この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 夜、学校へ行く

「おはよう奴良さん!」

『……おはよう…』

「…あれ? 何か今日雰囲気違うね!」

『………………気のせいよ』



…潜入捜査ってこんな気分かもしれない。いつもは付けないコンタクトレンズに違和感を感じながら学校を見渡す。ちなみに、目が悪いわけじゃない。アタシの赤い眼を誤魔化すためのコンタクトレンズだ。



事の始まりは30分前に遡るー


起床後、学校に支度をし終えて電車に乗った昼。
昼が学校に行っている間…アタシはほとんど寝ている。その為いつも通りに寝ようとすればー


「…夜、まだ起きてる?」


突如声を掛けてきた昼。何かあったのかと慌てて池に映る光景をみれば、そこには怠そうな顔をして電車に揺られる昼の姿があった。


『…どうかしたの?』

「ダルイ」

『…帰れば?』

「…帰るのもだるい」

『……風邪?』

「ううん。ただ果てしなくダルイ。」


…何だコイツ。ただの怠け者じゃないか。


「だから私の代わりに学校行ってきて」

『…アタシが!? 目の色違うのに!?』

「こういうこともあろうかと…事前にカラコンを準備してるから。大丈夫。後は任せた。」

『ちょっ…何言っ、て……!!
……スミマセン。』


昼に抗議をしようとするも、いつの間にか強制的に場所が代わってしまい…電車の中で1人声を荒らげるイタイ人になってしまったアタシ。
その後なんとか戻ろうとするが、完璧に内にいる昼にシャットアウトされて泣く泣く諦めたのだ。




そんなこんなでようやく学校に着いたのだが…
声を掛けてくる者皆から
「今日雰囲気違うね」
「何かあった? 顔がいつもより険しいよ」
「眠たいの?」
とか聞かれてくる始末。
いつも昼がどんな風に学校で過ごしてるのか(寝ていて)あまり知らないため、反応に困る。

ーそして、ついに問題は起こった。


「…奴良さん!?」


歴史の授業が始まる時、教室に入ってきた先生が私を見て驚いたのだ。


『…?』

「あなた…いつも私の授業さぼってるじゃない!どうして今日はここに!?」


…しまった。
いつもこの授業をサボってんのか。知らなかった。
クラスの皆から集まる驚きの視線に内心慌てつつも、取り敢えず『学生だから』と返せば「…あなたっ…具合でも悪いの!?大丈夫なの!?」と異様に心配された。


そんなことが2、3回起こり、ようやく本日の授業が終わる。そしてやってきた担任の坂本先生。
教室に入って最初に言った事は…


「奴良!お前今日3限目からの授業は全部出たんだってな!?大丈夫か!?遅刻はお前らしいが…歴史と英語の授業を出て、午前の数学をサボるなんてお前らしくねぇぞ!?」


…もはや何処から誰に突っ込めばいいのか分からない。先生に突っ込むべきか昼に突っ込むべきか…。


「何か家であったのか〜?」

『特に何も。』

「…お前本当に大丈夫か?」


昼だったらここで何て返していたのだろうか…。
そんなことを思いつつもなんとかやり過ごし…ついにやってきた放課後。
さあ帰ろうと鞄を持てば、


「奴良!頼む…お前の知恵を貸してくれ!!」

『………』


勢いよくスパーンとドアを開け、そう叫ぶ先生。叫ばなくても聴こえるんで落ち着いて下さい。


「この2つの問題が考えても分からねぇんだよ!!」


そう言って見せてきたものは
【Q13.福岡から1番遠所はどこでしょう?】
【Q37.車が丸くなってくるくる走っているのはどこの県でしょう?】
という問題で、本の背表紙には《地名なぞなぞ》と書いてあった。


『…先生、地理苦手って言ってませんでした?』

「あぁ、苦手だ!だからこうやって少しでも克服しようとだな…」


…それなんか違くね?
地名なぞなぞってむしろ地理が得意な人がやるもんじゃね? 地名を知らないと解けない問題だって沢山あるっしょ。


『…Q13は先生の得意な計算でどこか出るんじゃないですか?』

「そう思って答えだしたんだが…違ってた。」

『まぁ謎々ですからね。
ちなみにQ37は一つずつ県名言ってったら分かるんじゃないんですか?』

「…奴良、言ってってくれ!!」

『…都道府県も言えないんですか、先生なのに』

「いっ、言えるぞぉ!? 言えるけど、これは奴良が都道府県を全部言えるかどうかをついでにチェックするための…そうだ! 教師の愛のムチだ!!」

『嘘ですよね。絶対言えないだけですよね。』


引き攣った笑みで「言えるもん!」なんて主張されても誰も信じないと思います。てゆうか、大の大人が「もん!」だなんて言っても可愛くないですよ。そんなことを心に思いながら、一つずつ県名を北から言っていく。
先生はそれをふんふんと聴いているのだが…ちゃんと考えているのか不安だ。


『…鳥取、島根、岡山、広島、山口…以上中国地方。次は…高知、愛媛、香川、徳島…以上四国地方。』

「……………」

『最後は九州です。福岡、大分、長さ…き……?』

「…………お?」

『………………。』

「おぉ〜奴良さ〜ん? 都道府県全部言えないの〜?」

『香川』

「いやいや、香川は中国地方でしょ!全く〜」

『違います。香川県は四国地方です。』

「あり?」

『アタシが言ってるのは謎々の答え。』

「…香川が? 車がくるくる? 何で?」


…コイツ考える気本当にあるのか?


『か=car、が=格助詞、わ=輪
ーで、香川県が答え。』


そう言えば、「なーる…」と頷く先生だが…本当に分かったのか怪しいな。


「じゃあQ13もその調子で頼む!」

『…めんどい。』

「ええーーーっ!!?」


オレのために頑張ってくれ奴良ぁぁあ!!とユサユサアタシを揺する先生。
うえっ、酔いそうだ。誰か助けてくれー…そう思っていれば、昼がようやくシャッターを開ける。どうやら営業開始のようだ。お言葉に甘えて早速、代わってもらおう!!

こうして、
突然出ることになった学校も終え、アタシはようやく解放された。やっぱり中の方が楽でいいが、極たまになら…外に出るのも悪くないかもしれない。





(『…あわわわっ…えっ、ちょ、、夜!?』)
(「…夜? まだ、夕方だぞ奴良。」)
(『…先生? 何で私を揺さぶってたんですか』)
(「何でって…お前がオレを見捨てようとするからだろ? つぅかお前なんか雰囲気違うね変わった?」)
(『…気のせいですよ。てか何してましたっけ』)
(「…お前本当に大丈夫か?謎々してただろ、ほらコレ。Q13…一緒に考えてく…」)
(『バリ島』)
(「…は?」)
(『だから、答えバリ島です。バリは博多弁でとてもって意味。ばり遠い、だからバリ島。』)
(「方言とか知らんわ!!じゃあ奴良っ!!あと最後にもうひと……奴良がいねぇっ!!消えたっ!?」)

(『…ふぅ…帰ろうっと』)




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