っているけれど、取り敢えずー


「それよりさ、菜也は早くご飯食べて学校に行かなくていいの? 遅れるわよ。」

『………朝からグロッキーなこと考えて気持ち悪くなったからもういらない…。』


さっさと用意をして学校へ行こう。

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