▽ 愛娘とデート〜後半〜(鯉伴side)
『これ…おいしい…!』
スープを飲み、目を丸くしてそう言うのは鯉菜。公園を見てまわった後、こうしてレストランで昼食を摂っているところだ。
「ククッ…ここ、ついてんぜ?」
『え? んむ………、…自分で取れるのにっ』
口元についてるケチャップをナプキンで取ってやれば、照れながらもお礼を言われる。
…うん、娘とこういうのもいいなぁ…
そんな事を思っていれば、
「………?」
さっきまでずっと動かしていた手を止め、窓の外をずっと見つめる鯉菜。その表情はどこか悲し気だ…。鯉菜の視線の先を見れば、そこには楽しそうな家族の姿がー。
父親と母親に挟まれ、ワイワイと騒ぐ子供達…よくある仲睦まじい家族だ。
『……ッ…このデザートも、美味しいね!』
無理して笑ってるその表情に…震えている声。目にはうっすらと涙がたまっている。
ーそうか…。
ようやくわかった。何で様子がおかしかったのかも…何で急にデートをしようなんて言ってきたのかも…。
鯉菜が締めのデザートを食べ終わったことを確認し、店員に会計を頼む。
「鯉菜!」
『ん?』
「次は買い物だ!!
何でも買ってやるから好きなのを言え!!」
そんなわけで買い物に来たオレ達…
来たのはいいが、あまりの人の多さにオレは少し気圧されている。
『…人、多いね…』
お前もか、鯉菜。
だがこんな事でくたばりはしねぇ…!!鯉菜の腕を掴み、取り敢えず若い女子向けの洋服屋に連れていく。
「おっ…あのワンピース、お前に似合うんじゃねぇか?」
『そ、そうかな…』
「なぁ、あのスカート…絶対お前に似合うぞ!!」
『あ、ありがとう…』
「すいません、コレとコレと…あとアレも…」
『お父さん!! 買い過ぎだってば!!』
そんな事をしていれば…あっという間に夕暮れ時。両手にはたくさんの買い物袋。鯉菜だけの物じゃなく…奴良組にいる皆に「あげたら喜びそう」と思った物をポンポン買っていった故にである。
「…なんか…悪ぃ。お前とのデートが…気が付いたら買い物になってたぜ…」
家の近くの公園に立ち寄り、途中で買ったアイスクリームをベンチに座って2人して食べる。
『ふふっ 全然いいよ! むしろ楽しかったし!!
久しぶりにあんなにはしゃいじゃった!!』
ニコニコと心からの笑顔でそう答える鯉菜に、ようやくほっとする。
「…元気でたか?」
『!!』
「…よく分かんねぇが…寂しかったんだろ? 昼時に見たあの家族を…お前いいなぁって目で見てたぜ?」
『…ッごめん…』
謝る鯉菜に、謝らなくていいと頭を撫で回す。きっとコイツのことだから…「羨ましい」と思ったことで、オレや若菜に罪悪感を感じてんだろうなぁ。
…考え過ぎたっての。
カラスの鳴き声が響き渡り、どこからか夕飯のいい匂いが漂ってくる。
『…明日なんだ…〈私〉が死んだ日。』
「!!」
ゆっくりと口を開く鯉菜の顔を見れば、どこか穏やかな表情をしている。
『前世ではね…家族がそんなに仲良くなかったから…いつも羨ましかったんだ。仲睦まじい家族が。』
「そうか…」
『うん…。前世の父のことは…家族で1番好きだったんだけど、父と仲良くしてたら母が不機嫌になっちゃうから…だからあまり仲良くできなかったんだ』
「…母親が嫉妬してたのか? お前に」
『…私にっていうか…父に? 自分よりも父親と仲良くしてるのが面白くなかったのよ…』
「…そうか…」
『うん…』
会話が終わったことで訪れる沈黙。だが、どこか居心地の良い静けさに、しばらく黙々とアイスクリームを食べる。
そして、食べ終わる頃に…
『お父さん、私ね…お父さんとお母さんの子に産まれて良かった! リクオという可愛い弟もできたことだしね!!』
「ハハッ、オレ達もおめえがウチの娘に産まれて良かったぜ。きっとリクオもそう思ってらぁ。」
お互いに顔を見合わせて笑い、たくさんの買い物袋を共に肩にかける。
さぁ、家族が待つ家に帰らんとすればー
『あ。さっきのコンビニ寄ってよ』
「? 何か忘れもんかい?」
ニヤッとしてアイスの棒を見せてくる鯉菜。
その棒には茶色の文字で〈アタリ〉と書いてある。
『せっかくなんだから、迎えに行ってやらなきゃ♪
神様からのプレゼントよ』
「プッ……違いねぇ!」
重い荷物を持ちながらも、来た道を2人並んで戻る。
『お父さん、ありがとう…』
「…何がだい?」
『何でもないわよ』
オレは何もしてねぇぞと惚ければ、鯉菜も何でもないと言って笑顔で返す。
素直じゃねぇのはおたがいさまだったか…。
行きとは違い、〈色〉のある表情ー
デートを誘われた時には驚いたが…
どうやら愛娘の渇いた心に潤いを与えることができたようだ。
おまけ
「鯉伴さん、鯉菜ちゃん…これ、どういうことかしら?(ニコニコ)」
『「………すみません」』
「ウチはお金には困ってないけど…流石にこんなに浪費されたら困るんだけど?(ニコニコ)」
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