この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ ファーストキス

「ねぇねぇ、おねえちゃん」

『なぁに? リクオ』
 

ある日のお昼下がりー
3歳のリクオと5歳の私は一緒にお絵描きをしている。というのも、雨が降ってて外じゃ遊べないからだ。


「アレ、なにしてるの?」

『アレ?』


リクオの言葉に、クレオンを動かす手を止めて顔を上げる。そしてリクオの向く先を見れば、


『…………ちゅう、だね』


激しいキスをしているカップルがTVに映っていた。…てか、コレ昼ドラじゃん!!ドロドロの話のヤツじゃん!!


「おーぅ、雨がひど……待て待て待て待て。お前らナニ見てるんだ? 昼時からこんなの子供が見るもんじゃねぇだろ。」


グッドタイミングで現れたのはお父さん。慌ててTVのリモコンを取ってチャンネルを変える。
…ちっ、今いい所だったのに。


「おねえちゃん、どうしてちゅうしてたの?」


チャンネルは変えても、リクオの脳内はそこから変わっていないようだ。どうして?と不思議そうな顔で聞いてくるリクオは、何事にも興味津々なお年頃だ。これはちゃんと…答えるべきなのか!?


『…さっきの2人はね、愛し合ってたからチュウしてたのよ』

「? あいしあっ…?」

『愛し合ってたから』

「? それどういうこと?」

『……大好きだったってことよ、2人とも、お互いのことが。』


そう説明すれば、何となく察したようで…


「そっかー!
だいすきな人に、さっきのちゅう、するんだね !?」


キラキラと目を輝かせて、嬉しそうに言うリクオに頷いて肯定する。
するとー


「ボク、おねえちゃんのこと、だーい好き!!」

『…ぇ』

「おっ、リクオは大胆だなぁ〜」


チュッ♪と可愛い音と共に、私のファーストキスはいとも簡単にリクオに奪われる。


『(まぁ…リクオなら別にいいけどね!)』

「ボク、お母さんにもちゅうしてくるね!!」

「…オレにはちゅうしてくんねぇのかい。別にいいけど。息子よりかは娘にして貰いてぇしな…」


チラッとこちらを見てくるお父さんの視線に気付かないフリをして、リクオにいってらっしゃいと手を振る。


『…そのうち毛倡妓とか雪女にもちゅうしそうだな。』

「鯉菜もオレにちゅうしていいんだぞー?」

『毛倡妓はともかく…雪女は大丈夫かな。ちゅうして凍ったりしたら危ないよね…。』

「…おーい、鯉菜さーんやー…」

『うるさい。』

「……………。」


そんなこんなで、リクオによる私とお母さんへのちゅうがしばらくの間多発することとなる。



(『私のファーストキスはリクオだな』)
(「…まぁ、どこの馬の骨か分からん奴よりかは断然いいな」)
(『…そうッスか。』)
(「でもなぁ…リクオが奪うならオレが先に奪っとけばよかったなぁ…」)
(『お父さんほど親バカな人いないと思う…』)




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