この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ ケーキ

「ねぇねぇ…あの人カッコ良くない?」

「若いのに着物なんて珍しいね!凄い似合ってるし」

「誰かの彼氏かな?」

「おお! 年の差カップル!?」

「声かけてみな〜い?」



授業が終わり、ようやく帰ろうとしていれば騒がしい校門。女の子がキャアキャア騒いでいて群れをなしている。
うるさいなぁ…なんて思いながら、特に興味もないのでそのまま校門を出ようとするとー


「お帰りかい? お嬢さん」

『…は?』


急に軽くなる荷物に、聞き覚えのある声…
振り返れば私の荷物を持ったお父さんがいた。


『…何かあったの?』


ここにいる筈のないお父さんがわざわざ校門のところで私を待っていたのだ。
…家で何か問題が起こったのだろうか。


「うんや、そろそろ学校が終わる頃だろうと思ってよ…
迎えに来たんだ。どっか寄り道しねぇか?」

『寄り道?』

「あぁ、たまにはデートもいいだろ?」


ニイッと笑って、私の目の前に出されたのは一枚のビラ。カラフルなそのビラを見て…私の口角も上がる。


『いいね…のった!!』






ところ変わって喫茶店…
新しくオープンしたらしいこのお店にはまだ木の匂いが残っており、それが美味しそうなスイーツの香りをより一層きわだてる。


『なかなか良いお店じゃん』

「だな…ケーキも美味だし、場所も良い!」


学校の近くに建つこのお店には、オープンしたてな事も加わり学生が多い。特に浮世絵中の制服があちらこちらにいる。
チラチラとこちらを見る視線を感じるが…それをなるべく気にしないようにして目の前のケーキをつっつく。
ちなみに、私はベリーと胡桃が沢山乗ったケーキを…お父さんはレアチーズケーキを頼んだ。いと美味し。


「ひと口いるかい?」


私の目の前に突き出されたのは…レアチーズケーキが刺さったフォーク。美味しそうだ。
 

『ありが…』

「………………」

『………あり…』

「…………………」


フォークを受け取ろうと私が手を伸ばせば、逆に逃げるように手を引くお父さん。
くれるorくれない…どっちなんだ!!
目でそう訴えれば、「ん」と言ってこっちにそれを突き出してくる…
そしてー


「ほら、あ〜ん」

『……それしないと駄目なの』

「いいじゃねぇか…デートだろ?」


片目を瞑って決め顔で言うな馬鹿親父!
アンタのせいで周りの女子が皆キャーキャー言ってんじゃねぇか! しかも私睨まれてね!?「何よあの女〜!」って言われてね!?それ言う相手違うから!!私たち父娘だから!!


「ほらほら、照れずに食えよ」


お父さんはニヤニヤして私の口元にそれを持ってくる…持ってくるってか既に唇に当たってんだけど。


『別に照れてなむぁっ!?』


人の話は最後まで聴けって習わなかったのかコノヤロー。私の言葉を遮るようにレアチーズケーキを突っ込んで来たお父さんへ、心の中で不満をブチ撒ける。
でも…


『……美味しい…!』

「だろ?」


口の中に広がる風味に、私の幸せ度はMAXに!!
ケーキって素晴すぃ〜つ!!


『あっ、お父さんもコレいる? 美味しいよ』


そう言ってお父さんに私のケーキ皿を渡すが…何故か不満そうに口を尖らせる。いい歳した親父がそんなことしても………イケメンなのが腹立たしい!!


「食べさせてくんねぇのかぃ…」


なんてこった…お父さんの上に!
かの有名なしょぼん顔が見える…!!こんな顔されたらいくら鬱陶しい父といえども…私の母性本能が擽られるではないかぁぁあ!!!
仕方ないなぁと言いながら、ひと口サイズにケーキを切ってフォークで刺す。表面上ではクールぶってやっているが…内心では絶賛ニヤニヤ中である。


『はい、あーん…』

「あーん」


大きな口を開けて、ベリーのケーキを食べるお父さん。カワユス!!


「これも美味ぇな」

『でしょー』

「…やっぱお前さん、笑ってた方が可愛いぜ」

『…急に何ですか』
 

普段の私は可愛くないってかコノヤロー!


「いや、お前さんいつもポーカーフェイスだからよ…今みたいに普段からニコニコすればいいのにって思ったんだ」

『何もないのにニヤニヤしてたら危ないヤツじゃん』


お巡りさんに職務質問される自信100%!


「誰がニヤニヤしろっつったよ、ニコニコだ。」

『ニコニコとニヤニヤは紙一重だっての。』


そんな会話をしていれば、あっという間になくなるケーキ。お母さんとリクオの分のケーキをお土産に買って、家までの道を2人並んで帰る。


『美味しかったね、ケーキ』

「あぁ、また行こうな」

『…また迎えに来てくれる? 鯉さん』


横を歩くお父さんの顔をチラッと見上げれば、その顔は驚いた表情をしている。だが、それも一瞬のことで…直ぐにいつもの笑みで口を開く。


「クスッ…姫の願いであらば、いくらでも参上つかまつりましょう」




(「若菜、リクオー、お土産あるぞ」)
(「あら♪美味しそうなケーキ」)
(「…これ、新しく開いたお店の所?」)
(『そうだけど…どうかしたの?』)
(「…姉ちゃんと父さんだけズルイよ!」←甘党)




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