この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 数学あるある(坂本先生side)

「本当…参ったもんですよ奴良さんには。」

「えぇ、注意しようとしてもフラフラと何処かに消えちゃいますし…」

「何より成績が良いから怒りにくい。」


職員室で溜息を吐く先生方の話題は…今年入学した1年の奴良鯉菜について。
一昨年から浮世絵中学校に赴任したオレはまだ担任を受け持ったことがなく、ただ数学の授業を教えるだけだった。


「奴良さんがどうかしたんですか?」


オレがそう問えば、授業をよくサボっているのに注意しても聞かないと担任は言う。
…驚いた。まさか奴良がサボりやってるなんて思いもしなかったから。


「オレの数学の授業はサボったことありませんよ?」

「あぁ…あの子…苦手教科とかはちゃんと授業に出るけど、得意教科とかつまらない授業は出ないとか言うんですよ。」


…すげぇな。つまらない授業は出ないってそれ先生に直接言ったのか…言われた方は何気にショックだよな。
そんなこんなで奴良の噂がどんどんオレの耳に入ってき…気が付いたらオレは奴良をよく観察するようになった。
授業もよく聴いてるし、宿題もちゃんとやってくる。そんな真面目そうな奴良でも、昼休みの後の数学の時だけはいつも必ずウトウトしている。
そしてある時ー


「お前、数学が好きなのか?」


気が付けば、数学の授業が終わった後…オレは奴良に話しかけていた。トイレか何処かへ行こうとしていたようで…チラッと腕時計で時間を確認した後、ボケっとした顔で答える。


『大嫌いです。』


たったその一言を吐き、再び歩き始める奴良。その後ろ姿を慌てて追い掛けて…また問いかける。


「でも、お前数学の授業は真面目に受けてるじゃねぇか…」

『嫌いだからです。嫌いな数学をサボれば酷い点数を必ず取るので。』

「何で嫌いなんだ?」

『…何で?』


オレの言葉にピタッと足を止める奴良。
えっ、オレ何か地雷踏んだ? 怒った?


『何で…ですか。そうですね…例えば、
何で割り切れるように人数分買わないのか。何で弟と兄が別々に家を出て追いつこうとするのか…一緒に出ろよ。しかも何で池の周りグルグル回ってんですか。更にはサイコロやら宝くじの確率計算してっけど…そんなもん計算すんなら働けや!!
…とか、色々突っ込みどころがあって不愉快極まりないですね。』

「お、おう…何かスマン…」

『いえ、こちらこそ…取り乱してしまいすみません。』


凄い剣幕でまくし立てる奴良に謝れば、逆に謝られた…。なんていうか…こんな面もあるんだな。いつも物静かだし、どこか周りとは雰囲気が違うと思ってたんだが…


「案外、子供っぽいところもあるんだな!」

『…? 何の話ですか?』


首を傾げる奴良に、何でもねぇと言えば…ちょうど次の授業の開始のチャイムが鳴る。


「わ、悪ぃ! お前授業の準備できなか…」

『大丈夫です。次は自主休講の時間なので。』

「…それ…サボり、だよな?」

『サボりではありません。あくまでも自主休講です。気分がのれば自分で勉強するんです。』

「もうそれ勉強しない気満々じゃねぇか!」


奴良の意外な一面を見れて…なんとなくオレは嬉しく思った。
そしてー


「そろそろクラス替えだなー」

「2年の先生が一人寿退社したからな…誰か新しく入れないといけませんね。」

「問題児奴良のいるクラスは今度は誰が担任になるんでしょうかねぇ…」

「あの…!」

「ん? 坂本先生…どうしましたか?」

「オレに…オレに、奴良がいるクラスの担任をやらせてください! お願いします!!」


なんだか良く分からないあの生徒のことを…もっと知りたい。そう思い、オレはアイツのクラス担任を自ら志願した。
ラッキーなことにあっさりとそれは許可がおり、オレは2年から奴良のいるクラスを遂に持つことになったのだ。




(「よぉーし、席につけよお前ら。
今日からここの担任をする坂本だ。皆ヨロシクな!
…奴良ぁ!!おまっ…オレのせっかくの舞台挨拶なのに何寝てんだぁ!!起きろ!!そして寝るな!!」)
(『………ふぁ……あれ、坂本先生だ』』
(「最早そっから!?」)




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