この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 太った…だと!?

「…鯉の坊の嬢よ…もしやお主…肥えたか?」


キャハハと笑いながら言う狒々の言葉に、部屋の温度が急激に下がる。


「…お、オレたちは毎日鯉菜を見てるから分かんねぇが…」

「え、えぇ…しかし、ここ最近、お嬢の間食が多いように感じましたのも事実…」

「………確かに、前回ここに来た時よりかは…幾分かふっくらとなられましたな…」


お父さんや烏天狗、牛鬼の言葉にギクリと肩が震える。


『…じ、実を言うと、ここ1週間で3kg太りました…』

「「「3kgー!?」」」

『…はい、すいません…』


急激な体重増加…
これにはもちろん訳がある!


『今…期末テスト前なの!!勉強嫌いなの!!今回の範囲が物凄く嫌いな内容でストレス溜まってんの!!食べながらじゃないと、やってらんないの!!』


そう一気に吐き出す私の手にはチョコパイ。
ちなみに目の前にはクッキーとポテチもある。


『食べたらダメだって分かってんのに…頭が糖分を欲してるのよ!!お腹空いてないのに、口に何か入れて糖分取らないとイライラすんの!!もう数学も経済も…政治も大っ嫌い!!難しいよ!!私の硬い脳に反射されて…頭ん中に入ってこないよ!!入っても直ぐにスポーンて出ていっちゃうよ〜!!』


泣いてはない、が…テーブルに突っ伏しながら嘆く。ちなみに、私の手には3/4サイズのチョコパイが握られている。


「…確かにオメェ…テスト期間になると暴飲暴食するよな…」

「…言われてみると…そうですね。」

「キャハハ!じゃあテストが終わればまた元に戻んのか!!」

「…私で良ければ…力になりますよ。」

『…ありがとう…。自分で何とかできなかったら…その時は牛鬼に頼ります…』


牛鬼の親切心に心がうたれる。しかし、多分彼を頼ることはないだろう…。もし頼ったら、自分の頭の悪さがバレてドン引きされそうだからだ。


『はぁー…こうやって喋ってる暇があったら勉強しろって話よね…嫌だぁ〜…』


そうドヨーンと話す私の手には1/4サイズのチョコパイ。


「…その前に…
太ったって言いながらもチョコパイを黙々と食べるお前に、オレ達はなんて突っ込めばいいんだ?」

『おかわりいるか?とか…』

「やめろ。もうそれ以上食うな。」




そんなこんなでつらいテスト期間が終わり…



『うぉぉぉぉおおお!!
今日からダイエットだぁぁぁぁぁ!!』


気合満々で取り敢えず体重計に乗れば…


『…………』

「…予想以上に太っていてショックだった、と」

『…………はい、そうです…』

「それで…楽に痩せられる薬はねぇか、と」

『はい、鴆先生!』

「………ふざけんなぁぁあああ!!!!
テメェで何とかしやがれ!! 運動しろ!!」

『そ、そんなぁ…!!』


鴆に羽根を飛ばされて追い出される始末…。
あぁ…なんてこった…こんなにも暑い真夏の時期に運動だと…? そんなの地獄以外何物でもないじゃないか…!冬だったらまだ頑張れるのに!!
ズドーンと…床に手足をつき絶望していれば、


「…五体投地か? それ」

『…違います…』
 

私のすぐ傍に来て、変なことを尋ねるお父さん。
…何しにきたんだ。


「…お前も女みたいに体重気にするんだな…」

『…中身がオッサンなんだから…せめて外面だけは女子にしとかないと…』

「中身を変えるっていう選択肢はねぇのかよ!!」

『ない!!』


キッパリと言えば、ハァー…と溜め息をつくお父さん。


「あぁ…そうだ、お前に客だぜ」

『…客?』

「おぅ、今のお前にゃあちょうどいいかもな」


どういう意味だと聞こうとすれば、お父さんの後ろからその〈客〉が姿を現す。


「…よぉ、随分と怠けてるようだな」

『げっ…………イタク…』

「リクオを鍛えに遠野から来たらしいんだが…」

「姉貴の方を鍛えてやってくれ、ってよ。
…ようやくあいつの言ってた事が分かったぜ」

『ちょ、私は大丈夫なので。ボチボチ復活するんで、リクオの方を鍛え…!?』


私の顔の真横を通り過ぎる鎌。
もちろん投げたのはイタクで…


「…構えろ。いくぞ。」

『え、…ちょ、タンマタンマタンマ!!
…ぎゃあああああああ!!!!』


これこそリアル鬼ごっこ!!
ヒュンヒュン鎌が飛んでくるのを避けながら、逃げ回る。そして、逃げる私を鎌を持って追いかけるイタク。実にホラーだ。

イタクがいる1週間で、あっという間に元の体型&体重に戻った私。戻ったことは嬉しいが…スリリングを通り越して恐怖だけしかない鬼ごっこに、


『もう太らないように気を付けよう…!!』


と内心決意したのだった。




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