この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 愛娘とデート〜前半〜(鯉伴side)

『ねぇ、来週の土曜日…暇?』
 

ご飯を食べ終わったお昼時、オレが縁側で横になっていると鯉菜が来た。


「…おぅ、今のところ暇だぜ。なんだい?」


学校の行事でもあるのかと思いつつも、鯉菜の次の言葉を待っていれば…


『デートしよう、お父さん』


普段の鯉菜からは考えきれないような爆弾発言が落ちてきた。





「…遂に来ちまったな。」


あっという間に土曜日…今日は約束のデートの日だ。あの後理由を聞くも『ただお父さんとデートしたいだけ』とか『…嫌なら別にいいけど』しか言わなかった。あいつが何を考えてデートしようなんざ言ったのか全くもって分からねぇ。


「しかもポーカーフェイスが上手ぇしな…あの顔はまさに〈無〉だった…」

『何の話?』

「!! い、いや…なんでもねぇ、それより準備できたのかい?」

『うん、いつでも出れるよ』

「じゃあ、行くか!」


現れた鯉菜は、いつものカジュアルな感じではなく、ワンピースを着てお嬢さんっぽい格好をしている。一方のオレは、今珍しくも人間の姿をしている。しかも和服じゃなくて私服だ。


「…本当にオレの考えたのでいいのかぃ?」

『うん』
 

鯉菜の即答で淡々とした返答に、頭をボリボリと掻く。実を言うと、デートコースはオレに全て一任されたのだ。だから…若菜や毛倡妓、雪女とか家にいる女全員にアトバイスを貰い、一応案を作ってきた。


「(本当にこんなんでいいのだろうか…)」


不安になりながらも、もはや〈当たって砕けろ〉精神で家を出る。もう今更何もできねぇし…若菜達を信じようではないか!
 

『どこ行くの?』

「黙ってついてきな、良いのが見れるぜ」 

『…?』


家を出て、電車や地下鉄を乗り換えて目的地へと進む。
ようやく着いたところは…


『…きれい…』

「だろ? ここの自然公園、若菜のお気に入りなんだぜ」

『…東京にも…こんなきれいな自然あったんだね』

「ハハッ、お前さんらの歳だとお店とか遊園地だもんなぁ…遊ぶところって言えば。」


ちらっと隣を見れば、感動したように綺麗な景色を見ている鯉菜。


「(…やっと〈色〉が出てきたか)」


先週の時もそうだったが、さっきまで鯉菜は空っぽのようだった。いつもみたいに笑わねぇし、怒りもしねぇ…ただ無表情で、どこかいつもと違っていた。


(「まぁ…完璧になおったとは言い難いがな」)
(『…? 何か言った?』)
(「いや、何でもねぇ。それより少し見てまわろうぜ。そんで昼ご飯にしよう。」)




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