花見


「チャオっす!
今から花見の場所取りするぞ。お前も手伝え、菜也。」


かかってきた電話に出れば、いきなり命令を下してきた腹立たしい赤ん坊・リボーン。イラッとして言い返したくなるのを何とか抑え、『もう家族とお花見したから行かない』と冷静に告げるも…


「今から10分後にツナの家で待ち合わせだ。来ねぇとお前の部屋に虫を…」

『今から全力で向かわせて頂きます!』


私の弱点が虫であることを良いことに、このように脅してくるのだ。そして恐ろしいことにリボーンは有言実行するから侮れない…。
現に、雪が積もった週末に「雪合戦するから来い」と呼ばれたのだが、『寒いから嫌』と断ったところ、あろうことかリボーンはタランチュラを私の部屋に解き放ったのだ。その時は全力で謝り、そしてリボーンにはもう2度と逆らえないと私は瞬時に悟ったものだ。


『お母さん!ちょっと友達と花見に行ってくるね!』

「分かったわ、気を付けていくのよ?」

『はーい!』


そんなこんなで家を出て、沢田家へとダッシュで向かう。そして家へと近づいたところで、沢田と獄寺、山本、そしてリボーンが家の前に出て待っているのを発見。
「遅ぇぞ」とリボーンに言われイラッときたのは言うまでもない。ちなみに、「10代目を待たせんじゃねぇ」という相変わらず口喧しい獄寺には『うっせー、分け目から禿げろ』と言い返しておいた。
全く…何でせっかくの休みをこんな事で潰されなくちゃいけないんだ。

そう内心ブツブツと文句を言いながら歩いていると、先日家族と花見した公園にたどり着く。


「おーラッキー!」

「一番乗りだ!」

「これで殺されなくてすむ〜!」


……はい?
沢田よ、それはどういう事だ。一体誰に殺されると言うんだ。

だが、それを問う暇もなく、不良が現れて私達に喧嘩を振る。「ここら一帯の花見場所は占領済みだ、出て行け」と言うその不良は、指を鳴らしながら喧嘩の体勢を取る。まぁ…喧嘩っ早い獄寺に直ぐにのせられたけど。


「何やら騒がしいと思えば君達か。」

「ヒバリさん!」

『(げっ…私この人苦手……。)』


次に現れたのは、風紀委員の雲雀。どうやら彼も花見をしているようで、この不良に門前払いをさせていたらしい。
まぁ…その不良も「役立たず」と言われて雲雀に気絶させられたけど。


『(この人、勘が鋭いしなぁ…。明鏡止水しても倒せる自信は勿論、逃げきる自信もない。)』


そんな私の緊張をほぐすように、突如、今度は違う男の声が聞こえてくる。


「いやーっ絶景!絶景!
花見ってのはいいねぇ♪」

「Dr.シャマル!」

『(Dr.……てことは、医者なのかな…)』


この時私は完璧に油断していた。
だからー


「おっ、可愛い子発見!
いいねぇ、やーっぱ花見ときたら女の子だよ!
どれどれどれ…」

『……え?』

「なぁ!?何してんだよシャマル!!」

「この変態ヤブ医者!スケコマシが!!」


いつの間にか真正面に立ち、堂々と私の両胸を揉んでいるこの男の手を、ただ呆然と見つめるしかできなかった。


『……取りあえず、止めてくれませんか?』

「れ、冷静ー!? てか質問するのー!?」


ハッと覚醒した頭で取り敢えずそう言えば、何故か沢田に突っ込まれる始末。いやいや、こんな事を堂々とする人間なんか初めてだし…普通にどう対処すればいいのか分かんないだから仕方ないじゃん?


「オレが呼んだんだ。
菜也、コイツはシャマルと言って、一応医者だ。」

『一応……』

「女の子しか看ねえけどな。」

『それ医者じゃなくてただの変態じゃん。』


リボーンが紹介してくれた男はどうやら変態な医者らしい。
つぅか何でこの人呼んだの?
そう問えば、「今からゲームするからだぞ」とリボーンは物凄く嫌な笑顔で話し出す。


「オレ達も花見してぇんだ。どうだ雲雀。花見の場所をかけてツナが勝負すると言ってるぞ。」

「なっ、何でおれの名前出してんだよー!」

「ゲーム…
いいよ、どうせ皆潰す気だったしね。
じゃあ君達四人とそれぞれサシで勝負しよう。お互い膝をついたら負けだ。」


四人って…沢田、獄寺、山本、あと私!?
いやいやいや、そんなことないよね…きっとこのDr.シャマルって人だよね!


