この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 夏祭り

「リクオ、鯉菜…夏と言えば何だ?」


ミーンミンとけたたましく鳴く蝉の声を聞きながら、縁側でリクオと並んでいた時のことー


『「夏と言えば…?」』


突如現れたお父さんの言葉に、リクオと顔を見合わせる。


『…風鈴で 心頭滅却 いと涼し…』

「…奏でる音は 夏の到来」

「…誰が2人で五七五七七作れっつったよ!!」


2人でクールにハイタッチするが、お父さんにパシンと頭を叩かれる。


『地味に痛い…地味に。』

「…うん、地味〜に痛い。」

「どんだけ地味にを強調するんだよテメーら。」


溜め息を吐きながら腕を組むお父さん。


『そんなことより、お父さんは?』

「あ?」 

「夏と言えば?」


リクオの言葉にお父さんは少し悩む…
そしてー


「…は、花火とか 皆で行こう 楽しもう」

『……しょぼい…(ボソッ)』 

「…………ヒドイね…(ボソッ)」

「スイマセンでした…。」

『で、なに? 花火行きたいの?』

「花火か…そういえば今日は花火大会だよね。父さん、行きたいの?」

「お、おう!」

『そっかー、仕方ないなぁ…じゃあ夏祭り行く?』

「あ、あぁ!! 行こうぜ!!」

「…はぁ、仕方ないね、行くか」

「…あぁ。
(何で子供より親のオレの方が行く気満々なんだ?)」



そんなこんなで夏祭り。
 

『…!! …!! …!!』

「どうだ鯉菜? 感動したか?」

『…人多過ぎてつらいっ!!』

「どこの引き篭もりのセリフだよ!!」


どこを見ても人、人、人。
首無らに何も言わず、リクオとお父さんの3人でコッソリ来たが…あまりの人の多さに既に帰りたくなる。


「姉ちゃん、アレ見て? 美味しそうじゃない?」


リクオの指差す先には、光に照らされてテカテカ光る真っ赤なりんご飴。


『…美味しそう…食べてみたい。』

「ね! ボク買ってくるよ!!
(りんご飴食べる姉ちゃん…絶対に可愛い…!!)」

「鯉菜、アレはどうだ? いるか?」


お父さんの指差す先には、ふわふわとした薄いピンク色の雲。


『…綿飴か、懐かしい…。食べたいかも。』

「よし! 買ってくるからここで待ってろ!!」


リクオはりんご飴を、お父さんは綿飴を買いに行く。アレ…飴ばっかりじゃねぇか。甘い物ばかりでご飯的な物が全くねぇじゃねぇか。お前らどんだけ私に甘い物摂取させたいんだよ。どんだけ私を飴でベットベトにしたいんだよ。


『…そうか! こういう時にたこ焼きや焼きそばをさり気なく買っておくのが女子力か…よし、任せろ!!』


はっはっは。さすが私…女子力の高さに自分に惚れてまうわ!! というわけで、ドヤ顔でたこ焼きと焼きそばを買いに行けば…


「おっ! お嬢ちゃん可愛いねー!! 1個オマケしてやるよ」

『本当!? きゃ〜嬉しい! ありがとぉオジサマ♪』

「君美人だねー! 焼きそばに唐揚げ1個つけといてやるよ!!」

『やったー♪ お兄さんに惚れちゃいそ〜!』


オマケで増えるたこ焼きや焼きそば、そしてはし巻きや焼き鳥…


『…お父さんとリクオ、何処だろう。』


両手に沢山のご飯をぶら下げ、キョロキョロと辺りを見回す。
くそぅ…こうなったら別れた所に戻るしかない!
面倒だが迎えに行ってやろう…! と上から目線で向かえば


『…女子力高ぇ…!!』


りんご飴を3つ持った可愛いリクオに、綿飴をこれまた3つ持ったお父さん。
何だこれ。私はたこ焼きと焼きそばとはし巻きと焼き鳥だぞ。全部茶色じゃねーか。全部ソースとタレまみれじゃねーか。


「あ!! 居た姉ちゃん!!」

「おっ、美味しそうなもん沢山買ってんじゃねーか。気が利くねぇ。」

『…女子だから!! 茶色いのばっかだけど、私の方が女子だから!!』

「「どうした!?」」


目の前がボヤけて見えるのは決して涙なんかじゃない。これはアレだ…うん、アレだよ。


『…アレだよね、うん。皆分かるよね。』

「何の話だ」

「それより姉ちゃん、ハイ! りんご飴」

「ほら、綿飴もあんぜ」

『…うん、(ありがたくないけど)ありがとう』


茶色いご飯系の物を全て二人に渡し、りんご飴と綿飴を受け取ればー


「も、萌え…!!」

「おいリクオ!! 花火はまだか!? 花火は!!」

『………(何やってんだコイツら)』


ワタワタと慌ただしくなる2人に…それを冷めた目で見る私。
そしてー



パアアアアアアアアアン…



『ぁ…』

「「!! キターーーーー!!」」


頭上高くに上がる火の花。
誰もが上を見上げ、誰もが色とりどりに輝く花に目を奪われる。

…というのは嘘で、


「ちょっ、リクオ!! 早く撮れ!!」

「分かってるよ!! …て、ああ!!
姉ちゃん動いたら駄目だよ!! 花火見上げてて!!」

「りんご飴!! りんご飴をもう少し上に持って…そうそう!!それで花火を見ろ!!」

「父さん…! ナイスフォロー!!」

『…アンタらが花火見ろよぉぉぉぉぉ!!!』


そんな私の心からの叫びは、花火の音によって虚しくも消され…



『ねぇ、焼きそばは?』

「「ごめんなさい」」

『たこ焼きもはし巻きも…焼き鳥も、全部オマケまでしれくれたのに…?』

「…ごめんなさい」

「写真撮るのに夢中で…気が付いたら消えてました…」

『………ふっっざけんなこの馬鹿親子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』


花火大会が終わり…
静まり返る夜に、私の第二の叫びが今度こそ響き渡る。


「「すんまっせんっしたぁーーーー!!!!」」


祭りは終わりを迎えたが、奴良親子の喧嘩祭りはまだスタートを切ったばかりだ。

時にはこういうのも…悪くない、かもしれない。




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