この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ お酒飲み過ぎ注意

ある年の正月のことー


「それにしても…鯉菜様の攻めの畏の時はとても珱姫様に似ていらっしゃいましたよ!!」

『あっは♪ 雪麗さんにあの格好で会ったら凍らされそうになったしね!何化けて出てきてんのよー!!って…』

「うっ。あ、あの時はお母…母がすみません」

『ああ、全然気にしてないよ。むしろ面白かったし(死ぬかと思ったけど)』


安倍晴明を倒し、訪れた平穏。
こうやって時々百物語組や晴明との戦いについて思い返して盛り上がる。


『…もう3年も経ったのか。まだ最近のように思えるよ』

「そうですねぇ、時が流れるのは早いです」

「最初はどうなることかと思ってましたが…リクオ様も無事立派な三代目になられまして…」


ガヤガヤと盛り上がる大広間から離れ、台所で氷麗、毛倡妓、私の3人で静かに飲む。料理を作りっぱなしだった為、少し休憩しているのだ。そんな貴重な休憩時でのトラブルは付き物で…
 

「お、お嬢!! 助けて下さい!!」

「総大将が…ご乱心で!!」

『おじいちゃんが? ……ほっとけ。』

「「いやいやいや、助けて下さい!!」」


現れた小妖怪に助けてくれとせがまれる。


『リクオやお父さんはどうしたのよ』

「お二人共ほっとけ、と…」

『じゃあいいじゃん。ほっとけ。』 

「「鯉菜様ぁぁぁぁぁ〜!!」」


面倒臭い仕事をゴメンだと断る私に、尚も助けてくれとせがむ小妖怪ら。だが遂に断わる事ができなくなる。


「鯉菜様…」

「鯉の坊の嬢ォ〜…」

『…何かすっごい嫌な予感しかしない。』


ぬぅっと現れた牛鬼と狒々。2人とも何故かボロボロである。
 

「総大将が泥酔して大変な事になってます」

「キャハハ! お嬢、なんとかしてくれよ」

『だから何で私が…』

「「攻めの畏で大人しくさせてくれ」」 

『…うっわーもう先が見えちゃったよ』


お酒も相まってきっと滅茶苦茶引っ付いてくるぞ。
うっざっそー…。




そんなこんなで大広間


『…うへぇ…帰りたい。いやここが私の帰る場所だけど』


私の視線の先にはかなり泥酔しているおじいちゃん。しかも何故か若かりし頃の姿。何で若返った…体に悪いだろうに。


『さっさと寝かせて終わらすか。』


攻めの畏に姿を変えればアラ不思議!
ちょっとイメチェンした珱姫の出来上がりです!


『……妖様?』
 

後ろに周り、ゆっくりと声をかければ目を見開くおじいちゃん。イケ面ですね。


「よ…珱姫? ………珱姫ぇ〜!!」


キョトンとするものの、直ぐに覚醒して飛び付いてくるおじいちゃん。鬱陶しさ全開ですね。


「珱姫! お前…いつもと格好が違うなぁ、イメチェンか?」

『(いや孫チェンですけど。)
えぇ、ちょっと雰囲気変えてみました…』

「そうかそうか!珱姫はどんな格好でも似合うのう!!」


おじいちゃん含めて奴良組全員、私の攻めの畏の姿を見てるんだけど…どうやら泥酔のあまり孫だと気付いてないようだ。


『ほら…飲み過ぎは体に毒ですよ?
横になって寝て下さいな。』


ニッコリとして言えば、おぅと言って私の膝に頭を乗っけるおじいちゃん。所謂膝枕だ。
ゴクリ…と皆が唾を飲み込んで見守る中、このまま寝落ちしろと皆で念じる。

ー いい加減大人しくなってくれ…っ!!

