この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 七夕

「はーい、皆お願い事書いたー?」

「書いた人から飾ってってねー!」



カラフルな短冊を持つ妖怪達の真ん中に立つのは、1本の大きな笹。
そうー
今日は年に一度の七夕だ。


『……。』


一応書いたけど…皆は何て書いたんだろうか。


「お前はなんて書いたんだ?」

「オイラー?
オイラはきゅうりがもっと欲しいって書いたー」

「黒、お前は?」

「拙僧は…髪に合うシャンプーが見つかるようにと書いた。」

「……お前ぇ毎年この時期になると髪のことで悩んでるよな」

「…オレは何にしようかな。2代目にこれ以上首で遊ばれないようにでも書くかな…。」

『………』


皆の話を盗み聞きし、慌てて書いた内容を消し、改めて書き直す。


「姉ちゃん、書いた?」

『っ! か、書いたよっ』

「? じゃあ一緒に飾りに行こうよ!」


ニコニコと言うリクオの手には水色の短冊。


『リクオは何て書いたの?』

「僕? 僕は〈妖怪だってバレませんように〉って書いたよ!姉ちゃんは?」 

『そ、そっか…私は〈身長が伸びますように〉って書いた。』

「あはは…姉ちゃん相変わらずソレ気にしてんだ」


苦笑いするリクオに、こっちも苦笑いして返す。そして飾りに行けば…


「〈身長が伸びますように〉…ねぇ。」


私のピンク色の短冊を読み、ニヤニヤとするお父さん。そんなお父さんの緑色の短冊を覗き込めば、


『〈鯉菜とリクオがオレにもう少し優しくなるように〉………』

「………姉ちゃん。」

『うん、見なかったことにしよう。』

「そうしよう。」

「おいお前ら。オレの願いと反対方向に進んでんじゃねぇか。」


そんなこんなで、各自ちょっとした願いが書かれた短冊を笹に括りつけた。そして笹に括りつけた者から屋敷内へと戻り、夜ご飯を食べる準備に取り掛かる。


「姉ちゃん、ご飯食べに行こう」

『うん! お腹空いたねぇ』

「おいこら。オレも誘えよリクオ」


リクオの頭をワシャワシャするお父さん。そして思春期なのかそれを結構本気で嫌がるリクオを尻目に、沢山の短冊を付けた笹を見た。


「おーい、何してんだ鯉菜」

『…何でもなーい。今行くー!』


後ろ髪を引かれる思いのまま、お父さんとリクオの元へ駆け、そのまま食事を取りに行く。七夕だからか…いつもに比べて少し豪華な夕飯を食べつつも、私の頭の中は短冊のことでいっぱいだった。





ー鯉伴sideー



「ふぅー…いい湯だったなぁ。…ん?」


深夜、お風呂から上がり、廊下を歩いていれば前方にある人物を見つけた。


「…何やってんだアイツ。」


キョロキョロと周りに誰もいないかを確認したかと思いきや、小走りで笹の元へ行き、何やらゴソゴソしている。
…アイツもう短冊をさげてたよな?
陰に隠れて一連の動きを見守り、あいつが去ったことを確認する。


「…何やってたんだ?」


さっきゴソゴソしていた場所に向かい、短冊を色々と見ていればー


「! …ククッ…本当アイツぁ…」


新しく黄色い短冊に書かれた願い。
それを見て、オレも自分の緑の短冊を取る。
そして一旦自室に戻り、裏の空白に新たな願いを書き加えてまた外へ出た。


「…さてと、」


畏で姿を見えなくし、笹の元へ行って先程の黄色い短冊を探す。


「あったあった。…これでよし!」


その黄色い短冊の横に並ぶよう、緑の短冊をかける。空を見れば綺麗な天の川。


「ハハッ…お互い願いが叶うといいねぇ。」


アイツの願いもオレの願いも…この綺麗な天に届くように祈りながら、部屋へと戻った。


偶にはこういうイベントも悪くない。








(〈リクオ、お父さん、お母さん、おじいちゃんが今年も笑顔で過ごせますように。 奴良鯉菜〉)

(〈鯉菜も今年も笑顔で過ごせますように。奴良鯉伴〉)

(「…お前が皆のために祈るなら、オレはそんなお前のために祈ろう。」)




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