夏祭り


「菜也、歩きづらくないか?」

『うん、大丈夫! ありがとう。』


歩く度にカランコロンと音を奏でる下駄。束ねた髪の毛と共にシャランと揺れる飾り箸。そしてちょっと熱いけど…夏祭りによく合う浴衣。


「何か欲しいもんとかあったら言えよ?」

『分かってるって! 射的とか得意だもんね、凍夜兄ちゃんは。』


私は今、凍夜兄ちゃんと一緒に並盛の夏祭りに来ている。夏休みの時期に入ったこともあり、学生から大人まで多くの人で溢れんばかり。そんな人集りにわざわざ出向くのは…やっぱり私も凍夜兄ちゃんも祭りが大好きだからだ。


「焼きそば食ったし、唐揚げも食ったし…」

『次は甘い物食べたーい!』

「だな! …おっ、あそこのチョコバナナっての美味しそうじゃね?」

『いいねぇ、行こ行こ!』


最近は悪さをする妖怪も少ないし、第一こんな人集りが多いところに間者とかも来ないだろう…
ーという考えのもと、私達は護衛もなしにお祭りに来ている。とは言っても、凍夜兄ちゃんは私の護衛と言っても過言ではないし、凍夜兄ちゃんは強いから護衛が要らない。
まぁ、何が言いたいかというと…


『護衛もなしにこういうの来るの…久しぶり〜!』

「ハハッ、やーっぱ護衛があるのとないのじゃ違うよなぁ。なんつーか、自由度が違う!」


別に護衛が邪魔ってわけじゃないけど、何となく羽が伸ばせるのだ。気分的に。
護衛もなし、隣には凍夜兄ちゃん、そしてお祭り! はしゃぐなって言う方が無理で…そんな浮かれまくりな私は注意力が散漫していたのだろう。


「………あれ、奴良さん!?」

『げっ!! 沢田じゃん……!!』

「「(すげぇ嫌そうな顔してる……)」」


チョコバナナの屋台主はまさかの沢田綱吉だったのだ。もし沢田だって気付いてたら他の甘味屋に行ってたのに…悔しい。
しかし、これも不幸中の幸いかもしれない。
沢田曰く、獄寺と山本、リボーンはちょうど今トイレやら何やらで席を離れているらしい。煩い忠犬はいないし、トラブルメーカーのリボーンがいないなら問題ないだろう………多分。


「…やあ、君が沢田綱吉くんかぃ?
僕は奴良凍夜と言ってね、菜也の従兄なんだ。いつもこの子がお世話になってるね。」

「えっ!? あっ、こちらこそ……!!」

『……(出た、優男キャラ!!)』


キラキラキラーというエフェクトがまさに似合いそうなこの顔、この喋り方。いつもは飄々とした話し方をするくせに、初対面の時は猫被りして優男キャラになるのが凍夜兄ちゃんの癖。格好いいけど私はいつもの方が好きだなぁ。


『てか何で沢田が屋台やってんの。』

「えっと…七夕大会の時に借りた公民館の壁を山本が壊しただろ? その弁償代を今皆で稼いでるんだ。」

『……ふーん?』


そういえば…確かに壁に穴が空いてたな。あれは山本の仕業か。ボールでも投げたのかな。
そんな事を考えている私を余所に、凍夜兄ちゃんはチョコバナナを2本注文していた。沢田がバナナに(本当かどうかは知らないが)ベルギー製のチョコを塗る間、凍夜兄ちゃんは財布の中から小銭をジャラジャラと探っている。私はと言うと、次は何処行こうかなぁなんてポケーッとしていたわけで……


ガッ!!