「心配すんな。そのために医者を呼んである。」

「あの人女しか看ないだろ!」


リボーンが呼ぶくらいだから、きっと凄く腕の良い医者なんだろうなぁ…
そう思ってシャマルさんに目をやれば、


「へぇーおめぇが暴れん坊主か。
お前姉ちゃんいる?」

「消えろ」

「のへーー!!」

『医者いなくなったじゃん。』


瞬殺!
雲雀に声をかけて、あっという間にやられたぞ。
あれ…てことは……


『(四人って…私!?私が雲雀と戦うの!?)』


帰りたい!切実に帰りたい!!
だがそんな私の心を見透かしているのだろうリボーンは、「そう言えばもっとでけぇタランチュラを見つけたぞ」なんて言って私を脅してくる。このクソチビの性格の悪いことと言っちゃあ…きっと世界一だ。

そんなこんなで始まったゲーム。
最初は獄寺が行くも、膝をついてしまった獄寺の負け。次いで、一見ただの野球のバットだが一振りすれば刀へと変わる「山本のバット」を持ち、山本が雲雀と戦い始める。


「これならやりあえそーだな。」


そう言って、雲雀と互角で戦う山本だったが…


「それはどうかな。僕の武器にはまだ秘密があってね。」

「秘密…?」

『! 仕込み鉤…!!』


トンファーから出てきた仕込み鉤により刀を奪われ、そのまま山本が負けてしまう。
じゃあ次は沢田かなぁなんて思っていた私だがー


「次はお前だぞ、菜也。」

『え』


なんてこったい。沢田の前に私かよ。
だが相手は獰猛な雲雀であるため、悠長に考えている暇はない。


『山本! バット借りるよ!!』


返事も聞かず、先程のバトルで落ちていたバットを拾う。一振りして刀に変わったそれを構えれば、待ってましたと言わんばかりに雲雀は襲ってくる。


「…ねぇ」

『…なに!?』


こっちは必死に防戦してるのに、随分と余裕そうに雲雀は話し掛けてきた。むかつく…はげてしまえ。


「この前、君、消えたよね。
君は何者なんだい?」

『っ…別に、何処にでもいる女子中学生です!』

「つまらない冗談だね。」


妖怪の血が僅かながらあって良かった…!
変化なんて出来ないけれど、 普通の人に比べたら運動神経と反射神経が良いため、何とか雲雀の攻撃を山本のバット(刀)で防ぐことが出来る。
と言ってもまぁ…


『…ぅ、わぁっ!? 危なっ…』

「君は避けることしか能がないの? つまらないね…もう殺してしまおう。」

『まるで今日の夕飯はコンビニでいいやみたいな諦め? 止めてくださいませんか?』


徐々に上がるパワーとスピードに、私の体も悲鳴を上げているのを感じられる。攻撃を防ぐだけで精一杯。一瞬でも気を抜いたらジ・エンドな結末が待ってるんだろうなぁ…。

そして悲しいことに、


ガキン

『あ』

「君、学習能力がないでしょ。」

『ぃ"っ…たたたた…!』


山本と同じ結末。雲雀のトンファーに仕込まれた鉤により、刀ごと投げ飛ばされました。
そんな私は勿論失格で、


『じゃあ沢田、頑張ってね〜!』

「んなっ!?(もう自分は噛み殺されないからって、すげぇいい笑顔で見てくるー!!)」


次に雲雀と戦うため、顔を青ざめさせている沢田にこの上なくハッピーな顔でバトンを渡した。そして始まった沢田VS雲雀のバトル。
結果だけ言うと、なんと雲雀の負け。
死ぬ気モードになった沢田が勝ったわけではない…雲雀を負かしたのは意外にもDr.シャマルだった。


『トライデント・モスキート?』

「あぁ、シャマルは医者だが殺し屋でもあるからな。蚊を使って相手に病を引き起こさせるんだぞ。」

「わりーけど超えてきた死線の数が違うのよ。ちなみに、あいつがかかったのは桜クラ病つってなぁ…桜に囲まれると立っていられない病にしてやったんだ。」

『何その変な病気…』


人間と妖怪の血を持つため、私はどちらの世界のことも熟知している方だと思ったけど…


『(蚊も武器にするとか…いや、蚊まで調教できるなんて…何者なのよ殺し屋って。殺し屋こわい。)』


妖怪の世界よりも人間の方の世界が、まだまだ知らないことが溢れていて、久しぶりに恐怖を感じた。

そんなこんなで裏世界の恐怖を改めて感じつつ…
後からやって来た沢田家族と共に、今年2回目の花見をやったのだった。




(『あれ…そういえば雲雀さんは?』)
(「あいつなら帰ったぞ。負けは負けだからっつってな。まさか一緒にオレたちと騒ぐとでも思ったか?」)
(『まさか。群れるの嫌いじゃんあの人。』)
(「…そういやぁオメー…触られたら今度からはちゃんと殴れよ。」)
(『…殴っていいの? 私殺されない?』)
(「気にするな、シャマルは殴られ慣れしてるからな。」)

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