この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ イタクとフ〇ンタグレープ

これは京都編から百物語組編の間の時のこと。


「鍛え方が足りねぇんだよ。だから力技にもってかれたら直ぐに負けるんでぃ」

『だって…仕方ないじゃん!! どうせ男と女じゃ力加減違うんだし!!』

「お前の場合はただの筋力作りのサボりだろ」

『何ですってぇー!?』


この間…私とリクオは遠野に行ったり、逆にイタクに遠野から来てもらったり…晴明との戦いに向けてイタクに稽古をつけてもらっていた。
そして今回は遠野なぅ。
リクオが薪割りしている間に、現在進行形で私がイタクに稽古をつけてもらってる。だが、戦っても戦っても…避けることは永遠に出来るのだが、いざ立ち向かうとなると直ぐに負けてしまう私。


『…何故だ。』

「だから単純に力が弱ぇんだよ。お互いの技は互いに知ってるからな…お前もオレも技の攻撃を避けることができる。だが1度お前と刃を交わえれば、お前は力がねぇから直ぐに勝てる。」


そうー
ここまでは許せるのだ。イタクの言う事は最もだから…しかし!


「もっと体を鍛えろよ。怠けてっから力が入らねぇんだ」

『勝手に怠けてるって決め付けるなー!!』


これだ。私の怒りの原因はここにある。
何で怠けてるって決め付けるんだチクショー!!
さっきからこの言い合いをずっと繰り返しながら何度も戦っている。
だがここで…


「イタク、薪割り終わったぜ」

「…よし、じゃあさっきの続きやるぞ」


リクオにイタクを奪われて稽古終了。今度はリクオに稽古をつけるために、イタクはここを去る…


「毎日素振り1000回とかすりゃ筋肉もそれなりにつくんでねーの?」


…という言葉を残して。




そんなわけで、あれから3,4日…皆が寝静まった後を見計らって毎日1000回素振りをしている私。心の中はもはや『強くなりたい』ではなく『イタクを負かす』だ。ちなみに、学校には1週間の休みを届け出している、イエー!!
そして今からはイタクとの朝稽古だ…眠いぜ。


『…イタタタタ…』


手には血豆ができた上に潰れている…凄く痛い…手汗もやばいから痛さ百倍。こんな時リクオの回復力、もしくは治癒の力が自分に使えたら良かったのに…。包帯を手に巻き、その上からグローブをする。


『ついでに指先が出ているグローブだ。かっこいいだろう…中二病っぽくて。』

「お前は何を一人でブツブツ言ってんだ」

『ふっ…お主には分かるまい。今日こそ私の真の力を…!!』

「いいから始めるぞ」


イタクが現れたことで、今日の稽古が始まった。
…正直に言おう。
めっさ痛い!!血豆ぱねぇよ!!ものクッソ痛い!!


