▽ ストーカー〈上〉
これは安倍晴明を倒し、奴良組にやっと平穏が訪れた後の話である。
「姉さん…入ってもいい?」
日曜のお昼時、リクオが私の部屋の前に来た。
『いいよ。どうかした?』
障子を開けて中に入るよう促せば、ありがとうと言いながら入るリクオ。
お互い大きくなったもんだ…私は高2になり、リクオは中3だ。リクオには相変わらず氷麗と青がつき、私には学校の送り迎えだけささ美か首無がつく。
座布団を2つしき、部屋の中央で2人向き合うように座る。
しまった…リクオが来るって知ってたらお茶とお菓子を準備していたのに。
『…で、どうしたの?』
「うん…姉さんさ、悩み事でもあるの?
最近、すごい疲れてるように感じるんだけど。」
うーん…自分ではバレないように気をつけてるつもりなんだけどなぁ。そんなに私は分かりやすいのか。
「深刻な事で悩んでるっていうよりも…なんか嫌な事があってストレスが溜まってるって感じがする。」
『ねぇ、なんでそこまで分かるの!?』
「だって姉さんの弟だから」
ニッコリと真っ白い笑みを浮かべて言うリクオの言葉に少し嬉しくなる。…ちなみに真っ白い笑みの反対は真っ黒い笑みで、お父さんの黒い笑みよりもリクオのは破壊力が半端ない。
『…実を言うとさ、今ストーカー的なことされてて胃に穴が空きそうなんだよね。』
「…ストーカー!?」
『うん…一ヶ月くらい前からかな…
下駄箱にラブレターが入ってて、でも名前も何も書いてないし、特に何もせず放っておいたの。
そしたらさ…日増しに1日に来るラブレターが段々増えてって…。多分同じ人だと思うんだけど、字が同じだし。』
「…でもさ、ラブレターだけなら放っておけば?燃やせばイイだけじゃん!」
スッゲェいい笑顔で言うね、リクオくん。
『…それだけなら私も無視するよ。
でもさ、ずっと後をつけてくるんだよ。今まで2、3回…やめてくれって直々に言ったんだけど、やめてくれないのよね。
妖怪だったら葬るけど…人間だからヘタに殺せないでしょ?』
「…姉さん…普通は直々に言うなんてしないよ」
『え?』
そんなこんなで…
ラブレターが嫌がらせレベルで送られること…
どこに行くにも奴がついて来てること…
ラブレターの内容がキモいこと…
プレゼントを沢山贈られること…
今あっているストーカー被害を全てリクオに話す。
それをドン引きながら聞いてくれるリクオ…
でも私が引かれてるみたいで少しツライ。
「じゃー…脅迫みたいなものはないんだ?」
『うん、そういうのはないのよ。
むしろそれがあったらさ、警察に被害届け出せれるのに。』
「相手は誰か分かってんだよね。」
『うん、隣のクラスの山田君。』
「ふーん…。どうせボクら妖怪の血が混ざってること知られてるんだしさ…脅せば?」
あれれ…そんな言葉がリクオから出るなんてお姉ちゃんビックリなんだけど。
「姉さんを苦しめるやつにはお灸を据えないとね!」
あぁ…出たよ黒い笑みが…!!こわい!!
「ちなみにさ、キッカケとかあるの?」
その問に少し考える…。
あれ…は、キッカケなんだろうか…
『…上級生にリンチされてたのを助けてあげたくらい、かな。』
「それだよ。むしろそれしかないよ。」
だよねー…助けなきゃよかった。
『妖怪になってさ、「これ以上私に付き纏うなら食うわよ」って山田を脅したことあるんだけど…
「オレをめちゃくちゃにしてください!!」とか言ってきて、こいつに脅しは効かないって悟ったの。』
「……………。」
『……………………。』
やつの鋼のハートに絶望的な私…
同じく、いい案が出ずに押し黙るリクオ…
『様子見…しかないよね…』
「…話はいつでも聞くから、姉さんはストレス溜めないでね。また何か被害があったら言ってよ」
『うん…ありがとう。』
取り敢えず、一旦話を終える。
リクオのやつ…山田に直接脅しにかかりそうだなぁ…と内心思いながら、部屋を出ていくリクオの後ろ姿を見送る。
『……………はぁ。』
溜め息を吐きながら、マナーモードにしていた携帯を開く。
新着メール 444件
着信履歴 444件
『…私のこと好きなんじゃなくて、もはや恨んでるんじゃね?』
脅迫は確かにされてない…
だが、
〈付き合ってくれないなら死んでやる!〉
〈人間だからダメなら病んで妖怪になってやる!〉
などという馬鹿としか言いようのないメールと伝言メッセージが来るのだ。しかもご丁寧にも毎日444件…おそらく不吉なゾロ目ナンバーにしたいためだろう。
『暇人にも程があるだろコイツ…
つぅか病んで妖怪になれたら、世の中妖怪だらけだっての。アホか。』
全然怖くはない、だが本当にウザったくてストレスなのだ。
『(……ノイローゼになりそう。)』
今日だけで何度目か分からない溜め息をまた吐く。
奴良組に平穏は訪れたものの、私にはどうやらまだ平穏は来ないようだ。
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