この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 一人失恋日記@(テルside)

僕の名前は輝彦。
今年から浮世絵高校に入学し、輝かしい高校生活を切り開く予定だった。
なのに…


「……誰だよ…あの男ッ」


前方を歩くある人…その隣には知らない奴が並んで歩いている。仲睦まじいその様子に、僕の胸に痛みが走る。
ーあぁ…そうか、僕はあの人の事が好きだったんだ。
あの人とは仲が良く、友達以上恋人未満のような関係をずっと築いていた。それなのに…


「…今頃気付いても…もう遅い、か。」
 
あの人に恋愛感情を抱いていた自分に、今更になって気付く。嫉妬や悲しみに相手の男を睨んでいれば、
 

「…っ…!?」


遠くからなのに…目が合って睨み返される。一瞬にして体中に鳥肌が立ち、ガクガクと竦んでしまう僕の脚。
そうか…もしかしたらあの男も妖怪なのかもしれない。またもや増幅する嫉妬の感情…だが、その男に笑いかける隣の女性の笑顔に不思議と心中が穏やかになった。


「…そうだよな…好きな人の幸せくらい願ってやらないと。せっかく笑顔が見れたんだし…」


握り締める拳を解き、自嘲するように笑って帰り道を行く。空に浮かぶ綺麗な夕日を見て想うのは…あの人との初めての出会い。








*
*
*


『邪魔』


僕が小学校4年の時…校庭で虐められてた僕の目の前に立ったのは、1人の少女だった。
僕よりも背が高くて強気なその人に、確か僕は謝りながら慌てて退こうとしたんだ…
だけど、


『アンタじゃないわよ。
私が言ってるのはテメーらだよ、自分よりも弱いもんを虐めるしか脳のねぇ…クソ餓鬼共が。』

「何だよオメー!」

「こいつがバカなのが悪いんだよ!」


僕を庇うようにして、恐いいじめっ子達をたったの1人で…その人は退治したんだ。そして「ありがとう」とお礼を言う僕に、彼女は気だるそうに言うんだ…

『君自身が変わらない限りは…何も変わらないよ』

まるで僕の弱さを見透かしたように吐き出された言葉。その言葉は現実となり、助けてくれたあの人の名を知らぬまま…僕は浮世絵中に入学したのだ。


そして、思いがけない再会を果たす…



『…あらあら…随分とやられたようねぇ』

「! 君は…」



屋上でボロボロの制服に身を包む僕…
そんな僕の前にまたもや現れたのは…名も知らぬあの時助けてくれた人。
 

『私? 私は3年の奴良鯉菜』


授業が始まり、シンとした校舎。
その屋上に佇むのは僕と鯉菜さんだけで…この日この時から、僕の時は再び進み始めた。


『授業のサボラー同士、仲良くしましょう?』




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