夕闇の炎


ここに来て沢山のことがあった。
まだ初日の夜なのに、まるで何日も経ったような気がする。


「菜也、明日のことなんだけど…
ちょっといいか?」

『うん、なに?』


部屋に入ってきたのは、隣の部屋の凍夜兄ちゃん。私は凍夜兄ちゃんと同じ部屋でも良かったんだけど、「従兄妹とは言え、お前も年頃の娘なんだから」ってことで、隣の空き部屋を貰ったのだ。
ちなみに、ツナ達は今何故かバイクの乗り方を練習している。チョイスのためらしいけど、詳しいことはよく分からない。


「さっきのミーティング通り、明日は朝一番に花開院家跡に行く。オレは勿論ツナ達もついてきてくれるから、仮に戦うことになってもお前を守れるとは思う。だが…万が一ってこともあるからな…今から最低限のことだけ教えたいんだ。いいか?」

『うん、勿論。』


即答すれば、ほっとしたように凍夜兄ちゃんは笑ってリングを取り出した。それを指に嵌めると…きれいな色の炎が灯された。何色かと言われても、ハッキリとは答えられないような色。


「菜也もやってみ?
ボンゴレリングを嵌めて…」

『嵌めて…』

「覚悟を炎にするイメージ!」

『覚悟を…炎に…! ……つかない…』


凍夜兄ちゃんのように炎が灯らない。
てゆぅか、覚悟って何ぞ?
覚悟と言われてもピンと来ないから、きっと炎も出ないんだろう。


「…未来を変える!とか」

『…未来を変えるぞお…!』

「…出ねぇな。じゃあ、皆を守る!」

『…(皆を守るどころか守られそうだな、私)…』

「(何考えてるか何となく分かってしまった)
…じゃあ…、ん〜…やっぱアレかな。
お母さんお父さんそして藤組を酷い目にあわした奴が、目の前にいたらどうする?」


そう言われて、想像した…
お父さんをあんな姿にした、あの科学者みたいな男を。藤組の皆を沢山消し去った…花開院家跡にいた人達を。
すると、どす黒い気持ちが沸々と胸の内で暴れだして…
あぁ、これが憎悪なんだ、ってどこか他人事のようにして実感した。


「…10年後の菜也も言ってたよ。ムカつくこととか殺意が1番、炎にしやすいってね。
リング、見てみ?」

『ぇ… あっ…出てる…』

「"ブッ飛ばす!"…そのノリじゃないと炎が出せないっつって、お前よく笑ってた。」

『笑ってたんだ。困ってたとかじゃなくて。』


ニヤニヤと語る凍夜兄ちゃんの話に、未来の自分が思いやられる。なんだこれ、ツラい。
そんな私に気付いてか…凍夜兄ちゃんは話を変えようと、その炎を指差した。


「これが、夕闇の炎だ。」

『…キレイだけど、変な色だね。』

「夕闇だからな。その時々の天候、気温、場所…様々な要因で夕闇の色は変わるだろ? 明るいピンクとオレンジが入り混ざったような色もあれば、暗い紺色と紫みたいな色もある。だから、夕闇の炎はコロコロと色が変わってるんだ。」

『ふぅん…』

「ちなみに、夕闇の炎を出せられるのは、妖怪と人間の血をひく者だけだ。」

『変なのー。』

「…今現在では、元々ある本来の死ぬ気の炎に、妖怪の畏れが加わって変質したものだと考えられている。真実はまだ分からないけどな。」


どうでも良さそうに語りながら、凍夜兄ちゃんが手に取り出したのは…1つの匣。匣にある窪みにリングを差し込むと、匣が開き、中からなにかが出てきた。


『! 鶴!?』

「おいで、クルー。」

『クルー…?』

「イタリア語で鶴はグルーって言うらしいんだけどさ、鶴に濁点はなんか似合わねぇ気がして。だからクルー。女の子だ。」

『キレイ…』


手を差し出せば、頭をすりすりと寄せてきた。マジで可愛い、こんなに間近で鶴を見たの初めてだ。
…それにしても、信じられない。あくまでコレは匣兵器なのだ。つまり、本物の動物のように見えるけれど、これは兵器なのだ。


「炎にはそれぞれ性質…ってゆーの? なんか特徴みたいなのがあってさ、」

『特徴?』

「そう。大空なら調和、嵐なら分解、雨なら鎮静…みたいな。そんでもって…夕闇の炎の性質はコレだ。」

『うわっ!? 目の前が見えなくなった!』


クルーの羽ばたきで炎を浴びるや否や、視界が暗転。電気が消えたわけでもなさそうだし…これが夕闇の性質?


「夕闇…つまり、黄昏と言っても過言じゃない。黄昏の名前の由来は知ってるか?」

『知らない。…てゆうかいつになったら見える?』

「あとちょっと。
黄昏の由来は、"誰ぞ彼"だ。昔はさ、電気もそんな今みたいにないだろ? だから、夕方くらいになると「誰だアレは」って顔の判別がつきにくくなるわけよ。それがなんやかんやで、"誰ぞ彼は"から"黄昏"になったんだ。」

『…つまり…夕闇の性質は"黄昏"から来て、視界を真っ暗にするってこと?』


ようやく視界が明るくなってきて、凍夜兄ちゃんが見えてきた。私の答えのどこが面白かったのか…凍夜兄ちゃんは「引っ掛かったな」とでも言ってるかのような笑みを浮かべている。
腹立つわー…。


「盲目にするのはあくまでサブで、メインは他にある。…黄昏時を言い換えたら何になる?」

『…逢魔が時?』

「そうだ、オレたち妖怪が活動し始める時だな。オレたちは妖怪側のことをよく知ってるからアレだが…何も知らない人間からしたらどう思う? 例えば、ぬりかべが出たら…」

『…前に進めない? 出られない?』

「そうだ。夜雀は?」

『目が見えなくなる…だっけ?』

「あぁ、これらに共通することは、"異変"であり"変化"だ。つまり夕闇の炎の性質は"変化"…分かりやすくゲームっぽく言えば、状態異常付与だ。これぞメインなんだ。」


状態異常ってことは、目が見えなくなるほかにも…話せなくなる、毒や混乱状態になる、痺れて動けなくなる、とかかな。
…今度ツナと獄寺に試してみよう。


この後、
匣兵器の使い方を教えてもらい、私も無事に匣を開けることができた。角のマークが入った匣からは、可愛らしい動物が出てきた。一方のボンゴレ匣からは、出てきたものが2つ。
1つは…私がお母さんから貰った長刀。おかげで、持たなくてもこの小さな匣にしまえるから便利。
残り1つは…まだ秘密。出てきた瞬間、思わず悲鳴をあげて部屋から逃げたのは…仕方がないと思う。これから少しずつ馴れていかなければならない。

ただ、匣を開けることができても、出てきた動物を上手く使いこなすことができないと意味がないので…


「…今日中にはもう無理だから、明日、帰ってから特訓スタートだな!」

『ちょちょちょ…その前にっ、
アレどうやってしまえばいいのー!?』


特訓は花開院家跡から無事に帰ってから。
取り敢えず、今日はもう寝よう。
でも、その前に…
匣に生き物をおさめることに、ヒイヒイ悲鳴をあげながら苦戦する私であった。

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