違和感


『…紹介が遅れたわ。
私は藤組初代奴良鯉菜が娘、奴良菜也よ。
初めまして…以後見知りおきを。』

「…奴良鯉菜…?」

「頭(かしら)…おそらく、あの時カチコミしてきた組です。」

「…あの女のガキか。」



ピクッと反応し、私の母の名を復唱する桃巨会の組長。きっと誰なのかをハッキリとは覚えていないのだろう。
だが、隣にいた男の言葉でようやく私の母のことを思い出したようで…



「おいおい…てことはこの騒ぎはまた藤組が仕掛けた事なのか?」

『違うわ。私のクラスメートが何やらヤクザ相手に騒ぎを起こしているようだから来ただけであって、今回は藤組は一切関係してないわ。
ただし、
あなた達がこの場を丸くおさめてくれるなら…の話しだけどね。』

「ふん…嫌だっつったらどーするんだぁ?」

『〈カタギには手を出すな〉というウチの組の命令を破ったとして、藤組の頭である母に報告させて貰うわ。』



母が言っていた。
この地へ来た時、ここら一帯のヤクザ者に藤組として挨拶(殴り込み)をしに行った、と。
そこで〈一般人には手を出さない〉という決まりを作らせ、それを破ったら藤組がその組を潰しにかかる…という(ある意味脅しの)規則ができたのだ。
その事もあり、何かあった時には藤組を名乗れ、と母に小さい頃から言われていたのだが…
まさかこんな所で役立つとは思いもしなかった。



「ククッ…あの女にしてこの娘ありってか。
威勢のいいのは認めるが、きけねぇ願いだな。」

『…そう、じゃあ交渉決れ……』

「だがその前に、」

『?』



スマホを取り出し、早速母へと連絡をしようとすれば、組長はニヤニヤと笑いながら私の言葉を遮った。
何を企んでいるんだ?
そう思った時には時既に遅く、



『!! 避けろ沢田!!』

「え? ぅ、うわああっ!!? お助けー!!」

「おい、1歩でも動いてみろ。大切なオトモダチが怪我することになるぜ?」



獄寺や山本に倒された男がいつの間にか目覚めていたようで、ボーッとしている沢田をあっさりと人質に取られてしまった。
つーか何捕まってんだよ沢田の馬鹿野郎、そのくらい避けろっての!
そう心の中で悪態つくものの、私も下手に動けない。獄寺や山本、ディーノさん達も同じく動けない。相手がナイフを持っている以上、本当に沢田を刺してしまったら冗談でも笑えない。



「おい、ガキからスマホを奪え。藤組に連絡されちゃあ洒落になんねぇぞ。」

「へい!」



沢田を人質に取られているため、下手に動けない私まであっさりと身動きを抑えられてしまいました。
しかもスマホ壊されたし。バットで叩き潰されたんですけど、マジないわ…まだ買い換えて1年しか経ってないのに。
すると突如、
死んだスマホで嘆いている私の両頬を誰かが掴み、グイッと上を向かされた。
目の前には不細工な組長の顔。
ディーノさんか凍夜みたいにイケメンだったら嬉しいのに…なんて場違いなことを考えてる私は決して悪くないと思う。



「…口は生意気だが、あの女に似て顔はいいじゃねぇか。」

「しかも女子中学生ッスよ。これ絶対高く売れますぜ、お頭ぁ!」

「よかったなぁガキ。これからきっと変態ジジイに毎日可愛がられるぜ! 精々頑張って奉仕するんだな。」

「つぅかオレ最近溜まってんだけど。売る前にオレ達でまわそうぜ!?」

「最早ここで飼うか!?」



ニヤニヤとゲスな笑みを浮かべて口々に好き勝手言う男達。そんな彼らの言葉に沢田が慌てて何かを言おうとするも、沢田を捕らえている奴がそれを許さない。
先程まで蹲っていたディーノさん達も今はもう立ち直ってはいるが…沢田と私が人質に取られているため、行動に出ることができないようだ。

…どうしたものか。

何か良い案がないか考えていると、


「ヘヘッ…」

『! 触らないでよ気色悪いっ!!』

バキッ

「ぐぺっ!!」

『……あっ』



お尻を触られたため、つい相手の顔面を蹴ってしまった私。
いや、私じゃない。
私の足が勝手に動いたのだ! 私ではない!
だがそんなことが相手に通じるわけもなくー



「この…っ、クソ女ぁ!!」

『…っ!!』

「ぬ、奴良さんっ!!」

「「「奴良!/菜也!」」」



私に顔面を蹴られた男が怒り、拳を振るう。
沢田やディーノさん達の私を呼ぶ声が聞こえる中、私は来るであろう痛みに備えて目をギュッと瞑った。



ドクン…


『(…っ、…あ、れ…?)』 




目を瞑れば、心臓が強く高鳴った。
血流が速まり、血が熱いような感覚に襲われる。



『(な、に…これ…)』



体の内側から何かが噴き出るような感覚が強くなる。たった1秒の時間が5秒、いや、それ以上にも感じられた。


抑えきれない。


そう感じた瞬間、


「リ・ボーン!! 死ぬ気で奴良を助ける!!」

ドカッ

「ぐあっ!!」

「な、何だあの手は!?」



どうやらリボーンが死ぬ気弾を撃ったようで、死ぬ気モードに突入した沢田。しかも両手拳にも弾を撃たれたのだろう、両手ともとてもデカくなっている。そんな沢田に私は無事助けられ、獄寺や山本はヤクザが人質をなくしたことで一気に暴れ出す。



『……(さっきのは何だったんだろう)』

「大丈夫か!? 菜也!」

『あ、はい…大丈夫です…』



隙をついてディーノさんが私の元に来て、安否確認をする。
結局、先程まで騒いでいた血も今は静まっており、何ら変わったことはない。



『(……病気、とかじゃないよね…?)』



結局何が起こったのかは全く分からないまま、沢田達によって桃巨会はあっという間に潰れ…



「それにしても…奴良さん家って極道だったの!?」

「てめぇ…本当はスパイなんじゃねぇだろうな!?」

「ははは! 人って見かけによらねぇのな!」

「まぁ、無事で何よりだぜ。」

「オレは菜也の家が藤組だってこと知ってたぞ。」



上から順に、沢田、獄寺、山本、ディーノさん、リボーン。
つぅかリボーンはやっぱウチが極道一家なこと知ってたんだねー、本当、このガキが関わるとろくな事がない…。
結局、
その後、彼らに(妖怪であることは伏せながらも)我が家が任侠一家であることを詳しく話すことになり…今回のヤクザ事件は無事落着したのだった。

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