七夕大会


『…ん? 何あれ…』

どーもどーも、おこんにちは。
ただいまお使い帰りの菜也です。ミーンミーンと蝉がうるさくて耳が潰れそうです。
そして、あまりの煩さからか…前方右側に何故か小さい竹があるように見えます。幻覚でしょうか。


『……短冊かぁ。そういや今日七夕だったね。何々…「願いを書いてね」…か。』

「ちゃおっす」

『うわあっ!!??』


短冊を手に何を書こうかなぁと考えていると、突如目の前から聞こえてきた声。ぱっと視線を前に移せば、竹コスプレしてるリボーンがいた。


『リボーンだったんかーい。まぁ、こんな所に小さい竹がある時点で変だとは思ってたけど。』

「まだまだだな。
それより早く願いを書け。」

『………一応聞くけど、何で?』

「書くか死ぬか、どっちがいいんだ?」

『……分かったわよ、書けば良いんでしょ、書けば。リボーンが性格良くなるようにって書いてやるわよ。』

「死ね」

ズガン

『………そんな怒らなくたっていいじゃん。』


持っていた短冊は弾丸によって使用不可能。
残念な意味でドキドキ鳴る心臓を覚られないよう、冷静を装って新しい短冊に手を伸ばす。
早く書けよ、なんてこの悪魔は言うけれど…私は今の暮らしにそこまで不満はない。凍夜兄ちゃん達にも会おうと思えば直ぐに会える。友達も…まぁ沢田達に巻き込まれるのは面倒だけど、それ以外は問題なし。学業にもそこまで熱意あるわけじゃないし、スポーツもそんな興味ない。
私の願いって何だろう……


『あっ』

「思いついたか?」


キュポッとペンの蓋を取り、キュキュッと黒のマーカーで願いを書く。「絶対に叶って欲しい!」と言うほどのものではないけど…


「…変化できますように、か。
お前、妖怪に変化できねぇのか?」

『うん。人間の血が濃いからだろうって母からは聞いてるけど…。でも、半妖の祖父でもクォーターの母と叔父でも妖怪変化できたんだから…私もできると思うんだ。
……………多分。』

「従兄はどうなんだ。この前体育祭の時に来てただろ。」

『(よく観察してんなぁ…)できるよ。凍夜兄ちゃんはクォーターと妖怪の子だから…余裕でできたみたい。』

「なるほどな。
…まぁいい。取り敢えず菜也の願い事、確かに受け取ったぞ。」

『は…ちょ、リボーン!? 何処に行くの!?』


気が付いたらパッと短冊を奪われ何処かへ走り出すリボーン。
別に要らないけど…短冊なんて。
でもね?


『買い物袋は返せよバカー!!』


お母さんに頼まれたお使いの品々。それまで一緒に持ってかれたら困る。今日の夕飯の危機だし、私もピンチ。怒られちゃうじゃん!
しかし、いくら本気で走ろうとも、向こうは謎の殺し屋の外見ベイビーだ。
重たい買い物袋を持ってピョンピョンと塀を飛び移り、行き先は知らないけど何処かへ私を誘導している様子。そしてようやく行き着いた場所は並盛公民館で、案内された先にはいつもの面々。

沢田、獄寺、山本、ハルちゃん、イーピン、ランボ、京子ちゃんのお兄さんの…了平さん(だっけ?)だ。にしても皆のこのソワソワした雰囲気…なんかデジャヴだぞ。何なのこの雰囲気。


「今日はボンゴレ的町内交流七夕大会だからな。」

『人の心勝手に読まないでくれる?』

「各々が七夕にちなんだ出し物をして審査員にジャッジして貰い点数を競い合うんだぞ。そして1位の者は短冊に書いた願いが叶うんだ。
ちなみにボンゴレの強大な力により願いの達成率は100%だ。」

『………私の願いは自分で何とかするものだから関係ないよね。ボンゴレの権力とか関係ないよね。』

「不参加認められねぇぞ。ちなみに審査員は町内のお年寄りだ。」


これあれだ。ボンゴレ式バースデーパーティーの七夕バージョンだ。この上なく帰りたい。しかも突然聞かされたから何も準備してないし。
そんな私の混乱を余所に時は無情にも過ぎてゆく。やがて司会役のハルちゃんによって、七夕大会は開始された。

「それでは1番バッターは、並盛野球部・期待の星…山本武さん!願いは"野球部県大会ベスト4"!」

「ええっ!? 願い皆に公表されるのー!?」

『……沢田、あんた何て書いたの?』

「いや、それは………その………!!」

『まっ、どーせ「京子ちゃんと付き合えますように」か「京子ちゃんと結婚できますように」だろうけどさ。』

「んなーっ何で知ってんの!? 見た!?」


各自願いが公表されることに過剰に敏感した沢田。もしやーと思って願いの内容を適当に言えば、まさかのビンゴでコッチが吃驚だ。…でも、ピンチなのは私も一緒だ。「変化できるようにしたい」だなんて…バレるかどうかは分からないけど、疑われるのは確実だ。

