痛む胸(凍夜side)
「っしゃあ!
ヘドロを倒したぜ、流石はオレ!」
「ヘドロっつーか山ン本な。」
「つぅか何自分一人の手柄にしてんだよ!
このオレ、淡島を鬼纏ったくせに!」
「私だって、凍夜一人じゃ厳しいから凍らせるの手伝ったのに。」
「流石リクオの子だな。」
「けほけほ…鯉菜の性格も引き継いでる気がする…」
菜也と別れた後、オレは勇敢にもヘドロ的山ン本を倒した。なのに何だこのブーイングの嵐は。オレへの新たなイジメか?
「さてと…オレは菜也の手伝いにでも行くかね。」
「オイラは残党狩りするぜー! まだ暴れたりねぇしな。」
「よし、イタク、雨造!
誰が残党を多く狩ったか勝負しようぜ。つっても勝つのはこの淡島だけどな!」
「フンッ 上等だ。
負けた奴は風呂掃除と薪割りだからな。」
ワイワイとこんな時でも楽しそうに騒ぐ遠野勢を置いて、先程の場所へと向かう。
もうそろそろ決着もついてるかもしれない…
万が一のために急ぎ足で行けば、何やら嗚咽のようなものが耳に入ってきた。樹の影から覗いてみると、声を殺しながら泣き崩れている菜也の姿があった。
「………」
どうするべきか。
少し考えた結果、オレはー
「おーい! 菜也ー!
どこだー? 応援に来たぞー!」
『! …は、…はーい!
コッチも終わったから、直ぐ行くー!』
「おー! よく頑張ったなー!!
えらいぞー! つぅか、何処にいるんだー!?」
『待ってってばー!
そっちに行くからぁー!』
少し遠くから大きな声で叫び、菜也を探すふり。しばらくすれば、いつものように菜也が笑顔でやってきた。
まぁ、笑顔と言っても目鼻は少し腫れてるが…。
「お疲れさん、ちゃんと倒せたのか?」
『うん! 御門院も柳田も倒したよ!
凍夜兄ちゃんが修業してくれたおかげだね!』
「ばーか。お前が頑張ったからだよ。
…本当、よくやった。」
頭を撫でてやれば、嬉しそうにコイツは目を細めた。
こっちに来た当初を除き、菜也は今まで泣かなかったし、泣き言も言わなかった。ただただ、修業を一生懸命に頑張っていた。
「(ずっと我慢してたんだろうな…)」
『凍夜兄ちゃんはちゃんと山ン本倒せたの?』
「当たり前だろ? ちょちょいのちょいだったぜ。」
二人で休憩がてら話しながら歩き…
広場の方へと向かえば、既に皆揃っていた。どうやらこっちも片付いていたようだ。
「凍夜殿、柳田は…」
「菜也が倒したぜ。」
「なんと! ちなみに陰陽師の頭が分かりました、御門院成道という男なようで…」
『あ、私それ倒したよ。』
「おおっ! 流石は菜也様ですねぇ〜 10年前から強かったとは…!」
『ははは…』
「なぁ、オレも。オレもヘドロを倒したんだぜ? 誰かオレを褒めようぜ、なぁ。」
「ヘドロ?」
今日知り合ったばかりだが…オレ達の出入りに協力してくれただけある。皆良い奴等ばかりだ。敵も倒したことだし、皆で乾杯といきたいところだが…
どうやらそうもいかないらしい。
血相変えながら走ってくる奴が見える。
「凍夜さ〜ん!
只今入りました情報によると、ある軍勢が京へ向かっているとのことです!」
「ある軍勢?」
「はい! オレもよく分からないのですが…
人とも妖怪とも言い難いような…"化け物"のようなものらしいです!」
『それって…』
「あぁ…。
なぁ、そいつらの他に白い隊服か白衣着たやついなかったか?」
「あ、いました! そいつらは白衣を着た人間なようですけど…」
『やっぱり…!』
思い当たるのはただ1つ。
ミルフィオーレが人体実験で生み出したものだろう。それが京へ向かってるということは…
『京って…
ツナ達のところへ向かってるんじゃ…』
「違いねぇ。オレ達がここに来てるのを見計らって、奴等はツナ達を襲撃するつもりだ。」
柳田らといい…あのミルフィオーレの科学者といい…随分とあちこちへオレ達を引っ張りまわしてくれるぜ。
『行かなくちゃ…
今すぐツナ達のもとに帰らないと!』
「あぁ…!
お前達、悪いがもう少しだけ付き合ってくれ! 次で最後だ。これが終わったら皆で祝杯をあげるぞ!!」
「「「おおぉぉぉっ!!!」」」
今日知り合ってここまで着いてきてくれた奴はもちろん、遠野勢も「借りができたから」と腰をあげてくれた。
向かう先は、ツナ達のところ。
今度こそ最後となるであろう戦いに向けて、オレ達は走り出した。
(『ちょ、ちょっと待ってよ!
走っていくの!? 宝船は!?』)
(「あ…そいつの存在忘れてた…
おーい皆! コイツに乗って行くぞー!」)
(『…はぁ…うっかりし過ぎだよ…』)
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