遠野へ
京子ちゃん達のボイコットが始まって3日目のこと…
アジトでは今異変が起きていた。
「何者かに回線をジャックされてます!」
「白蘭だ!」
『この人が白蘭…』
「やぁ、元気かい?
"チョイス"についての業務連絡をしようと思って。6日後お昼の12時に、並盛神社に集合。取り敢えず必要な準備して仲間は全員連れてきてね。少なくとも過去から来たお友達は全員だよ。」
「全員って…京子ちゃんやハルも!?」
「そこに意味があるんじゃないか。皆で来ないと君達は失格だからね。じゃあ修業頑張ってね〜♪」
回線をジャックして画面に映し出されたのは白蘭で、まるで子供のような人だった。ケラケラと笑ってて無邪気な感じ…想像とは違ってて意外。
『じゃあ京子ちゃん達には話しなくちゃいけないんじゃない?』
「その点なら心配ないぞ。もうツナが話したからな。」
「10代目が!?」
『散々話さないでいこうねって皆に言ってたくせに、その張本人が無断でバラしにいくとか。ドイヒー!』
「仕方ねぇぞ。ダメツナだからな。」
「なっ、い、言おうと思ってたら急に回線がジャックされて言う暇なかったんだよ!!」
リボーンと一緒にツナをディスっていれば、新な客人の登場。いや、客人じゃなくて師匠か。
「セキュリティがザルなんだぁ、アマチュア友がぁ。みやげだ。」
「(何故にマグロ…?)
遅かったなスクアーロ。生徒がお待ちかねだぜ。」
「!
もしかしてオレの修業の家庭教師って…ぐあっ!?」
1発、2発、3発…一体何回殴り蹴りするんだというほどに、スクアーロはいきなり山本に暴力を振るった。山本が誰かとの戦いに負けたのが余程腹立っているのだろう…それにしても、むごい。終いにはどこかの歯が抜け落ちたし、気を失ってる。血がダラダラ出てるし…それに歯は痛い。すごく痛い。治療した方がいい気がする。
「山本!」
「殺しやがったのか!?」
「まったく殺してやりてぇぜ。このカスはあずかっていくぞぉ。」
「ええっ!? そんなこと…!」
『ま、待って…、せめて歯だけでも治して…』
「う"ぉぉぃ…聞くの忘れるところだったぜぇ」
『?』
「お前、初代ボンゴレに会ったことあるかぁ?」
『…私はないけど…私のひいおじいちゃんならあるよ。』
「…だよなぁ…じゃあこの時代のお前ってことか。」
『え、ちょ、何の話なの』
「気にすんな、せいぜい生き延びろよぉ!」
『うわっ ちょ…何だったのアレ…』
一方的に何やら意味深なことを言ったと思いきや、わしゃわしゃと人の頭をグシャグシャに乱して去りやがった。
ディーノさんは苦笑いしてるし、凍夜兄ちゃんは冷気を放出してる。何なのお前ら皆。てゆうか凍夜兄ちゃんは過保護通り越してシスコンだよね。
そして、そこからはあっという間だった。
京子ちゃんとハルちゃんも事情を知ったことでより一層頑張ってたし、家事や隠し事をしなくて済んだからかツナ達も修業に専念できるようになった。
チョイスの日が少しずつ近づいてきて…
勿論、私もそのチョイスとやらに参加するつもりだったけれどー
「菜也! 情報を掴んだぞ!」
『情報?』
「あぁ…敵は東北に向かってるらしい。」
『何で東北に…』
「言っただろ、柳田は山ン本を復活させようとしてるって。山ン本を復活させるには大量の畏れが必要なんだ。恐らくだが…遠野の奴等に今度は目をつけたんだろう。あそこは遠野の村ごと畏れに包まれてるしな…」
『…でも、何でよりによってこのタイミングで…!
