▽ にゃー!!
『鯉伴ーーーーーー!!』
ある土曜のお昼頃、奴良組本家に怒声が響き渡る。
『てめぇ…にゃにしやがったにゃ!!』
ドタドタと廊下を駆け、居間の戸を勢い良く引くその姿は…
「…何してんの姉ちゃん」
「おっ♪ 似合ってんじゃねーか。猫耳と猫の尾」
白い猫の耳と尻尾が生えた私、奴良鯉菜。
何でこうなったのかは分からないが、お父さんが何かをしてきたことだけは予想付く。
『いつ仕掛けたにゃん!!』
「にゃん♪」
『大の男が「にゃん♪」って言っても可愛いどころか気色わりぃだけだにゃん!!』
「…ひでぇ言われようだな。」
『いいからさっさとにゃおせ!!』
「にゃおせ?…んん、悪いな。オレ猫語分かんねぇんだわ!」
『ふざけんにゃ!!』
「ぐはぁっ!!」
「ね、姉ちゃんのKO勝ち!!」
カンカンカンっと勝利のゴングがなるが、元に戻らないから素直に喜べない。
「…まぁ、しばらくしたら自然と消えるんじゃない? その猫耳と尻尾。」
『そうかにゃ…』
「(可愛い…)うん、きっと治るから。お茶でも飲んでゆっくり待とう」
そんなこんなで、リクオと二人でテーブルを囲みお茶を飲む。トラブルメーカーの鯉伴は傍で横たわっており、
『…返事がない。屍のようだ。』
「姉ちゃんが屍にしたんだけどね?」
「そうだぜ? 全く…乱暴な子猫ちゃんだな」
『ぴょっ!?』
「「(…ぴょっ?)」」
突然、尻尾を掴まれて変な声が出る。そうか…尻尾握られるのってこんな感じなのか…そりゃ猫は怒るわな。
『てんめっ…尻尾触るにゃ!!』
「…尻尾、駄目なのかい?」
『駄目』
「…どんな感じなんだ?」
『…脊椎を掴まれるようにゃ感じだにゃ』
「……………そりゃあ…嫌だな…痛そうだ」
なるほどとコチラを見ながら頷くお父さん。お茶菓子をモクモク食べながら話していればー
『…狒々様がもうすぐ着くにゃ』
「え? どうして分かるの?」
『狒々様が来てるにょ、微かだけど聴こえる』
「へー、猫の聴力まで発揮されるのかい」
そしてしばらくして現れる狒々。
「…キャハハ!! 相変わらずおもしれぇ事してんなぁ」
『全然面白くにゃいにゃ…』
私を見て開口一番そう楽しそうに笑う狒々に、ムッとして返すも…
「どれどれ。猫ってのはこうされるのが好きなんだろ?」
『にゃ…にゃにすんだにゃ!! やめ…』
「ほーれほれほれ」
『…にゃ、…はにゃ〜♪』
なんてこった…喉を撫でられるのがこんなにも気持ちいいなんて…!! ゴロゴロと喉はならないけど、蕩けそうなくらい幸せな気分だ。
「ちょっと何それずるい。ボクもやりたい。」
「待て。ここは親のオレが先にやる。さっさと代われ狒々。」
「キャハハ! 鯉菜嬢はモテモテじゃのう〜」
『にゃ〜ん♪ …って、ハッ!? 私は今にゃにをして…!! 私で遊ぶにゃ!!』
慌てて狒々から離れ、距離を取るも
「…あら、イメチェンですか? お嬢」
『け、毛倡妓!!』
「お嬢の猫姿もとっても可愛らしいですね!」
「だろ? (ドヤァ」
『にゃんでお父さんがドヤ顔するにゃん!!』
「…確か猫って、尻尾の付け根がツボなんですよね? 触ってもいいですかぁ?」
『え。やめて欲………にゃにゃっ!?』
…味方だと思いきや…思わぬ敵がここにいた!! 毛倡妓につんつんと触られ、つい反応してしまう。
『にゃっ…駄目にゃ、そこはっ…!!』
「あらぁ〜でも嫌がってるどころか喜んでいるように見えますけどぉ〜?」
『…ん……毛倡、妓ぉ…いじめにゃいでっ…』
「「「(こ、これがGL…!?)」」」
『にゃう……!!』
あぁ…毛倡妓。
女に生まれたことを感謝するがいい…!! もしアンタが男だったらこの後フルボッコにされてたよ、私に。
そんなことを負け惜しみで内心思うものの、未だに毛倡妓に苛められてるなう。尻尾の付け根だけでなく、今は喉も撫でられてパラダイス…!!
でも場所を選んで欲しかったな! せめて私の部屋でやって欲しかったな!! 何なんだこの公開処刑は!!
そんな事を思っていれば、目の前を通り過ぎる弱小妖怪。そしてその内の一人である胡椒妖怪に、私の鼻が敏感に反応する。
『…〜っ、へくちっ!!』
「あら…」
「あっ…(まだ喉撫でしてないのに)」
「キャハハ!! くしゃみで戻っちまったな!!」
「…ちっ(後で胡椒の奴ぁ…シメてやる)」
くしゃみをすればアラ不思議。
猫耳と尻尾が消えたじゃありませんか!! 聴覚も感覚も元通りだ…。
『…助かった。やっと快楽地獄から抜け出せた』
そうホッとする私とは逆に、
「…お父さん、もうないの? 猫にするの(ボソッ)」
「…また今度良太猫から貰ってくらぁ(ボソッ)」
満足してない馬鹿親子2人。
取り敢えずー
『…覚悟は出来てるかニャ? お父さん☆』
「……ハハッ、ま、まだだニャン☆」
『…くらえ!
テキサスクローバーホールドォォオオ!!!!』
「グボァァァァ…!!」
再び屍へと返り咲くお父さん。
そして一方、
「やや! それはもしや…」
「うん…さっきの写真。隙をみて撮ったんだ。」
「…ワシにも焼き増ししてくれんか、鯉の坊の坊」
「いいよ、1枚500円ね」
「…抜け目ないのぅ。まぁいい、帰ったら猩影に自慢するとするか…キャハハ!!」
この後…私の猫娘姿の写真が広まることになり、三羽鴉の(強制的)協力を得て回収するハメになる。
(『いい? 全力で写真を回収して。もし写真持ってる奴を見逃したら…あんた達の羽根をむしり取って、烏天狗サイズにするわよ』)
(「「「は、はいぃい!!」」」)
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