昇進話


夏休みに入り、流れるように夏祭りやお盆などの夏のイベントが過ぎ去って行く。今年の夏祭りは凍夜兄ちゃんと過ごし、その後のお盆には浮世絵町に帰ってお墓参りをした。
そんな私の一方で、並盛のメンバー達は…


『へぇー、海水浴に肝試しかー…
てか沢田って泳げるの?』

「当たり前だろーが!立派な努力の末、10代目は遂に素晴らしいクロールをできるようになったんだ!」

『(本当かよ……)』


相変わらず煩い忠犬こと獄寺によると、割と充実した夏休みを送れたようだ。
ちなみに私達は今街をぶらついてるのだが…これは決してデートではないことを理解していただきたい! 残念なことに偶然奴と遭遇してしまい、歩く方面が一緒だったことから隣を歩いているだけだ。


「………おい。」

『は?』

「気付かねーのか。」

『………? ……あ、誰かついて来…』

「うっせ! 聞かれんだろーが!」


私達の数歩後ろをコソコソとつけまわす人物。獄寺って沢田バカなだけかと思ってたけど…もしかしたら強いのかもしれない。言われなきゃ私は気づかなかっただろーし。
次の角で曲がるぞと言った獄寺に、内心『え、私は帰っちゃ駄目?』と思ったけれど…まぁ暇だし付き合ってやらんでもない。本当はただこいつがどこまでやれるのかを見たいだけだけどね!

そんなこんなで路地裏へと移動した私達。勿論ついてきてる者は後を追って同じく路地裏へやって来るわけで…


ガッ!

『うわ…』

ゴッ!

『…痛そ〜…』

「何だおめーら?
このクソ暑いのにうぜーんだよ。」

「ふががっ!」


やってきた奴等は2人の男で…獄寺は1人目の顔面を肘でお出迎えし、2人目の顔面には膝で歓迎をしていた。挙げ句の果てにダイナマイトを2人目の男の口に入れ、誰の指図か言えと脅している。


『(…どうしよう…これはちょっと、止めるべきなのかな…)』


一応我が家も任侠一家。そのため、こういう時には誰の指図かなど、情報を吐かせることの重要性は知っているつもりだ。
でも…


「オレだよ」


その黒幕であろう人物が知っている人で、しかも目の前にいるなら…脅す必要もないし獄寺を止めるべきかもしれないと思うんだ。


「んー、いーんじゃねーか。
なかなか適任だと思うぜ。」

「ディーノ!!」

『…お久しぶりです、ディーノさん。』

「よっ、元気にしてたか? 菜也。
にしても悪ぃな、怖い目に合わせちまって…」

『怖い目? 
…あぁ!大丈夫ですよ、いざとなったら獄寺を盾にして逃げるつもりだったんで。』

「んだとゴルァ!!」

「ハハッ! なら心配は要らなかったな!」


謎の男2名を尾行させたのはディーノさんで、どうやらさっきイタリアから日本に着いたらしい。なんでも獄寺に<良い話>を持ってきたとのこと。
折角なので、話をするという獄寺とディーノさんにお邪魔させて頂き、3人でファミレスに移動した。ちなみに、今日のディーノさんは部下もちゃんと一緒に居るしキリッとしてて格好いい…だなんて思ったのは私だけの秘密です!



「しょ…昇進?」

「あぁ。9代目からのお達しでな、ボンゴレ第6幹部に異例の大抜擢だ。2つのカジノと80名の部下はお前のもんだ。コイツはすげー話だぜ。」

「つーか待て!てめーはキャバッローネだろ!」


話を聞くに、どうやらボンゴレ9代目から獄寺に昇進の話が持ち掛けられたようだ。
にしても凄いな…2つのカジノに80名の部下って。本当にこの人達ってマフィアなんだ。
 

『(いやまぁ…私もヤクザだけど、さ。)』

「や…やったぜ!早速10代目に報告だ!」

「そーだな。そんじゃあ荷物まとめとけよ、明日にはイタリアに出発するからな。」

『…えっ、イタリア?』


まさかのイタリアでかよ。獄寺もそれは予想していなかったようで、「9代目じゃなくて10代目に仕えてんのに、何でイタリアに行かなくちゃなんねーんだ」と怒り心頭である。


