もぬけの殻


「いいか、作戦は昨日言った通りだ。
オレ達は陰陽師との戦い方を知らねぇ。況してや向こうには陰陽師だけでなくミルフィオーレも関わってるかもしれねぇ。戦闘はできる限り避けろ。そして生き残ってる奴の奪還だ。」


朝日が町中を照らし始める時。
町中にはあまり人がおらず、朝の静けさにリボーンの声がえらく響いた。

向かう先は、花開院家跡。

花開院家跡前で昨晩決めたグループに別れ、行動。私のチームはリボーンとツナ。凍夜兄ちゃんはランボと了平さんとバジル君と。クロームちゃんは獄寺と山本とチームを組んでいる。
このチーム分けには勿論理由がある。


「…こんなに堂々と入ってもバレないなんて…妖怪って凄いんだな。」

『妖怪全てじゃないよ。コレは私と凍夜兄ちゃんがぬらりひょんって妖怪の血を継いでるから。私としては人間の骸やクロームちゃんが幻覚使える方が驚きだよ。』


バレないように行動できるチーム…
即ち、幻覚や明鏡止水ができる人が各チームにいるのだ。そして、それぞれ正門・西門・東門から侵入する作戦だ。
ちなみに私は正門からなのだが…


『…おかしい。』

「どうしたんだ?」

『正門から私達逃げてきたから…死体とかも正門に沢山転がってると思ったんだけど。』

「ナ、ナチュラルに死体って言うなよ!」

「…片付けたってことか…? それにしても血痕がねぇのが変だな。」


私達以外の話し声も、生活音も、何も聞こえない。本当にここに人が住んでるのか疑いたくなるくらいだ。
まぁ…花開院家は壊滅したらしいから、当たり前っちゃ当たり前だけどさ。でも一応、屋敷については他の2チームが今頃探索してる筈だ。後で色々ときいてみよう。

そんな事を思いながらも、昨日の記憶を辿る。
地下への出入り口は…確かコッチだ。


「…広い屋敷だな」

『花開院家の時代も長いからね…確か平安時代からじゃなかったかな。』

「へ、平安ー!?」

『安倍晴明のライバルに蘆屋道満っていたらしいんだけどね、その人の子孫が花開院家なんだって。』


地下へ入れば、みるみると蘇ってくる記憶。
その忌々しい記憶に眉を寄せながらも、奥の方へ一歩一歩進んでいった。

人は…誰一人いる気配がない。

もしかして全員で場所を移ったのか…? もしくは、私達が来るのを知っていて身を潜めているか。どっちだろう。


「…あ! なぁ、この部屋って…」

『ここは…警備っつーか…セキュリティの部屋?』

「見る限りそうだな。だが…ここに人がいねぇとなると、この建物はもぬけの殻の可能性ががあるな。」

『…確かに。相手からしたら、アジトの場所が私達にバレたってことだもんね。昨日のうちに場所を逃げるのも納得だわ。』

「…あ、これ地図じゃないか?」

「よく見つけたな。
よし、それを見ながら全部屋調べるぞ。」


ツナの見つけた地図を頼りに、地下1階から隅々と見てまわった。地上では死体を1つも見かけなかったのに…地下では時々それを見かけた。血ももう渇いてるけど、痕が残っている。
でもソレは全部、御門院家と思われる和装の人と白い隊服を見に纏った人だ。


「よ、妖怪の死体を見かけないってことは、皆なんとか無事なんじゃ…?」

『んなわけあるか。私みたいに人間と妖怪両方の血を継ぐものは死体が残るけど、妖怪の血100%の妖怪は死体が残らないの。最終的に消えるの。』

「そ、そうなんだ…」

『もっと言えば、心臓食べられても死なない。寿命は減るけどね。』

「す、すげー!
…ん? じゃあ尚更皆何とか逃げたんじゃ…」

『心臓は食べられても死なないけど、畏れをなくしたら消える。私達のこの死ぬ気の炎だってそうなんでしょう? 死ぬ気の炎をずっと消耗してたら、生命エネルギーである死ぬ気の炎もあつかはガス欠、そして死亡。
況してやあんな対妖怪用匣を使われたら…敵う筈ないよ。』


そう言いながらも、調査する手足は動き続ける。念のため持ってきていたリュックに重要そうな書類を突っ込んだり…パソコンを弄くったりもした。
そんな感じで、次の階へ移った時のこと。

嫌な既視感に、
この廊下の先にある部屋が、アノ部屋だってことに気付いた。


『………』

「ちょ、奴良!? 何処に行ってるんだよ?」

『悪いけど、2人はここら辺の部屋調べててくれる? 私はあの部屋を見てくるから。』

「駄目だよ! 一緒に行動しないと、もし何かあったら…」

『大丈夫。
まだ使い方も分からないけどこの子達もいるし、それにもしもの時は呼ぶから。』


匣兵器を出してみせるが、それでもツナは納得しない。どうしたものかと思ってたけれど、リボーンが意外にも許可してくれた。
ツナには悪いけど、リボーンには久しぶりに感謝したかも。