チョイスは明日なのに…!』
「チッ…謀りやがったな…。
奴等はもとからオレ達の戦力を削るつもりだったんだ。ツナ達は必ずチョイスへ行く。それを狙って、チョイス直前の今になって奴等は動き出した。今まで大人しく隠れてたのはそのためだったんだ…クソッ!」
『……私…どうすれば…』
「…菜也のどちらを選んだとしても、オレは遠野へ向かう。お前も後悔しない道を選べ。今すぐに向かいたいところだが…招集かけなくちゃならねぇし、遅くとも今晩ここを去るから。それだけは覚えといてくれ。」
そう言って、凍夜兄ちゃんは去っていった。
チョイスというものにも参加するつもりだったし、柳田を倒すつもりだった。それがまさか同時期に違う場所で動き出すなんて…
『…私は…』
後悔しない道。
そんなの、決まってる…
パンッと自分の両頬を叩いて、ツナがいるであろう修業部屋へと向かう。部屋に入ればツナとリボーンがいて…まだ何も知らない彼らは「奴良がここに来るなんて珍しいな」と声をかけてきた。
…罪悪感が、胸を占める。
『…あのさ、話があるんだけど…』
「明日のことか?」
『う、うん…』
「やっぱり緊張するよな…
オレも明日だと思うとドキドキしてさ…なのにリボーンはオレがヘタレだって言うんだぞ。酷いよな!?」
『あ〜…うん、緊張するよね、やっぱ。』
「…奴良? もしかして、どっか具合悪いのか!? さっきから様子が変だぞ!」
ワタワタと慌て出すツナを飛び蹴りで静かにさせたリボーンは、私に話をするように促す。だから凍夜兄ちゃんから聞いたことを二人に話した。リボーンは難しい顔をしてて、ツナは「どうしよう」と顔を青くしている。
『チョイスには私も勿論出るつもりだった。
でも…遠野の皆には昔からお世話になってるみたいだし、皆を見捨てるわけにはいかない。』
「…でも…白蘭は全員で来いって…!
凍夜さん達だけで何とかならないのか!?」
『…凍夜兄ちゃんは、私がどっちを選んでも、遠野へ行くって言ってくれた。でもね…私後悔したくないの。遠野の皆は強いみたいだけど、皆生粋の妖怪だし…対妖怪用匣でかなり苦戦すると思う。
それに、私は夕闇の守護者の前に、奴良組でもあって藤組でもあるから。』
「……そんな…」
「…こればっかりは仕方がねぇぞ、ツナ。それに前にも言った筈だ。菜也はボンゴレと同盟関係にあるだけで、お前の部下じゃねぇ。」
『…ごめん、ツナ。でも柳田達を片付けたら、直ぐにここに帰ってくるから。もしかしたら全て終わってて役に立てないかもしれないけど…』
「…うん、…なんかゴメン…。
オレ奴良の立場をちゃんと分かってなかったかも…。オレも獄寺君や山本達皆と頑張るからさ、奴良も頑張って…ちゃんと帰ってこいよ。皆待ってるから。」
『…ん、ありがとう。お互い頑張って、ちゃんと私達の知ってる並盛に帰ろうね。約束だよ。』
小さい子みたいでちょっと照れ臭いけれど、指切りをした。そして『用意があるから』と言って、その部屋を去る。
自分の部屋に帰ってからは、和服を身に纏って戦闘準備。どうやら未来の私はいつもコレを着て出入りに出てたらしい…あまり和服着ないからか少しソワソワするけど、何だか気合いが入る。
そして夜になってアジトの出入り口へと向かえば、皆がそこで待ち伏せしていた。コッソリ出ようと思ってたのに…失敗だな。
「お、似合うじゃねーかその着物。」
『ありがと。てか凍夜兄ちゃんでしょ…ツナとリボーンにしか出ること言ってなかったのに。バラしたね。』
「けっ 10代目の手を煩わしやがって」
『私何もしてなくね?』
「奴良、頑張って来い! 気合いで勝つのだぞ!」
『うぃっす…』
「菜也ちゃん!」
「頑張って…絶対帰ってきてね!」
『京子ちゃん、ハルちゃん。帰ったらまた一緒に遊んでね。』
皆と一言一言かわしながら、最後にツナと顔を見合わせた。心配そうな顔。相変わらず眉間に皺をよく寄せるなぁ…
「約束、ちゃんと守れよ。」
『そっちこそ!
皆のこともちゃんと守れよ、ボス。』
「奴良にボスって言われると怖いんだけど!」
『おいコルァそれどういう意味だ?』
軽口を叩いた後、出入り口の戸が開いた。凍夜兄ちゃんの顔を見上げれば、彼も私を見下ろして頷いた。
「いってらっしゃい」
その言葉を背に聞きながら、この夜、二人で遠野へと向かった。
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