体育祭前夜


「はい、もしもし、奴良ですけど。」
「……あ、お父さん? 鯉菜だけど。」
「おぅ! 久し振りだな。息災…」
「明日さ、菜也の運動会があるんだけど。
……来る?」


そう一本の電話が着たのは昨日の夕方頃。
その問いに「行く」と即答し、孫の凍夜と共に新幹線に乗ったのは今朝のこと。
そして今ー


『久し振りー!
おじいちゃんも凍夜兄ちゃんも元気そうだね!!
あれ…リクおじちゃんは?』
「リクオか? リクオは氷麗ちゃんとデートに…」
「それより学校はどうだ? 友達たくさんできたか?」
『あ、うん! 小学校の友達皆いるし、特に変わりはないかなー。』
「…おい、凍夜。遮るなよ。」


学校からようやく帰ってきたもう1人の孫娘の菜也が、目の前にいる。会うのは何ヶ月ぶりだろうか。時々、鯉菜達が帰省してくることもあれば、こうやってオレ達が遊びに来ることも度々ある。

『なに? まさか本当に体育祭のために来てくれたの?』
「体育祭のためっつーか…」
「まぁ、それはタダの口実だよなー。本当はお前に会いに来ただけだし。」
『…へへー、そっかぁ!』

……ケロッとした顔でそんな事を言う凍夜に、恥ずかしそうにはにかむ菜也は地球で1番可愛いと思う。
いや、勿論、娘の鯉菜も可愛いぞ。
だが鯉菜は……


「……(チラッ)」

「…? ……何よ、その品定めするような目は。眼球えぐり出されたいの?」


アレだな…女王様って感じだな。菜也がお姫様なのに対して、鯉菜は女王だな。
でも昔だったらきっと無表情か冷たい視線で言っていただろう今の台詞…現在では笑顔で言うから何か余計に怖い。


「やっぱ女ってのァ、子供が出来たら変わるもんだねぇ……」
「……それさ、良い意味で言われてるのか悪い意味で言われてるのか分からないんだけど?」


口は笑ってるのに目は笑っていないのがマジで洒落にならねぇ…。それでも「先に手を洗ってきなさい」と娘に言ってるところは、流石母親だと言えよう。

「そういえばさー、叔母さーん、並盛中学ってどんな学校なんだー?」
「? 急にどうしたの。 普通の中学校…だと思うけど。」

凍夜の急な質問に、不思議そうに答える鯉菜。一方、凍夜はスマホを弄りながら「んー…」と頭を悩ましている。

「菜也ちゃんと連絡度々取ってたんだけどさ、並盛中学は変な奴が多いって言ってたぜ。」
「……菜也が?」
「つぅかお前菜也ちゃんと連絡とってたのかよ、羨ましいなぁおい。」
「『ダイナマイトを大量に持ち歩くヤツ』とか『パンツ一丁になって暴れまくるヤツ』とか…終いにゃぁ『黒スーツで二足歩行する赤ん坊を見た』とか言ってたぜ?」
「あぁ…それかぁ…」

思い当たる節があるのか、顎に手を当てて何やら考えにふける鯉菜。
だが直ぐにー


「妖怪の仕業かなって思って放っておいたんだけど…やっぱダメかな?」

「いやいやいやいや、叔母さん、そりゃあないっしょ。仮にも藤組の頭なんだから。」

「つぅかそんな危険なヤツらを放っておいて菜也ちゃんに何かあったらどうすんだよ、母親として失格だぞ?」

「……うん…それは分かってるけど……」


困ったようにため息をつく鯉菜に、続きを言うように促すオレ達。そんなオレ達に言うか言うまいか悩んでいた鯉菜だが……諦めたようにして口を開く。


「私もどんな学校なんだと思って何回か調べに行ったんだけど…いないのよ。」

「いないって…?」

「妖怪。妖が1匹たりともいないのよ。」

「…妖気をうまく隠してるだけじゃねぇのか? でねぇと、パンツ一丁の奴ァともかく、ダイナマイトとか赤ん坊は有り得ねぇだろ…」


そう返すオレ達に、「探したけど絶対にいなかった」と鯉菜は断固として譲らない。
だが、そこらの人間がダイナマイトとか持ってるわけねぇし…赤ん坊に至ってはどう説明するんだ。
そう考えていると、パタパタと足音を立てながら戻ってくる菜也ちゃん。


『ねぇねぇお母さん! 今日の晩ご飯、唐揚げにしてよ!! 凍夜兄ちゃん、お母さんの唐揚げ大好きだし!!』


一瞬にして霧散する重たかった空気。
菜也ちゃんの和やかなその可愛らしいお願いに、オレ達の口角もつい緩んでしまう。


「…ふふ、じゃあ沢山唐揚げ作らないとね!」
「いいねぇ、久し振りに叔母さんの唐揚げが食えるわ〜。」
「そんじゃぁ…オレは美味しいお酒でも買ってくるかねぇ。」


ワイワイと賑やかになっていく家。

この後、奴良組本家ほど大きくはないが…宴が行われ、
そして仕事から帰ってきた達也も途中から加わり、かなり賑やかな一日となったのだった。




(「ただいまー…ん? お客さんか…?」)
(「あっ、お邪魔してまーす、叔父さん」)
(「よーぅ、仕事お疲れさんだなぁ達也」)
(「何だ、凍夜君に鯉伴かー! よかった、オレが仕事行ってる間に嫁が浮気してるのかと…」)
(「本当に浮気してやろうか?」)
(「やめて!! 切実にやめてっ!!」)
(「……冗談に決まってんでしょ。」)

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