「そんな条件ならオレは降りるぜ!」

「そーくると思ったぜ…大人になれよスモーキン・ボム。現在のボンゴレの繁栄がまわりにまわって、将来のツナのためになるんだ。」

「(10代目のため…!!)」

『(…でも沢田ってまだマフィアになんかならないって言ってるよね…拒否権ないのかな。)』


結論だけ言うと、獄寺はリボーンに相談をしに行くと言ってお店を去った。どうやら即断はできないようだ。まぁ…あの忠犬ぶりからしたら当然だろうけど。


「…菜也はどう思う。」

『へっ? な、何が…ですか?』


急に2人きりになったことと、話の内容でついついボケーッとしていた。突如話しかけられてビクッとする私に、ディーノさんは悪ぃ悪ぃと苦笑いして話し出す。


「獄寺のことだ。
あいつ…イタリアへ行くと思うか?」

『(あぁ…そのことか。)
…どうでしょうね。散々悩んだ挙げ句、結局最後には行かないって言いそうですけど。あれは稀に見る超忠犬な人間なので。』

「…ハハッ、だといーんだがな!」

『……あれ…
ディーノさんは獄寺の昇進が嫌なんですか?』


来なければいいと言うディーノさんに素朴に思った疑問をぶつければ、「あぁー…」と視線を逸らして答えに戸惑っている。これは何か…裏にあるな。


「実を言うと昇進ってのは嘘なんだ…」

『…………嘘って……………ぇ、嘘おっ!?何で!?』

「まぁ…あいつの忠誠心を試すテストみたいなもんだ。昔のアイツは誰にも懐かず悪ガキだったらしいからな…もし来たら殺すように命令されているんだ。」

『えっ』

「いや、もちろん海外へ逃がすつもりだぞ!?もしアイツが来たときにはな!」
 
『え、あぁ…うん…』


それはまぁそうだろうと思ってたけど…なんていうか、昔も今も大してアイツ変わんないじゃんってところに驚いたわ。


「まぁ…取り敢えず、一応これも9代目からの頼みだからな。悪いがアイツにはこのこと言わないどいてくれ。」

『(………何でだろう………なんか、ディーノさんからのお願いって、嬉しいなぁ…)
……じゃあ、アイス、口止め料代わりに頼んじゃってもいいですか?』


にやける口元が見えないようにメニュー表で隠し、悪戯っ子のようにお願いしてみる。一瞬きょとんとしたディーノさんだったけど、すぐに太陽のような笑みで笑って「どんどん食いな」って言ってくれた。流石にアイスは私とディーノさんで1個ずつしか頼まなかったけど、何だかいつもより数倍美味しく感じた気がする。


「ここのアイスも美味しいが、イタリアのジェラートはもっと美味いぜ! 来たら案内してやっから、いつかイタリアに遊びに来いよ。」

『絶っっ対に遊びに行かせていただきます!!』


約束をし、そんなこんなでだいぶ日が沈んできたためファミレスを出る。少し暗くなってきたことと家から遠いこともあり、家まで送っていくと言うディーノさんの親切心に甘え、私はディーノさんとその部下数人とで帰宅した。


『ただーいまー』

「お帰りー!遅かったわねー。」

『うん、ちょっとディーノさんに会って…
って、ディーノさんのこと覚えてる?』

「覚えてるわよー勿論。年明けにあったキャバッローネファミリーのボスでしょう?
イケメンで格好いいわよねぇ〜」

『やっぱそう思うよね!格好いいよね!!』


リビングに入って今日あったことを報告すれば、ディーノさんのことで私とお母さんは盛り上がった。お互い満面の笑みで、ディーノさんディーノさんと話していれば…いつの間にやら帰ってきていた男が嘆きの叫びを1つ。


「お………お父さんも格好いいぞ!
てかお父さんの方が格好いいんだからなぁー!!」

「達也…うるさい。近所迷惑よ。」


今日も我が家は平和である。





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おまけ

『……あれ、獄寺じゃん。一昨日ぶりだね。
やっぱ行かなかったんだ。』

「ああ? …まぁな、将来の10代目も大切だが、かといって今の10代目の傍から離れるわけもいかねぇからな。」

『ふぅーん……せっかく静かになると思ったのに。』

「んだとゴルァ!!!」

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