だが総大将がそんな簡単に大人しくなる訳がなく、


「のぅ…珱姫…」 

『はい、何ですか? 妖さ…ま?』


急にむくりと起き上がったかと思いきや、顎クイしてくる色ボケじじい。恥ずかしいからやめて下さい。


「いつもと違って丈が短いが…お主、わしを誘っとるのか? ん?」

『ちっ、違います…!おやめ下さいなっ…』


ニーハイと太腿丈の着物から覗く太腿をさすってくるぬらりひょん…その手をパシンと軽く叩き落とす。
珱姫だったらこんな事しないかもしれないけど、いかんせん、珱姫の真似をするにも限界がある。


「ムッ…何じゃい。今日はいつにも増して厳しいなぁ?
…ワシぁ何かしたか?」

『いえ…何も。
それより妖様。もう夜も遅いですし…妖様もお酒を飲み過ぎです!珱は妖様を心配です…もう寝ましょう?』

「!! …ククッ、珱姫。
お前から誘ってくるなんて…嬉しいのぅ。」

『…は?』


一瞬キョトンとするが、直ぐにニイッと妖しく笑うぬらりひょん。何言ってんだコイツと思っていれば…


『…ッ!? え、えええ!??』


肩を強く押され、気が付けば視界に入るのはぬらりひょんと天井のみ。
何故押し倒した…!! いや、それよりも…!!


『む、胸板!! 鴆に劣らず素晴らしきエロい胸板…!!
恥ずかしい!! しまって!! 死ぬから!!』
 

もはや珱姫の真似なんかしてられない。
目の前に迫る金賞レベルの胸板に…胸板フェチな私は素が出ており、真っ赤な顔でニヤニヤMAXである。冗談抜きで萌え死にそうだ。助けて欲しい!


「ん? どおしたんじゃ?
寝よう、と先に誘ったンはお前じゃろう。珱姫」

『その寝ようじゃねぇよ!! お前の脳は思春期真っ盛りのエロガキかっ!?』


この爺…完璧に私を珱姫だと信じて疑ってないようだ。迫る顔を全力で押し返していたものの、両手首を押さえつけられてガチなピンチを迎える。
アカン…
このままじゃ…私の唇ミーツおじいちゃんの唇になってしまう…!!


こんな困った時には…



『……助けてリクえもん!!鯉パンマン!!』

「おい…クソ親父…」

「ジジイ…てめぇ、何してやがる」

「…あん? 何じゃ、邪魔すんじゃねぇよ」


私を押し倒すおじいちゃんを挟むようにして両側に立ち、おじいちゃんの首筋に刀を添える2人。
…間違えてはねるなよ。
そんなホラーなシチュは誰も求めてないから!!
心の中で不安3割・(助かった)喜び7割で涙目なうでいれば、急にスウッ…と見えなくなるおじいちゃん。


「「……!?」」

『真の…明鏡止水…』 


これが本物の力なのか…畏を断とうにも断てないぬらりひょんの鬼發。お父さんもリクオも視線が定まってない事から見えてないようだ。
ポカーンとしていれば不意に感じる浮遊感。


『むをっ!?』

「おいおい…珍しく色気のねぇ声だな」

「!! 姉貴!!」

「ちっ…待てクソ親父!!」


おじいちゃんに姫抱きされる私、そして私を助けようと逃げるおじいちゃんを追うお父さんとリクオ。


『(あぁ…助けて欲しいけど、でも、どうせなら後もう少し…)』

「逃げるぞ、珱姫!!」

『…は、はいっ!(この神レベルの胸板を堪能したい…!!)』

「「おいコラ何返事してんだ」」


そんなこんなで始まった胸板enjoy追いかけっこ。
え?…勝者は誰かって?
そんなのー…




(「くそっ!あのジジイ…」)
(「どこに隠れやがった…!!」)

(「フンッ…これで邪魔者はいなくなったな」)
(『(素晴らしき胸板だった…)』)←満足
(「珱姫…覚悟はいいか?」)
(『……あんた……

いい加減目ェ覚ませ色ボケじじいーーーー!!』)
(「!?(珱姫山噴火…!?)」)




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