「いただきっ!」

「『ん?』」

「な……えっ!? う、売り上げが!!
まさかあの子が噂のひったくり犯!? 嘘ー!!」


見知らぬ少年がジャラジャラと鳴る箱を取り、振り返りもせずに何処かへと去って行ったのだ。沢田の嘆きからあの箱の中に売上金が入っていることは予想できたものの、あまりに急すぎてその少年を捕らえることもできなかった。


「こ、コラーーーーッ!!」

『………行っちゃったね。どーする?』

「面白そうだし見に行こうぜ!」

『えー、つまんないと思うけど。』


走り去る沢田に続き、何故かノリノリの凍夜兄ちゃんに手を取られて私も走る。先程沢田が作ったチョコバナナを口に咥えてる凍夜兄ちゃんはちゃんとしているというか…ちゃっかりしているというか…うん、「らしい」と思う。

そんなこんなで沢田の後を追っていると、目の前に立ち塞がったのは長ーい階段。これを登れば並盛神社だ…てか浴衣で下駄履いてるのにこれ登るの? そう意味を込めて横を見れば、そこに居るはずの人はもう居らず。「おーい、置いてくぞー」なんて既に数段登っている凍夜兄ちゃんに言われ、息を切らしながら登る私って可哀想!
それでも何とか登り切ればそこには沢田が大勢の不良達に囲まれている姿があって、凍夜兄ちゃんはタタッと彼の元へ駆け寄るのだが……


「ひーーっ! 誰かお助けーっ!!」

「綱吉君、大丈夫かい?」

「!! と、凍夜さん!? それに奴良さんも!!」

『…凍夜兄ちゃんのバカ……』


意図的なのか無意識なのか、何故戦えない私をここに連れてきた!? 木の陰でこっそり応援しようと思ってたのに何で私まで巻き込む! これじゃあ私もフルボッコにされちゃうかもじゃん!!


「大丈夫だって、オレがお前を守ってやっから!」

『勝手に人の心読むなー!』

「いやお前、声に出てたぞ?」

「(奴良さん…何だかいつもとキャラ違う?)」

「だいたい……オレがこんな雑魚共に負けるわけないじゃん?」


ニッコリとそれはもう良い笑顔でそう言い放った凍夜兄ちゃんに、勿論不良共はプッツンと怒りモード全開。襲いかかってくる…そう身構えた時、一人の血を流した不良がこちらへと吹っ飛んできた。


「うまそうな群れを見つけたと思ったら、追跡中のひったくり集団を大量捕獲。」

「ひ、雲雀さん!?」

「……誰だあれ。」

『…………雲雀恭弥。並盛の風紀委員。』


飛んできた不良は雲雀のトンファーにやられたのだろう、血を流して気を失っている。まさか助けに来たのかなぁと意外に思っていると、「ひったくった金は全て風紀が貰う」とのたまった。そうだ、コイツはそういう奴だ。


「…味方か?」

『いや……敵、かも。この不良集団を倒す目的は同じだけど、あの人沢田達が稼いだお金も取るつもりだから。』

「ふーん……面白ぇ。」


なら油断大敵だなと言いながら、氷で刀を形成するその顔には笑みが浮かんでいる。その笑みはどこか雲雀さんの笑みと似ていて、凍夜兄ちゃんの意外な一面を見られた気がした。


「菜也、一応これ持っときな。」

『……いやいやいや、刀渡されても私戦えないって! しかもこれ氷だし冷たい!!』


新たに作り出された氷の刀を受け取るも、冷たすぎて握ることができない。握ったら皮膚が吸い付いて何か怖い。
ちなみに沢田はというと、「いくら雲雀さんがいてもこの人数じゃヤバいんじゃ…てか凍夜さんも戦えるのー!?」なんてパニック状態で氷のことに気付いてない。
そして、いざ喧嘩が始まらんとしたときー


「お前も戦え」

ズガンっ!!

「復活! 死ぬ気でケンカー!!」

「10代目!!」

「助っ人とーじょー」


リボーンにより死ぬ気モードになった沢田に加えて、獄寺と山本が喧嘩祭りにノリノリ参加。人数も増えたことでようやく本格的に始まった喧嘩騒ぎの中、私はただただ積み上がってゆく不良達の死体(※死んでません)をボーッと見守った。

ーなぁ……アイツ、強ぇだろ?