『じゃ、また後で』


心配気な表情を浮かべるツナと別れ、その部屋へと向かった。ドアノブを回すと、ガチャと無機質な音が響いた。
体がこの部屋を入ることを拒絶してるのか…さっきから震えが止まらないし、心臓の音も煩く聴こえる。

でも、
知りたい、認めたくない、会いたい…
そんな気持ちが上回った。

だけどー


『…陽炎…?』


壁に寄りかかるようにして、座り込んでいる陽炎。
震える手で陽炎の頬に手を添えれば、ヒヤリとした温度が伝わってきた。
息が止まっている…


『……これは…手紙?』


握られていた紙を捲れば、御世辞にもきれいとは言い難い字が沢山書かれてあった。ところどころ血も滲んでいて、最後の力を振り絞ってコレを書いたことがうかがえた。
内容は主に3点。
1つ目は、陽炎が花開院家跡に戻った理由について。この脱出計画を練っている際、お母さんにある頼まれ事を受けたらしい。それを果たすために、陽炎はここへ戻ってきたとのこと。
2つ目は、その頼まれ事について。万が一お母さんが死んだ場合、その死体を燃やして欲しいと頼まれたようだ。というのも、私がお母さんの死体を見て哀しみに暮れることを避けるためらしい。
3つ目はー


ギィィ…

「ぬ、奴良…? いる…?」

「ビビってねぇでさっさと入りやがれ、ダメツナ!」

「痛ぇっ!!?」


突如…
そろっとドアを開けつつも、リボーンに蹴られたことで勢いよく中へ入ってきたツナ。頭を蹴られたのか、痛いと言いながら後頭部を押さえている。
そんな彼から視線を戻そうとした時、ふと視界に入った赤い壁。正確に言えば…白の壁に書かれた赤い文字。


『…3つ目は…"オレ達は負けない"…』

「え? …っ…な、なんだこれ!? 血の文字!?」

「!
おいっ、そいつ…陽炎じゃねーのか?」


陽炎とこの手紙に気を取られて気が付くのが遅れてしまった。陽炎が背を預けている壁には、"オレ達は負けない"とデカデカと書かれてあった。恐らくこれは己の血で書いたのだろう。そして、これを書い直後にきっと気を失ったのだろう。


「10代目ー!! 御無事で……っ!?」

「菜也ー! お前も大丈…夫じゃなさそうだな…」

「…あれは…血文字…?」


花開院家の調査が終わったのか…他の皆もやって来た。皆、壁と陽炎を見合わせて…顔を青くしている。
…あぁ…ランボちゃんは今にも泣き出しそうだ。


「…菜也…」

『……凍夜兄ちゃん…、お母さんとお父さん…やっぱり死んじゃったんだって…。』


陽炎の書いた後手紙を渡せば、凍夜兄ちゃんは直ぐ様それを読み始めた。そしてしばらくして、「そうか…」って、眉を寄せながら小さく呟いた。

正直、もしかしたら生きてるんじゃって思ってた。

お母さんもリクおじさんも何も語らないけれど、周りの者はよく教えてくれたから。ピンチを幾度も乗り越えてきたってことを。妖怪の血を4分の1しか継いでないけど強かったことを。
だから僅かに期待してた。
けれどー


『本当に…死んじゃったんだね…』

「菜也…」

「………」

『ねぇ、凍夜兄ちゃん』

「…うん?」


しんとした部屋に漂う重苦しい空気。
こんな通夜みたいな空気が嫌で、それに、未だに何故か実感が湧かなくて…


『私、今どんな顔してる?』

「え……ぅ〜ん…それは…」

『悲しそうな顔?』

「…悲しそうっつーか…怒ってる、顔?」

『…あぁ、確かに。それあるかも。』


急にどうしたと戸惑う皆は無視。
顎に手を添えて考えてる凍夜兄ちゃんと2人で、話を続けた。


「ーで、怒ってるのか?」

『そりゃあね、皆をこんな目に遇わせた奴には腹立つよ。でもその前に、』

「その前に?」

『納得がいかない。お母さんも陽炎も、他の皆も強い人はいっぱいいた筈なんだ。いくら対妖怪用匣があるからと言って、それがこんなにもアッサリやられる筈がない。認めない。』


そう…簡単に言えば、信じられないのだ。


『…負けないから。』

「…へ?」

『私達は…藤組は、負けないから。
これから強くなって、御門院家と柳田に地獄を見せて…私達に喧嘩ふっかけてきたことを後悔させてやる…!』

「…だな!
でも1つだけ訂正な。藤組だけじゃねぇ、これは奴良組の問題でもある。そうだろ? 菜也」

『痛い、痛いよっ、凍夜兄ちゃん!』


ニッと笑ったかと思いきや、ガシガシと頭を撫でられた。そして手がようやく止まったと思うと、「逆襲に備えるぞ」と言う凍夜兄ちゃんの真っ直ぐな目と目が合った。

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