そんな事を考えていれば山本は70点を得て終わり、次はランボと了平さんの出番となった。ランボの願いは世界征服で、了平さんの夢はボクシングを国技にすること。この2人は馬鹿さ加減が同じな気がする。2人はパンダとコアラの着ぐるみを身につけながらユーカリと笹を食べて腹を壊した結果、得られた点はたったの2点…これは馬鹿は馬鹿でも、馬鹿の天才かもしれない。
ちなみにこの後のイーピンは95点を獲得した。
え、何をしたかって? ……外見上お地蔵さんに見られたようで祈られた挙げ句、それに照れたイーピンが恥ずかしさのあまり文字通り爆発したのだ。意味分かんないって思うでしょうけど、私も何言ってるのか自分でもよく分からない。取り敢えず、大爆発を花火だとこれまた勘違いしたお年寄りによって、そんな高得点が叩き出された。そしてそんな高得点を叩き出したイーピンの次が、私の出番だ。


「えー、次はマイフレンドの奴良菜也ちゃんです!」

マイフレンド…って間違えてはないけど何故にそこだけ英語なの、ハルちゃん。

「菜也ちゃんの願いは…」

『…あっ!忘れてた!言わな…』

「…変化(へんか)できますように、だそうです!」

『(…ヘンカじゃなくてヘンゲなんだけど…まぁいいや。)』


天然なハルちゃんのお蔭様で妖怪だと怪しまれることもなく、私のショーの出番がついにきた。
さて…七夕にちなんだ出し物、か。


『リボーン、レオン借りるよ。』


リボーンのボルサリーノの上にいつも居るカメレオンのレオン。形状記憶能力があるようで、よくリボーンの銃になったりして活躍している。


『今日は七夕ということなので…織姫の仕事であった織物をやらせていただこうと思います。』


ぐにゃぐにゃとレオンが変型した物は機織り機。実を言うと、お母さんは染色や織物などを習っていた時期があるようで、今でもそれを時々やっている。
そして私も暇なときにそれを教えてもらったことがあるのだ。


「ほー凄い!」

「こんなに若い子が機織りとは…珍しいのう。」

「良いことじゃ、伝統を引き継いでくれるとは。」


やった、何か知らんけどウケてる!
内心ガッツポーズしながらも機を織り続ける。勿論そんなに時間がないため完成させることはできないけれど、ひとまずこれでリボーンに殺される心配はなくなった。


『(…ふぅ、65点か。まぁまぁかな。了平さんとランボの2点に比べたら全然マシだしね。)
リボーン…私もう帰るね。そろそろ急がないとお母さんも組の皆も心配しちゃうから。』


次は沢田と獄寺の番だから少し見たい気もするけど、寄り道したせいで予定が大幅にズレている。本来なら往復1時間もかからないお使いに、既にもう1時間半近くかかっている。


「あぁ。ちなみに買い物袋は冷蔵庫にそんまま入れてあるぞ。」

『ん、ありがとう。そんじゃ、バイバイ。』

「チャオチャオ」


獄寺の「7月7日だから今回はナイフ77本刺しで行きましょう!」という台詞と、沢田の「ヒィー!?無理だよ!」という悲鳴を聞きながら公民館を去る。面倒なことに巻き込まれたとは思うけど、今日は少し楽しかった。
ただ、やはり長居しすぎたようで…


「菜也様!!」

『あ、陽炎! ただいまー!』

「『ただいまー』じゃありませんよ! お使いに行ってなかなか帰ってこないので心配しましたよ!」

『あー…ごめんごめん。またリボーンに絡まれちゃって…』

「………やはり、あの赤児には少し痛い目を…」

『陽炎、やめようね? きっとそれ私に痛い目が舞い戻ってやってくるから。やめてね?』


帰り道、心配した陽炎が私を迎えに来た。
ヒョイと手にしていた買い物袋を取られ、今日あったことを陽炎に話す。陽炎のポジションは獄寺の言う右腕みたいなもの。だからお母さんの側近であり、組の中では1番頼り甲斐のある有能な部下だ。そんな彼は、私やお母さんに生意気な態度をとるリボーンが嫌いなようで…よくこういうことを口走る。


『そういえば今日は七夕だね! 家でも何かやるの?』

「…ゲームはしませんが、短冊は提げますよ。あと、ご馳走を作ると女性陣は張り切っていましたね。」

『やった! ご馳走か〜じゃあ早く帰らないとね!』

「フフ…そうですね、一刻も早く帰りましょう。」


この後……
遅く帰宅した私にお母さんはやや怒り気味で迫ってきたけれど、理由を話せば同情的な目を向けられましたとさ。

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