この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ イタクと首無と私と

ザッー ザッー ザッー


『…秋だなぁ』


玄関に落ちているたくさんの枯れ葉。
それを箒で掃き、枯れ葉の山をつくる。太陽が出ている真っ昼間だが…暑くも寒くもなく、ちょうどいい気温で気持ちがいい。


『ふぅ…このくらいでいいか!』


集まった木の葉を袋に詰め、ようやく玄関がスッキリする。いやぁ…よく頑張ったな私。
パンパンに膨らんだ袋を手に持ち、中に運ぼうとすれば…


キュー


『…きゅー?』


突如聴こえた鳴き声に顔を上げると、そこにいたのは可愛らしいイタチ。…そうか。そういえば明日からちょうど三連休に入るんだ。


『いらっしゃい、イタク』


持ち上げた袋を地に置き、そこに居たイタクをひょいっと持ち上げる。


『リクオは今学校だから、もう少し待ってね』

「キュッ」

『え? 私? 私は午後から自主休講だよ』

「キュイー」

『いやん私の事好きって? そんな事今更言わなくても分かってるぅ〜! …痛ァ!?』


ハイ、指を噛まれました。てゆうか現在進行形でガジガジ食べられてます。そんな君もカワユス!!


『あぁー疲れた!!
結構な量あったなぁ…』


イタクを胸に抱いて縁側に腰をおろし、そしてそのまま横にゴロンと寝っ転がる。


「キュー!!」

『…そんな逃げないでよ、わざわざ遠野から来て疲れてるでしょ? 一緒に休もうよ』


逃げようとするイタクをキュッと抱きしめて撫でれば、まるで仕方ねぇとでも言うように溜め息を吐かれる。
そのままイタクを撫でていれば…


「お疲れ様でした、お嬢。
お茶入れたので…良かったらどうぞ。」

『ありがとう、首無』


お茶を持って来て、寝転ぶ私の隣にそれを置く首無。そして私が抱いているイタチの存在に気付いたのだろう…不思議そうな顔をして聞いてくる。


「…それ…イタチですよね。どうしたんですか?」

『…拾った? アイタッ!』


私の拾った発言が気に食わなかったのか…またもや私の手がガブリと噛まれる。


『イタク〜、直ぐに噛まないのっ!メッ!!』

「…イタクぅぅううう!!?その可愛いイタチが…イタクぅぅううう!?」

『あれ…昼の姿見たことなかったっけ?』
 

有り得ねぇー!!なんて素を出してショックを受けている首無。そういえば…首無って小動物に目がなかったよね。


『…ふぁ〜…そういえば玄関の葉、掃除したんだけど袋を片すの忘れてたわ。
悪いんだけど、首無代わりにやってくれない?』

「分かりました、片付けときますね」

『ありがとう〜』


ニコッと笑い、片付けに玄関へ向かう首無に心から感謝する。…さっきから異様に眠たいのだ。ポカポカと暖かい陽射しに照らされ、ウトウトとする。
あぁ、こんなところで寝たら風邪を引いてしまう…。そう思うものの、結局眠気に勝てず…私の意識はそこで深く沈んでいった。





ーーーーーーーーーーーー
(首無side)





「お嬢、玄関とても綺麗になってましたよ。ありがとうございます。」


木の葉が入った袋を片付け、鯉菜様の元へ戻る。
縁側で未だ寝っ転がる鯉菜様にお声掛けするが反応する気配がない。
どうしたのだろうかと、顔を覗けばー


「…こんな所で寝たら風邪を引かれますよ…?」


安らかな顔で静かに寝息をたてていた。
…起こすべきか、そのままそっと寝かすべきか…
ーそうだ。
掛け毛布を持ってこよう。もう秋だし…夕暮れ時になると寒くなる。そう思って、薄い毛布を鯉菜様にそっと掛けると…


「…キュー…」

「…そういえば…お前そこにいたんだったな」


鯉菜様にギュッと抱かれているイタクが、こちらを見上げて鳴く。…可愛いのに…。可愛いのにこれがイタクなのは非常に残念だ。


「…お前、そこから抜けられないのか?」

「…………。」


オレの問いに首を降るイタク。
試しにそっとイタクを引っ張るものの、鯉菜様の手から抜けることはない。
…あなた本当に寝てるんですよね!?


「…仕方ない。オレもここでしばらく休むか」


いくらイタチであるとは言え、男であるイタクと寝て無防備な鯉菜様を二人きりにしておくわけにはいかない。仕事がまだ残っているものの、仕方なく傍にある支柱に寄りかかり、鯉菜様が起きるのを待つ。
…あぁ、今日は本当にいい天気だ。春とはまた違ったポカポカさに、段々オレの瞼も落ちてゆく。

ー少しだけ…眠ろう。





ーーーーーーーーーーーー
(リクオside)





「もう!また姉ちゃんサボタージュして!!なーんでサボるのかな〜あの人は!!」


氷麗と青の報告によると、姉ちゃんは今日午後から授業にでてないらしい。今月に入り、何度目か分からないサボタージュにボクもいい加減本気で怒らなければと決意する。


「ただいま!姉ちゃんどこ!?」

「お、お帰りなせェ…お嬢は縁側で寝…」

「ありがとう!」


そこら辺にいた小妖怪に姉の居場所を聞き出し、縁側へと向かう。ドスドスと足音を立てながら、曲がり角を曲がればー


「姉ちゃ……………え?」


………ナニコレー!?
首無が支柱に寄りかかって寝ており、近くには姉ちゃんとイタクがくっついて寝ている。
いや首無は普通なんだよ!?
でもイタクと姉ちゃんが…何で至近距離で向かい合って寝てんのー!?


「おう、お帰りリクオ」

「父さん! これ何が起こったの!?」

「あぁ…これかい」


父さんが言うにはこうだー
イタチ姿のイタクを姉ちゃんが抱き締めて寝ており、それを首無が見張っていたとのこと。だが…動けないイタクも眠ってしまい、首無もそのまま座って寝てしまったとのこと。


「…そんで日が暮れた今、イタクはイタチから人の姿になって寝ているってわけだ。」


…なるほど。それならイタクが堂々とこんな風に寝てるのも納得がいく。
それにしてもー



「…イタクもこうやって見ると…普通の男の子みたいだね」

「ああ…寝顔がまだ子供だな」



結局、そのまま3人に毛布を掛けたまま放置。
1番最初に起きた姉ちゃんに顔を落書きされたイタクと首無…その2人のコンビが怒り、姉ちゃんとリアル鬼ごっこを始めたのは言うまでもない。




(『ぎゃああああああああ!!!!』)
(「…殺す…!」)
(「…今は協力するよ、イタク」)
(「……姉ちゃん…(遠い目)」)




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