▽ 御中元
『あり? 猩影君じゃん』
「お嬢!! お久しぶりです!!」
暑い炎天下の中、縁側で小妖怪らとアイスを食べていれば猩影くんが現れた。手には何やら大きな箱が…。
「何だい何だい」
「お菓子かー?」
「いやぁ酒だろ〜」
『こら、やめなさい。猩影くんが困ってるじゃない。』
猩影によじよじと登る小妖怪はとっても可愛い…!! 可愛いけど、猩影がとても暑苦しそうにしてるから可哀想!!
「お、お嬢…これ、御中元なんですけど…」
『おぉ!!狒々の組からの御中元、大好きだよ!!今年も缶ジュース!?』
「へ、へい…いつも同じですみません…」
『いいよいいよ!!むしろ嬉しいし!!多分狒々様も私が喜ぶの知ってて、毎年これにしてるんだと思うよ』
牛鬼や他の組から贈られるものはたいていがお酒類だ。だから私やリクオのように、お酒をそんなに飲まない者からすれば…狒々の御中元はいつも有り難いのである。
『わはっ 缶ジュースがいっぱ〜い!!どれにしようかなぁ♪』
開けて開けてと今度は私によじ登ってくる小妖怪。暑いぞお前ら!でも可愛いから許す!!
貰った御中元を開ければ…やはり私の期待通り。
ぶどう・りんご・マスカット・オレンジ味のジュースがそれぞれ5本ずつ入っていた。
しかもきんきんに冷えていらっしゃる…!!さっきまで冷やしていたのだろうか。
『猩影は?どれがいい?』
「えぇっ!? イイっすよ!!オレが貰ったら意味がないじゃないっスか…」
『気にしないの!!ほらほら…
うん〜♪やっぱマスカット美味しい!! 飲んでみる?』
「えっ…いや、その…お嬢?」
『いいからいいから!!』
遠慮する猩影に、酔っ払いの親父の如く勧める私。私の飲みかけの缶ジュースに猩影は目をやり、結局おずおずとそれを受け取る。
そして一口飲んでいるところで…
『きゃっ 間接キッスだわ☆』
「ブフーーーーッ!!!!」
ふっ…チョロQ、じゃなくてチョロイぜ!!
口からボタボタとマスカットジュースを垂らす猩影に内心ニヤニヤしながらも…フキフキと傍にあった手ぬぐいで口元を拭ってやる。
…ん? 手ぬぐい?
「ハハッ、美味しそうなジュースだなぁ猩影。オレにもくれよ。」
どこからともなく現れたお父さんは、猩影の持つジュースを横取りし…一気に飲み干す。ジュースだからいいけど、お酒の一気はダメだぞう!
「…プハッ! これでオレとも間接キッスだなぁ?」
ニヤッと猩影を見て笑うお父さんは真の馬鹿だと思う。キング・オブ・ヴァカだよ。猩影の顔見てみろ…「何なんだこの人」って呆れてるよ!娘として私も恥ずかしいわ!!
「おっ…猩影、テメェも来てたのか」
「鴆兄さん!!」
今度は鴆のご登場。手にはやはり御中元の品…どうやらアレは…酒のつまみですな。この酒好きめ!!
お父さんに挨拶を含め、御中元を手渡す鴆を視界に入れながら…私の脳では楽しそうな妄想が繰り広げられる。
…これは…やるしかないだろう!!妄想で終わらせはしない!!
『鴆も1本どう? 確かぶどう好きじゃなかったっけ?』
「あ? …って、ジュースかよ…甘そうだな」
ん?鴆はぶどうが好きなのかって?
…知らん!!私のさっきの発言は適当だからな!!
ガキの飲み物だと馬鹿にしながらも…私から投げ渡されたぶどうジュースを飲み始める鴆。
「…やっぱ甘ぇな。ほら、残りやるから飲め。」
『あら、いいの?』
口を手の甲で拭い、こちらにグイッと飲みかけのそれを差し出す鴆。
それを受け取ろうとすれば…
「お、オレが飲みます!!」
私が取る前に、バッとそれを受け取ったのは猩影。そしてまたもや一気飲み。
ふふ…引っ掛かったな!!
ここでチラッとお父さんの方を見れば目が合う。そして見事な以心伝心!!お互いニヤッとして出てきた言葉は…
『鴆とぉぉぉぉぉぉぉ!!?』
「猩影がぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
『「(間接)キスしたぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」』
「…なぁっ!?」
「ちょっ、お二方ぁ!?」
敢えて間接という所を小声で言い…後は大声で叫べば、ドタバタと一気に騒がしくなる奴良組本家。
「「「「本当ですかぁぁぁぁ!!」」」」
いち早く出てきたのは何人かの女妖怪。お前ら全員腐女子だろ!!ふははははは!!
実は私もだ!!
…と言っても私は何でもアリなだけだがね!!
「やはり年が近い2人だけに…!!」
「あぁ…!!やっぱりあの2人はできてたのよ!!」
『でも歳が近いとなるとリクオもだよ』
「てことは三角関係!?」
「まあっ…なんて素敵なのでしょう!!」
「いや、リクオは昼と夜で性格ちげぇからな…ある意味四角関係じゃねぇか?」
「「「「キャーーーーッ!!!!」」」」
キャッキャッと腐った花を咲かせて盛り上がる女妖怪。それに拍車をかける私とお父さん。頑張って否定する鴆と猩影だが、テンションMAXな女性陣に叶う筈もなく…間もなく撃沈。しばらくは腐女子のエサにされるのであった。
(「何かボクを見る目が最近おかしいんだけど…特に女妖怪達が。」)
(『…そりゃあ…アンタと鴆と猩影はいいエサだもの』)
(「何のえさ!??」)
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