ヘドロ


ボンゴレのアジトを出て、まず最初に向かったのは奴良組本家。どうやらそこに全国各地から募った仲間を招集したらしい。実際、奴良組本家に着けば多くの見知らぬ人達に出迎えられた。きっと彼等はリクおじさん達が集めた、人間と妖怪の血を持つものなのだろう。やっぱりそこまで多くはないけれど、予想以上には多い。


「凍夜…それに菜也ちゃんも…、本当に無事で良かったわ!」

「ちょっ!母さん何泣いてんだよ!」

「何言ってやがる。氷麗はずっとオメーらのことを心配してたんだぞ。…それにしても…せめて菜也が無事で良かったぜ。」

『リクおじさんも…無事で良かったです』


氷麗おばさんは泣きながら私と凍夜兄ちゃんを抱きしめて、リクおじさんは苦い顔で私の頭を撫でてくれた。私のお母さんは、リクおじさんのお姉さんでもあるんだ。リクおじさんもきっとつらいに違いない…

その後は、奴良組現当主である凍夜兄ちゃんが皆に挨拶をして…皆で宝船に乗って遠野へ向かった。
宝船に乗ってる間は皆で作戦会議。
匣兵器のことを伝え、皆に注意するように促した。


そして遂にー


「着いたな…行くぜ!」

『うん 行こう!』


私達は一斉に遠野に入った。
中ではたくさんの妖怪が倒れていて…既に柳田達が暴れているのが分かった。奥に進めばミルフィオーレや御門院の人達がチラホラ見えてきて…


「クルー、"秋風索寞"」

「!? 何だ、目の前が真っ暗に…!!」

「くそっ 体が重い…!」


凛とした声に応えるように、次の瞬間、強い風が吹いた。凍夜兄ちゃんの匣兵器の鶴だ。その強い風には夕闇の炎が含まれているため、何人かは視界が悪くなって戸惑っている。しかもその技の効果は敵の動きを遅くするものだから、その隙をついて皆は攻撃をしていく。

今回の作戦、それは…
対妖怪用匣でこちらのを力を吸い取る前に倒すこと。そして、この作戦の鍵となるのは…夕闇の炎だ。


『私達に喧嘩を売ったこと…夢と現実の狭間で後悔すればいい。"胡蝶之夢"!』

「なん…だ…急に…眠気が……、…グー…」

「!?
おいっお前の顔に蝶のマークが…ぐわっ!!」


私のボンゴレ匣は蝶々と長刀だ。
そして夕闇の炎入りの鱗粉を浴びた者はしばらくの間…極度の眠気に襲われるか、蝶に体をのっとられる。ちなみにのっとられた奴等の顔には蝶々のマークが浮き出てるので、味方としては分かりやすい。

こんなふうに…
私と凍夜兄ちゃんの夕闇の炎で敵を弱らせるのが鍵なのだ。他の者は夕闇のリングなんて持っていないので、この役目だけは私と凍夜兄ちゃんにしかできない。


「いいかお前ら! 匣兵器を持ってる奴には無理に近付くな! 遭遇したらオレ達のところへ誘き寄せろ!
…おっと、危ねぇな。明鏡止水"氷桜"!」

「…イタク達がいねぇな…。
おいっ 凍夜! オレはイタクを探しに先行っとくぜ!」

「あ"ぁっ!? ふざけんなよ親父! アンタは夕闇のリング持ってねーだろ! 畏れ吸い取られたらどーすんだ!」

『…リクおじさん! その子使って!
チェル、リクおじさんを援護してね!』


私のもう1つの匣兵器から出てきたのは鹿で、その子をリクおじさんに付き添わせた。何もないよりかはマシだろう。
それにしても、イタクさん達も無事だといいけどな…。ちなみに私はイタクさん達のことを知らない、というか覚えてない。物心つく前に会ったことあるらしいけど…流石にそんな小さい時ことは記憶にないからだ。


「おっ イタクじゃねーか! 無事か!?」

「あ? 何でリクオがここにいるんだ。」

「助けに来たに決まってんだろ? 久しぶりに鬼纏うぞ!」

「はぁっ!? 何勝手なこと…! 聞けよ!」

『……リクおじさん、無事にイタクさんと合流できたみたいだね。』

「イタクさんは出会って早々災難だがな。」


姿は見えないけれど聞こえてくる会話に、凍夜兄ちゃんと顔を見合わせて苦笑いした。リクおじさんは昼と夜の差が相変わらず大きいと思う。お母さんや凍夜兄ちゃんは外見を除けばそうでもないのに…面白いものだ。

そんな事を考えていれば…
何かを感じ取ったらしい凍夜兄ちゃんが「こっちだ!」と急に走り始めた。疑問に思いつつも後を追うと、そこには男の人がいた。


「その成り…てめぇが柳田か!」

『!』

「そうだよ。君達は奴良鯉菜とリクオの子供だね? 山ン本様が復活のための準備をしている間に、奴良組はどんどん大きくなっていく。腹立たしいけど壊し甲斐があるよ。」


そう言いながら振り返った彼は、私達を憎たらし気に睨む。その目はどこか狂気染みていて、背筋が少しぞわっとした。


「君達は知らないだろうけど、山ン本様は地獄で進化されたんだ。以前は大きな畏れを持った器が必要だったんだけどね、今では大量の畏れさえあれば復活できるようになったんだよ…!」

『だから匣兵器を使って畏れを集めてた…』

「そうだ。この山ン本の"鼻"は畏れを嗅ぎ取ることができてね…これを使って畏れの集中してるところに襲撃してきたんだよ。おかげでほら…こんなにも畏れが集まった。見える哉。」

「…それは…」

「これは釜だ。畏れを集めてもそれを貯めるのものがいるだろう? それが、コレだ。晴明様の邪魔をした貴様らを倒すために、私達は山ン本の復活を手伝っているんだよ…!」

『御門院家…』

「菜也、気を付けろ。多分コイツ…今まで倒してきた陰陽師とは次元が違うぞ…」


新たに現れたのは陰陽師で…
彼を見た凍夜兄ちゃんは嫌そうにそう言った。その後小声で「陰陽師苦手なんだよなぁ」と言ったのも私は聞き逃さなかった…まぁ、凍夜兄ちゃんは妖怪の血の方が強いもんね。


「後は地獄から山ン本を召喚すれば…貴様らの終わりだ。」

「召喚ねぇ…
そんじゃ…先手必勝だな!」

「フン…」

『!
凍夜兄ちゃん、危ないっ!』

「!」


召喚させるまいと攻撃を仕掛けた凍夜兄ちゃんだったけど、そこには五芒星の罠があった。五芒星の中に入った凍夜兄ちゃんに慌てて体当たりするや否や、爆風に二人して吹き飛ばされる。
良かった…ギリ逃れられた。でも壁に背中を打ち付けて痛い。ジンジンする。


『…もうっ! 少しは気を付けてよ! 危うく凍夜兄ちゃん爆発されるところだったんだよ!』

「痛てて…
危うく滅されるところだったわ、サンキュー。」

『少しは反省してよ!』

「だってさー…」

『だってもクソもない!』


こんなことで喧嘩してる場合じゃないのに…ついついやってしまった。そして敵も私達のやり取りを待ってくれるほど優しいわけもなく…


「バカが…貴様らのおかげで無事に完成させることができたわ。」

「あぁ…山ン本様がついに…!
ついに、また復活した…!!」


釜からドロドロしたものが溢れでて…
それは終いには超巨大なモノになった。目や口、手らしきものが形成されてるけど…全体的にドロドロ。しかも何か煙みたいなの出てるし。


「何だあれ。ヘドロみてぇだし…臭っせぇ!」

『…? …なんか聞こえない…?』

「あ"ぁ"ぁ"あ"あ"ぁ"…
奴良組…許すまじぃ… 圓潮も鏡斎も…役立たずの屑共がぁ…全員呪い殺してやる…皆殺しじゃぁ…」

「そ、そんな…山ン本様…?」

「…柳田、逃げるぞ。このままじゃ貴様も私も死ぬぞ。」

『あ、逃げたアイツら!』

「おいおい…自分達で作ったくせに置いてきぼりかよ。しかもこのヘドロ、酸性の火砕流みてぇ。」

『酸性の火砕流? なにそれ』

「だって見てみ。アイツが触れたもの全部腐り堕ちてるし…なんか煙出てるし…臭ぇし…。人も妖怪も動物も大地も…コイツに触れたら全部死ぬじゃん。」


どうすっかなーと怠そうに凍夜兄ちゃんは考えてるけど、もう少し危機感を持てというか真面目にやって欲しい。リクおじさんも氷麗も真面目なのに…一体誰の血のせいだ?


『…私のお母さんとお父さんに似てる気がする。』

「え? 何が?」

『何でもない。それよりどうするの、コレ。』

「…そうだなぁ…あれは液体みたいなものだしなぁ…冷麗さんと協力して凍らせてみるかな。てわけで菜也、お前は柳田とさっきの陰陽師を倒して来てくれるか?
大丈夫! お前は強くなったし、柳田は十中八九雑魚だし、あの陰陽師も柳田というお荷物がいるからきっとお前なら倒せるぜ!」

『勿論良いけど…
本当は陰陽師相手にするのが怖いからとかじゃないの?』

「はっはー …何で分かったの?」

『聞かなきゃ良かった。』


今までの超やる気モードは何だったんだってくらいに、凍夜兄ちゃんのせいで士気が下がった感じがする。そういえば前に陽炎が言ってたな…凍夜兄ちゃんがだらしない分、他の皆が"しっかりしなくちゃ"とはりきるって。だから当主だけでなく、奴良組の皆の武力が全体的に上がったって。


『…ハァ…狙ってやってるのか素なのか…
仕方ない、ちゃちゃっと片付けて来るか。』


復活した山ン本は凍夜兄ちゃんに任せ、私は柳田達が去った方へと向かった。





(「あ、親父!」)
(「凍夜じゃねぇか…っておい、何だありゃ…」)
(「ヘドロ的山ン本、臭ぇよな。親父が倒して。」)
(「何でだよ…お前が倒せよ当主だろ。
てゆぅか菜也は?」)
(「菜也には仇を取りに行かせた。」)
(「! …そうか。」)

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