喧嘩が始まる前、雲雀を一目見てそう楽しそうに聞いてきた凍夜兄ちゃん。死ぬ気モードの沢田や獄寺、山本とは段違いに、この2人が強いことは見ていて分かる。さっきの質問に『強いよ』と勿論私は返したけれど…この2人が戦ったらどっちが勝つのか少し興味が湧いた。

そしてそれは当の本人達も一緒なようで…


「…君みたいなうまそうな獲物は久しぶりだよ。噛み殺したくなる。」

「おー恐っ。噛み殺すだなんて…随分とおっかねぇ野郎だねぇ。」


不良集団を全滅させた今、それぞれの武器を構えて新たな標的へと食らいつく。一方で、戦い合う2人を良いことに沢田達は稼いだ売上金を取り戻してそそくさと去っていく。


『……凍夜兄ちゃんも好戦的なところがあるんだなぁ。』


金属と硬い氷がぶつかり合う音を聞きながらぼんやりと考えるも、目は片時も2人から離さない。最初は互角かと思ってたけれど、時間が経つにつれて次第にどちらが優勢か見えてきた。


「……くっ……またかよ!」

「……君は何者かは知らないけど、いくら武器を作ろうと氷じゃあ僕のトンファーには勝てないよ。」


今まで何度も何度も硬い氷で武器を作り直してきた。けれどもしばらく経てばトンファーで砕かれる武器。
私が妖怪であることを隠してるからか…もしくは公平に戦うために<妖怪>の戦い方をしないのか。どちらの理由かは分からないけれど、取り敢えず、(武器の生成はともかくも)<人間>の戦い方をする凍夜兄ちゃんの不利は明らかだった。


「終わりだよ」

「ちっ…」

『ーっ、凍夜兄ちゃん!!』


バキンと崩壊した氷の武器に、トンファーを凍夜兄ちゃんに向かって振り下ろす雲雀。避けられないだろうその攻撃に、気が付けば私はその名を叫んでいた。
だが、私の目に映ったのは想像した光景とは違っており……


「………消えた?」

『(……明鏡止水……!)』


姿を消した凍夜兄ちゃんが業を使ったのだと私はすぐに気付いた。まさか負けるとも業を使うとも思っていなかったため文字通りポカンとしていると、不意に体が宙に浮かぶ感覚に襲われる。


『きゃっ…!?』

「さてと、待たせて悪ぃな菜也。
そろそろ花火も始まるし、退散するとしよう。」

「…ふぅーん、君も消えるんだ。
それで、君の名前は?」

「………奴良凍夜、こいつの従兄だ。
んじゃまたな雲雀恭弥、次は負けねぇぞ!」


君も、か…。雲雀には近いうちに私達が妖怪であることがバレるかもしれない。いや、既にバレてるかも!? そんな事を考えていた私だが…横抱きにされたままピョンと階段を一気に飛び降りた凍夜兄ちゃんにより、私の頭は直ぐにそのことから離れた。

急に飛び降りないでよ心臓に悪い!

その言葉は、ドンッと大きな花火の音によってかき消された。








おまけ

「そういやぁ…あの男は誰だったんすか、10代目」

「奴良さんの従兄の凍夜さんだって。(格好良かったなぁ〜…)」

「あぁ、だから雰囲気が少し似てたんだな!」

「「(……………似てるか…?)」」


おまけ2

「そういやぁ…さっきのアレ、何だ?」

『アレ?』

「沢田綱吉。頭撃たれて生き返ったよな、パンツ一丁で。体育祭の棒倒しの時と一緒だな。」

『あー………』

「しかも連れの爆弾マンも変だよな。何でダイナマイト持ってんの。」

『なーんでだろう……聞いたことないなぁハハハ』

「野球少年は刀持ってたし、雲雀は人間離れしてる強さだし?」

『………ハハハハハ、世の中不思議ダヨネー!』

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