この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ ガムテープ

『はい。
お茶、まだ少し熱いから気を付けてね。』

「…あぁ。」


お盆を敷き、その上に淹れたてのお茶をそっと置く。湯気立つお茶の隣には、金色のイチョウの形をしたお茶菓子が置いてある。
秋空にピッタリなお菓子で、なんとも風情がある。


『あぁ…そういえばね?
さっきお茶菓子買いに行った時、イチョウの並木道を通ったの』

「へぇ…」

『綺麗にどの木も金色になっててね…
散ったイチョウが金色の絨毯みたいになってて、とても素敵だったわ』

「あぁ…それオレも通った」

『あら、イタクも通ったの?』


時は夕暮れ。
さっきまでイタチだったイタクも人型になり、この季節だと少々肌寒い時間帯だ。ズズッ…というイタクのお茶を飲む音を聞きながら、何かを話すわけでもなく…ただただ時が流れるのをボーッとして感じる。
ここ…縁側は私のお気に入りの場所だ。リクオのお気に入りの桜の木が見えて見晴らしがいい。


「…お前、酔ってんだろ」

『…ふふっ、分かった?』


実を言うと…先ほどお酒を飲んでいた青と黒に出会い、なんやかんやで少々お酒を飲んだのだ。
たかが一杯、されど一杯…
お酒にあまり強くない私がほろ酔いになるには充分な量と度数だ。


「お前…微酔いになると変わるよな」


そしてイタクの言う通り…微酔い状態の私は自分でも女らしくなると思う。いつもの品のない言葉遣いがなんとなく嫌になるのだ。言葉遣いだけでなく雰囲気も変わると皆に言われるが…そこはよく分からない。


『イタクはお酒飲んでも何も変わらないよね…激しくつまらないわ。』

「うるせぇよ」

『たまには肩の力脱いたらどうなの?』


そう言いながら、イタクの肩を揉む。
「凝ってねぇ」と口では言いつつも、嫌がる素振りは見せない。そのまま肩を揉んでいれば…ふと視界に留まるイタクのバンダナ。


『ねぇ…そのバンダナ少し貸してよ』

「あ? 何言って…
ってめぇ、返しやがれ!!」


スルッとイタクの頭からバンダナを取れば、イタクが慌てて振り返る。取り返そうとするイタクを鏡花水月で避け…自分の頭にそれを巻くが、どうもうまくいかない。


『もう! 上手くできない〜っ!!』

「…そんくらいでキレるんじゃねーよ。
ホラ、貸してみろ。」


言い終わるや否や、パッと私の手から抜き取られるバンダナ。そしてそれはあっという間に私の頭に括られる。いつもと違う髪型に、私達を見ていた周りの者が「その髪型も似合いますね」「イタクって意外と器用なんだな」と口々に言う。そんな賑やかさに釣られてか、お父さんもこちらへやって来て口を開く。


「…良かったなぁ鯉菜。イタクのバンダナ使ってるのはどうかと思うが、その髪型は似合ってるぞ。」

『お父さん! 本当に? この髪型、似合ってる?』

「あぁ、似合ってぞ。」


にこりと笑うお父さんに私も微笑み返し、そしてイタクの方に振り返る。そっとイタクの両頬に手を添え、そのまま引き寄せればー


『イタク、ありがとう♪』 

「っ…!?」

「なあっ!!?」

「お、お嬢が…!!」

「鯉菜様がイタクに…!!」

「キスしたぞぉぉおおおおお!!!!」

「に、二代目を押さえろぉぉお!!」


キスしたキスしたと騒ぐ者…
イタクに殴りかからんとするお父さんを押える者…
てんやわんやとする皆を横目に見ながら、パッとイタクから手を離す。


『…なーんちて!』

「…………」 

「…あれっ…」

「…えっ!? ガムテープ!?」


皆が驚くのも無理はない。
なぜなら…イタクの口にはガムテープが貼られているからだ。イタクと私がキスをしたのはあくまでもガムテープ越しということで、その事に皆は混乱している。手で上手いことガムテープを隠しながら貼ったため皆驚いているのだろう。


『…あらやだ、イタク怒ってるの?
なんなら…本当にキスしてあげようか?』 


そして、不機嫌なオーラを出しているイタクにそう問いかけるが…


「許さん…
許さんぞ!! ガムテープ越しからでもキスは許さん!! つぅかそんなにキスしたいならパパにしろ!!」

『パパは嫌でーす。イタクがいいでーす。』

「何をぉぉおお!!?
てめぇ…オレの娘をよくも誑かしおったな!!」

「はむははいへへーよ(誑かしてねーよ)!!」


ご機嫌を取るどころか、お父さんの八つ当たりのせいで余計に不機嫌になる。
結局この後、リクオが帰ってくるまでイタクはお父さんに追い掛けられ…私は後日イタクにこってり絞られるのであった。




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