この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 小さな騎士達

『おーい。何で君らがここにいるのかね』

「うっせぇな。そんなモン鴉に聞け」

「鴉天狗に護衛しろって言われたんだ〜」


おはようございます。
今週3度目の日直であるリクオに置いていかれ、現在嫌々と学校に向かっている鯉菜です。…通勤通学ラッシュタイムであるこの時間の電車はまさに地獄である。


『アンタ達も物好きねぇ…こぉんな人口密度が高い電車に乗りたがるなんて』

「乗りたかねぇよ!!」

「ボクは楽しいけど〜?
サンドイッチみたいで楽しいよねー」

『あっは、一生パンの具の如くサンドされてればいいよ』



そんな地獄の通学をお供するのは牛頭と馬頭。
氷麗と青はリクオと共に先に行ってしまい、他の者は手が空いていなかったため私の護衛に任命されたらしい。最近じゃあよくある話だ。


『…ふぁ〜…ねっむ。』

「あ! ボクあの広告の人見たことあるよ!!」

『どれ? …………うっそぉ!?ダモリさんに!?』

「…いつ見たんだ?」

「んっとねー、一昨日! TVつけたら出てたー」

『…そりゃあ…うん、誰でも見た事あるわ…』


生で見たのかと思いきやテレビかよ。
隣では馬頭のトンチンカンな発言に、牛頭が光の速さで拳骨を下ろしている。牛頭も私と同じく期待したんだな…うん。
相変わらずな2人と相変わらず朝が弱い私…3人でたわいもない話をしていた時だった。


『………』


満員電車だから…きっと誰かの鞄か何かが当たっているのだろう。そう思ってずっと気にしないようにしていたのだが、


『(これは…黒だな)』


私が何もしなかったからか…図に乗ってスカートの上から触られるお尻。…お尻触って興奮するのが全くもって理解出来ない。ただの脂肪の固まりじゃん。胸も脂肪だけど女の象徴でもある…でも尻は大臀筋or脂肪じゃん。


『…謎すぎる』

「何がだよ!!」

「牛頭の髪型のことじゃな〜い? 痛いっ!!」


馬頭丸よ…乙。
今物凄い痛そうな音がしたね、そして牛頭は手加減を知らないね!


『あはは!私としては馬頭の被ってる馬の骨の方が気になるけどね!!』


なぁんて笑いながら…
私の尻を触っている不届き者の手を思い切りつねる! ハッ…ざまぁ!!
ーと思っていれば、


『…鋼の精神をお持ちのようだ』

「今度は何の話だよ!!」

「その髪型をやめない牛頭のことだよ〜痛いっ!!」


つねられたにも関わらず、それでも尚触り続ける変態。
…てゆうか、馬頭は牛頭の髪に何か恨みでもあるのか!? 牛鬼の髪型に似てるから嫉妬…してるのかな…。それなら馬頭も真似すればいいのに…よく分からないなぁ可愛いけど。
そんな事を考えていればー


『っ…!!』


スカートの中に忍び込む手。
…しまった、穿き忘れていた!いや、パンツは勿論穿いてますよ!?私が穿き忘れたのは…ショートパンツだ。いつ何処で襲われるか分からない身分であるため、いつでも思い切り暴れられるようショートパンツをスカートの下にいつも穿いているのだ。
だから痴漢も今までそんなに気にしてなかったのだが…
 

『……(…気持ち悪い…)』


何度その手を振り払っても忍び込んでくる手。


「どうかしたの〜鯉菜様、顔が険しいよ? 」

『…なんでもない』


アンタん所のボスの方が顔が険しいけどな、なんて内心思いながらも…意識は痴漢の手から離れない。
そして事態は益々悪い方向へ…


『…!!』

「………」 

「…鯉菜様? 具合でも悪いの?」


PKS…パンツ食い込まされた…!!
何だコイツ…満員電車だから移動できないし、好き勝手し過ぎだろ…。人がギュウギュウだから誰が犯人かも分からない…
どうしよう…このままじゃっ…


ガチで触られる!!





「おい。テメー…誰の女に手ぇ出してんだ。」

『牛…頭……?』




牛頭の声が聞こえたと同時に、不愉快な手の感触が消え去る。そして牛頭の手には真っ青な顔をした男の手首が握られている。


「この方はなぁ…2代目奴良鯉伴の娘なんだぞ!?」


いや、それカタギに言っても分からないと思う。
つぅかそこは「オレの〜」とかじゃないのね…ちょっとときめいたのに「2代目の〜」なのね。
まぁ…間違ってはないけど。
助けてくれたのはありがたいけど…このトキメキを返せ!!


「ひっ…ひぃぃぃいい!!」

「待ちゃぁがれこの下種野郎ー!!」

「…え? 鯉菜様何されてたの?」

『な、何でもないよ!』


ぎゃあああああああ…と男の悲鳴が響き渡る中、未だ何が起こったか理解していない馬頭にそう返す。
結局、次の駅で降り男の身柄を駅員に渡したのだが…


「…何でもっと早く言わねぇんだよ」

「そうだよ!
言ってくれたら直ぐにボクがやっつけたのに!!」


馬頭にもバレて、2人から「何のための護衛だ」と説教をくらう。
…あぁ、もう大丈夫なんだとホッとすれば今更になって震えがやってくる。
ダメだ、もうストッパーが効かない。


「うわぁっ!?」

「なっ!?何しやがる!! 離しやが…っ…」


右手は牛頭、左手は馬頭の首に回し…真ん中に立って2人に抱きつく。驚くだけの馬頭に対して、牛頭は私を引き離そうとするが…直ぐに大人しくなる。

今だけは見て見ぬフリをして欲しい…


『ぁ…りが、とうっ…!!』


しゃくり上げながらも何とかお礼を言う私にー
馬頭は「よしよし…」と私の頭を撫で、牛頭は「フン…」と言っただけで私が落ち着くのを待ってくれたのだった。





(『グスッ…』)
(「…学校どうすんだ」)
(『…サボる』)
(「…は?」)
(『これからショートパンツを買いに行く。もう間違って洗濯されても大丈夫なように、もう4,5着くらい…!!』)
(「ズボン買って対策するんじゃなくて、自分で痴漢撃退できるようにしろよ!!小心者!!」)




prev / next

[ back to top ]


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -