虚しさ


『一体どこに……、いたっ!!』

「奴良菜也…!」

「…ほぅ、どうやら奴良凍夜の方は来ていないようだな。成る程…これなら余裕で倒せよう。」

『…随分となめてくれるね。』


凍夜兄ちゃんと別れて一人でこいつらを追いかけにきた私だけれど…うん、陰陽師の方にかなりナメられてる。柳田は刀を一応構えてるけど、心ここにあらずって感じ。多分だけど、復活した山ン本が柳田を含めて皆殺ししようとしたのがショックだったのだろう。ざまぁみろ。


「紹介が遅れたな。私の名は御門院成道…
晴明様と歴代当主の仇をとらせてもらう。」

『それはこっちの台詞よ…
父と母、そして仲間の仇をとらせてもらう。』


人斬り・紅葉刀を抜刀。
対して向こうは何も取り出さない。武器を持たない…それは即ち術で戦うということだろう。面倒なパターンがきた。


「本当…私はついているようだ。この時代の貴様なら少々苦戦しただろうが、10年前の貴様なら楽勝だ。貴様が妖力を使えないのは知っているからなぁ!」

『!』


成道が手を振ると、目の前に影が落ちた。
急いで振り返るが…土でできた大きな手に捕まってしまった。どうやら相手は土を操るらしい。


「ふっ…瞬殺だな。せめて楽に死ぬように一瞬で握り潰してくれるわ。」

『誰が何を握り潰すって?』

「なに…っ!」

『"鏡花水月"…私ももう使えるんだよね。
確かに10年前の私は妖力を使いこなせなかったけど、ここにいる私は10年後の未来にきた10年前の私だから。…せっかくだ、他の技ももう使いこなせてることを証明してあげようか?
明鏡止水"桜火龍"!』

「…だとしてもだ。なまぬるいわ!」


簡単に術で防がれてしまったけれど…
それでも、私は凍夜兄ちゃんに鍛えてもらったおかげで、業を使えるようになったんだ。しかも匣兵器も使いこなせるようになっている。
負ける気が、しない。


「私は土を操ることができるのだ…いくら妖怪として目覚めようが、貴様が地で戦う以上、私には勝てるまい。"歓天隆起"。」

ゴゴゴゴゴ…

『ん…? ぉわっ! 飛び出てきた! うわっ!』


地面からあちこち勢いよく隆起する。別にただの地面が隆起してるなら当たっても『痛い』で済むだろうけど…残念ながら鋭利な針の形でランダムに飛び出してくるから恐ろしい。当たったら『痛い』じゃすまないよ。グサッて刺さって、当たりどころが悪ければ死んじゃうよ。


『…でもまぁ…、慣れれば、簡単に、ひょいって、避けられ、るね!』

「避けながら余裕そうに話すな!」

『だって余裕だから仕方ないじゃん。』


やっぱり妖怪の血のおかげかな? 動体視力やら反応が良いから簡単に避けられちゃう。
でも成道はそんな私にご立腹なようで…


「…だったら…これでどうだ! 必殺"蟻地獄"!」

ズブッ…

『んぉっ…!
び、ビビった〜…吃驚して変な声出たわ…』


地面が隆起するのを止めて、蟻地獄へと変わった。出ようと思っても底抜けになっているため足場がない…これでは出るに出られないな。


「フンッ…このまま沈み死ね。そしたら次は貴様の兄である奴良凍夜を殺してやろう。」

『正式には従兄だけどね。
…てゆぅかさ…アンタに凍夜兄ちゃんは殺せないよ。凍夜兄ちゃんは私よりも断っ然強いし、それに…』


沈むペースが早く、あっという間に胸のところまで体が沈んだ。でも…黙ってやられるほど私はもう弱くない。


『アンタは私にここで倒されるからね。
えっと…ファルファ、カンビオ・フォルマ!』

「!?」


蝶々・ファルファの形態変化。
ボンゴレ匣のみ、形態変化により武具にも成りうるのだ。例えばツナのだったらマントになってたし、獄寺のは弓矢になってた気がする。
そして私のはー


『ファルファ・ブーツ…
地面に立ってられないなら宙で戦えばいいんでしょ?』

「…くっ…」


一見普通のロングブーツに見えるけど、よく見たら蝶々の羽がついている。そのため、宙に浮くことができる。


「…はっ! 例え宙に浮くことができようが、攻撃できなければ…」

『誰が、攻撃できないなんて言ったっけ…
受けてみる?』

「なっ…ちょ、ちょっと待っ…!」

『逆襲の時はもうとっくに来てるのよ…
待つわけないじゃん、"蝶の風斬り舞"!』

「ぐあっ…!?」

「な、成道…!」

『次はお前だ、柳田。
明鏡止水"桜"!!』

「ぅ"あ"ぁ"ああぁ…!
さ"、山ン本…様ぁ…、ど…して…! ぅ"う…!」

『………』


成道を倒し、柳田もようやく葬った。


『…?
これは…柳田が耳に付けてた鈴…山ン本の鼻か。』


火も柳田もなくなった後に遺されたそれを壊せば、最期にそれはチリンと音を奏でた。


…終わった。







『ようやく…終わったんだ…
終わったよ…お母さん…! お父さん…っ!!』


全ての元凶を倒したのに…素直に喜べない。
喜びを分かち合う家族がいないって、こんなに哀しいんだ。


『ふっ……ぅ、…お母さ…ん…!
お父…さぁん……、私、倒し…んだよ…っ
ちゃ…と、…妖怪の力も…使え…よーになったんだよ!』


凍夜兄ちゃんのところに行かなくちゃいけないし、他の皆の手伝いにも行かなくちゃいけないのに…


『…ひ…くっ……、』


誰もいないことを良いことに…
しばらくの間、私は一人で泣いた。

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