自殺未遂


「おい! 皆!!
山本が屋上から飛び降りようとしてるぞっ!!」


教室の目の前。
今日は早く目覚めた為、のんびりと学校に来れば…向かいの廊下から走ってくる一人の男子。その男子生徒が入ったのは私のクラスで、次いで教室から聞こえてきた声に、つい明鏡止水で私は姿を隠してしまう。
面倒ごとは嫌いなんだー
そのまま身を潜めて廊下に立ち、耳を澄ませて教室内の騒ぎを聞く。

「山本ってうちのクラスの?」
「あいつに限ってそりゃあねぇだろ〜。」
「言っていい冗談と悪い冗談があるでしょう!」

そう口々に言う皆の反応は最もだ。
山本武…彼は、漫画でよく出てくるような、天然で元気な爽やか野球少年である。そんな彼が自殺をしようなんて誰が想像するだろうか。

「それが…昨日の放課後に野球の練習で残っていたらしいんだけどよ、やり過ぎたみたいで腕を骨折したんだって!!」
「マジかよ…」
「そういや…野球のことであいつ最近悩んでた!」
「取り敢えず屋上に行こうぜ!!」

最後の言葉を機に、教室にいた者全員が屋上へと向かう。そして教室が静かになったのを見計らい、中に入ろうとすれば…

『(おっと…、危ない危ない……)』
「ツナくんも行こう!」
「と、トイレに行ってから行くよ…」

トイレって…随分と呑気だな。
そんな事を心の中でツッコミながらも、京子ちゃんの後ろ姿が見えなくなるまで見送り…そして沢田しかいない教室に明鏡止水を解いて入る。


「!! お、おはよう…」
『おはよう。』


人がいるとは思ってなかったのか、肩をびくりと揺らして驚く沢田。そんな沢田を気に止めないで自分の席に着けば、沢田がオドオドとしながら声を掛けてきた。
何をそんなにオドオドしてるんだ。

「ぬ、奴良さんは…行かないの?」
『どこへ?』
「…山本が屋上から飛び降りようとしてるんだって。」
『ふーん。』
「ふーん…って…そ、それだけ?」

私の薄い反応が意外だったのか、目を大きく見開いて「と、止めようとか思わないの?」と聞いてくる沢田。
いやいやいや、止める…って、ねぇ?


『どうせ本人は死ぬつもりなんかないっしょ。』
「え……?」
『だってさ、考えてみなよ。本当に絶望して死にたいと思うならさ、ワザワザ人が集まる所で死ななくない?』
「でも…」
『仮に落ちて死にたいとしてもさ…何で登校時間にそんな事するわけ? 登校する人達からは丸見えだし、見た者は勿論止めようとするよね。それってさ…つまりは「死なないで」って止めて欲しいだけの構ってチャンなんじゃないの?』
「そ、そんな言い方ないだろっ!?」


ビックリした…急に大声出すんだもの。
本人も怒鳴るつもりはなかったのか、慌てて口を塞いでいる。



『……何を怒ってるの?
そもそもさ、虐めとか家庭環境とかで苦しんでいる人とか沢山世の中にいる中でよ? たかが腕の1本骨折したぐらいで「死のう」とか思うなら、これから生きていけないだろうし…死にたいなら「どうぞ勝手にお死に下さい」って私は言いたいわ。』

「な、何て事言うんだよっ!! 山本からしたらそれくらい野球が大切で本気ってことだろ!? 友達なら何で助けてやろうとか思わないんだよ!!」

『……ともだち?
山本は別に友達じゃないわ。あくまでクラスメイトなだけ。
てかさ、そんな事を言う沢田はどうなの?』

「……えっ?」

『友達ならさぁ、
トイレに行く前にさっさと屋上に行って山本を助けてあげれば?』

「……っ!!
い、言われなくても、分かってるよ!!」



ニヤッとしてそう言ってやれば、ギクリとして慌てて教室を去っていく沢田。きっとこれから山本を説得しに行くのだろう…トイレに寄るのかどうかは知らないけど。

そんな事を思っていればー


「チャオっす!」

『ーあ? ……この間の…妖怪…?』

「頭吹き飛ばされてぇのか?」


目の前に現れたのは、真っ黒いスーツに身を包んだ二足歩行の赤ん坊。京子ちゃんとの帰り道で会った謎の妖怪(仮)だ。

『ねぇ、その銃ってやっぱり本物?』

私に向けられている銃はやはり本物のように思える。実際に本物を見たことは数回しかないが…偽物にはとても見えないのだ。

「お前、奴良菜也だろ?
ちょっと来い。」

私の質問は既読スルーですか、そうですか。
自分勝手にも私の手を引き、何故か廊下へと立たされる私。
え、何これ…何かの罰ゲーム? 先生にも「廊下に立ってなさい!」って言われたことないのに。私が何をしたって言うんだ。



うわぁぁああああああああああ

ぎゃああああああああああああ

『?』

突如外から聞こえてきた二つの悲鳴。近付いて聴こえてくるそれに頭を傾げていれば、謎の赤ん坊がカチャッと銃を窓に向かって構える。

「今こそ死ぬ気になる時だぞ。」
『!? ぇ、……ええっ!? 嘘ぉっ…!!?』
「追加でつむじ弾だ。つむじから…」
『何か出た!! キモッ!! 何で頭からバネが生えるの!? 意味分からん!!』
「うるせーぞ。」

何が起こったのかを説明すると…
窓を見ていれば、山本と沢田が降ってきたのだ。屋上から飛び降りたのか落ちてしまったのかは分からないが…取り敢えず落ちてきた2人。そんな沢田に、目の前にいる赤ん坊は何故か沢田の脳天を撃ったのだ。それだけでもかなり吃驚なのに、これまた更に、沢田のつむじを撃った赤ん坊。そして撃たれた所からは何故かバネが出てきた…というのが現状である。
ちなみに、
撃たれた沢田は「死ぬ気で山本を助ける!!」と最近お馴染みの怖い顔で言い放ち、言葉通りに山本を助けた。そして今は何やかんやで2人とも何故か笑っているようだ。


「…やっぱりな。今迄のも見えてたんだろ?」
『…今迄沢田が撃たれたり、急に怖い奴に豹変したのも…全部あなたの仕業?』
「そうだぞ。
死ぬ気弾って言ってな…撃ったら死ぬ気になるんだ。」
『意味不明。』


やっと沢田の二重人格の原因が分かった。死ぬ気弾は理解出来ないが…取り敢えず、それに撃たれたら全裸で暴れるということだ。
薬物みたい、こわっ!
ってことは…今まで沢田のことを妖怪だと思ってたけど、あれは勘違いだったのか。紛らわしい!


「で、お前は何者なんだ?
普通なら、落下中の人間が撃たれたなんて見える筈がねぇ。バレーの時も、ツナが脚を撃たれたのに唯一気付いていただろう。」

『あー…私視力とかが全般的にいいからさ。運動神経もだけど。』

「なめるなよ。そんなんで俺を騙せると思ってんのか?」


そう言って、
カチャッと今度は私に向けられる銃口。


『(さて…どうしたものか……)』



妖怪の事を打ち明けるか隠し通すか…
決断の時がきた。



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