「……。」


んでもって、怖い!!
痛くて刀を握る手に力が入らない私に…イタクは怒りパロメーターが徐々に上昇中。それでも稽古を続けて…早くも3分が経過した。
そしてー


「ーおい やる気ねぇんなら帰れ」

『っ!!』


あっという間に刀を弾き飛ばされ、首筋に当てられる鎌。


「力をつけるどころか…日に日に弱くなってんじゃねぇか。強くなる気ねぇ奴を相手する程…オレも暇じゃねえぞ…!!」


ぎろっと鋭い目をして睨まれる。
…しまった、鬼撥だ…
気づいた頃にはもう時既に遅し。イタクの畏にのまれ、完璧に畏れてしまった。


「…今のお前はオレが稽古つけるにも値しねぇ」


そう言葉を残し、イタクはどこかへ行ってしまう。きっとリクオを鍛えに行ったのだろう…
  

『…痛いなぁ…っ』



その主語はグローブの隙間から血を流す手なのか…それとも自分の心なのか…よく分からない。




結局イタクがどこかへ行った後、川辺へ来た私。グローブを取り、絆創膏やガーゼを剥がして水に手をつける。


『…いってぇ…』


襲って来る痛みをなんとか耐え、手を洗っていればー


「鯉菜!!」
 

慌ただしく息を切らして現れるイタク…額からは汗が出ている。何があったんだとイタクを見上げていれば、目が合い、そして…


「なっ…なにも泣くこたねぇだろ!?
さっきのは…その……悪ぃ、言い過ぎた…」


徐々に声が尻すぼみになりながらも、最後まで言い切った言葉は…私に対する謝罪。


『……イタク…』


目を逸らし、バツが悪そうに言うイタクの姿に、私も罪悪感が沸き起こる。


『イタク…
謝ってくれたところ申し訳ないんだけど…私のこの涙は手の痛みから来るものだから。気にしなくていいよ?』


それにしてもイタクがそんなふうに謝る姿は…激レアだ!!
さっと取り出した携帯でパシャッと撮った私は決して悪くない…はず!! だが、私の言葉とパシャッという音に、イタクは直ぐに察する。


「……てめぇ…紛らわしいんだよ!! 今撮ったのも消せ!! 何さり気なく撮ってんだ!!」

『アダっ!!』


私の頭をポカリと殴り、携帯を横取りするイタク…
しかし、文明の利器に慣れてない彼にはそれを扱える筈もなくー


「おい…どうやって消すんだこれは!!」

『…さぁ?』

「へし折るぞコレ!!」 

『あー!!ダメダメ!!何すんの!?』


折られたくなければ消せ!!というイタクの命令に渋々イタクのレア画像を消す…フリをする。microカードにも保存しているため、本体の方の画像を消しても無駄なのだフハハハハハ!!


『…フンっ…ヴァカめ…(ボソッ)』

「なに言ってやがる」

『いたっ…何で叩くのよ!!どうせ聴こえなかったくせに!!』

「聴こえなかったが何となく腹立つこと言われたのは分かった。」


ギャーギャーと2人下らない言い合いをしながらも、イタクは私の手のことが気になるようで…


「おい、手ぇ出せ。」


水につけている私の手を取り出す。 


『何すんのよ…あ、私とお手々繋ぎたいのでちゅかイタクくん?』

「うぜぇ」

『い"った"ー!!』


容赦なしに消毒液をぶっかけて、そのまま優しさの欠片もなくギュウギュウに包帯を巻き付けてくるイタク…もしやコイツ…!!


『イタクってさぁ…もしかして、
好きな娘の苦痛に満ちた悲鳴とか顔を見て興奮するタイプ?』

「残念だったな。好きな娘の悲鳴や苦痛の表情を見る趣味はねぇが…てめぇのだったら見て楽しんでやる…!!」

『イダダダダ!! あんた私になんの恨みがあんの!? それともそれがあんたの愛情表現!?
いったぁぁぁぁぁい!!!!』


何だよコレ…治療とは思えないような痛みなんですけど。荒治療にも程があるだろ…


「…冷麗から聞いた」


突如ポツリと言葉を洩らすイタクに、黙って耳を傾ける。


「…お前…オレの言葉を真に受けて、本当に素振り1000回してたんだってな」


コラ冷麗。なに余計な事を仰ってくれてるんですか冷麗様。


「………冷麗に…怒られた。」

『ぷっ』

「しばくぞ」

『ギャアアア!!シバきながら言うセリフ違う!!』


私の首を絞める手をパッと離し、どこに隠し持っていたのやら…ファ〇タを私にパスするイタク。
…どこの青春学園だよ。てか私炭酸苦手なんだけど。



「……技の方を鍛えるぞ」
『…技を鍛える?』



聞き返せば、あぁ…とイタクは肯定し、技のレパートリーを増やせと言う。


「リクオみてぇに力で戦えねぇんなら、てめぇは技で戦え…冷麗みてぇにな。」


冷麗はもはや武器を何も携帯してねぇしな…なんて呟くイタクに私も納得する。
そうか…技を増やせばいいんだ…。

こうやって私はー
新技を考えてはイタクを実験台にして試し、改善し…というのを繰り返す。そして明鏡止水〈火葬風円舞〉を筆頭に…数々の技が生み出されたのだ。




(「…飲まねぇのか?」)
(『…これどこで買ってきたの?』)
(「? 淡島が街に行って買ったんだろ」)
(『……どおりで。ここに淡島って書いてんぞ』)
(「……………いんでねーか?」)




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