ふたりのボス


未来から過去に帰って、いつもの日常が帰って来た。沢山の人が傷付いて、死んで、悲しんでいたのが嘘みたい。


『…あっ、ツナ見ーっけ!』

「えっ、奴良!? 何でこんな時間に…
あ、もしかして奴良も…?」

『そっ。君と同じく遅刻だよ。』

「アハハ…。それにしても、平和だよな。前までは遅刻したらさ、雲雀さんに咬み殺されるって絶望してたのに…今ではそれすら平和に思えるよ。」

『…そんなことで絶望するとか…ショボ。』

「なっ!? か、過去形だよ、過去形! 今はそんなことないって!!」


陽に照らされながら、ツナと二人で通学路を歩く。人通りはあまり多くはない。何故ならもう完璧な遅刻だから。
何時かというと、今は9時半。
きっと校門閉まってるだろうなぁ…


『でもさ…こんないつも通りの日常が"平和だ"って思えるのは、未来に行ったおかげだよね。もうあんなのはゴメンだけど、何だか平和な毎日にありがたみを感じるよ。』

「確かに…キツかったけど、無駄じゃなかったよな。むしろ大切で必要な時間だったっていうか…
って、そんなこと言ってたら学校見えてきたー! どーしよー! やっぱ門閉まってるよー!」

『頑張りたまえ。じゃっ☆』

「ええっ!? …あ、そっか!
奴良はぬらりひょんだから…! ちょ、待って!
オレも一緒に行かせて!
いや…行かせて下さい! 奴良様!」


ガシッと私の腕を掴んでお願いをするツナは、とてもイタリア最強のマフィアのボスには見えない。
まぁ…それは私にも言えたことなのかもしれないけどさ。妖怪にもヤクザ者にも見えないだろうし。


『…ジュース1本』

「おごります!」

『交渉成立♪ それじゃ、行きますか。
ボンゴレ10代目!』

「んなっ!
オレはマフィアのボスになんかならないんだって!!」

『まだそれ言ってんの? 諦めなって。』

「やだよ! てゆうか奴良はヤクザの当主に…?」

『もちろん、狙ってるよ。』

「ウソぉー!?」

『本当。
…だからさ、同盟関係にある私としては、将来的にツナがボンゴレ10代目になってくれたら嬉しいよ。』


明鏡止水で誰にも認識されずに、ガシャガシャと音をたてながら門を乗り越える。近くに立つ見張りの風紀委員にはバレていないけど、不思議そうに音が鳴った門を見つめていた。
そのまま下駄箱へ移動して、上靴に履き替えて、教室へと向かって…


「ば、ばれないかな…」

『…私は一番後ろの席だからバレないけど、ツナは真ん中ら辺だからねぇ。後ろの席の人達に"急に目の前に現れた!"って思われるかも。』

「だよなぁ…」


教室の前で、どうしようと頭を悩ますツナ。
そんなツナが何となく面白くて…つい、冗談を言ってしまった。


『マフィアのボスらしくさ、ツナの後ろの席の人達全員殴って気絶させたら?』

「そんなことできるわけないだろっ!!」

『ちょっ! 声でけぇよバカ!!』

「あっ」


教室に入る手前だったことから、うっかり私は明鏡止水を解いていた。もちろん、声のでかいツナの突っ込みは教室内に聞こえるわけで…


ガララッ

「その声は…やっぱり沢田と奴良か!!
遅刻して騒ぐとはいい度胸だな、廊下に立っとけ!!」

バタン!

『ツナのせいじゃん…』

「…奴良が変な冗談を言うからだろ?」


廊下に立って、二人で軽い罵りあい。
こんなやり取りすら…平和で、幸せに感じる。
それはツナも一緒なのかもしれない…



『イタリア最強マフィア…ボンゴレ10代目の沢田綱吉は、昔、廊下に立たされる程のダメツナだったとさ。』

「妖怪任侠奴良組傘下の藤組…奴良菜也は、人間と妖怪の血を継ぐ変な女の子だったとさ。」

『ツナに変とか言われたくなーい』

「んなっ!
オレより菜也の方が変……、あっ、」

『"菜也"…か。ほーう…』

「な、何だよ…
そっちだってオレのことツナって呼ぶだろ?」

『別に〜? 私は何も言ってないじゃ〜ん』

「うっ…な、何かその言い方腹立つぞ!?」

ガララッ

「授業中だ!! 静かに立っとらんか!!」


先生に怒られて慌てて口を閉じたけど…
しばらくして、また二人でニヤニヤと軽口をたたきあった。

お互い、何ともボスらしくないボスだ。


これからも、きっと互いの面倒事に巻き込まれて巻き込んで行くのかもしれないけど…
それはそれでいいかなって、今では思えるようになった。

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