▽ 〈夜〉との面会
リクオが晴明を倒し、世の中が以前のように平和に戻ってある日のことー
『………丑の刻、か』
ふと目が覚めれば夜中の2時。寝ている者が殆どの時間帯だ。
『…夜の散歩でもしようかしら。』
寝間着から着物を簡単に着る。そんなに長い間散歩するつもりはない。きっと誰にも会わないだろうと思い、だらしないが少し着崩して部屋を出る。
『〈昼〉は寝てんのか…』
心を静めれば…例の桜の木の下で〈昼〉の私は寝ていた。
そうー
『…アタシが出るのは久しぶりね。』
今は〈夜〉in夜の姿だ。
自分で言うのもなんだけど…アタシらの設定ってかなり面倒くさくてややこしいよね。
『よっと…』
「あれ? お嬢?」
「こんな時間にどこ行……あ!?」
「〈夜〉のお嬢じゃねぇですか!!」
「本当だ…目が紅いから〈夜〉だ!」
『…屋根の上で麻雀すんなよ。』
納豆小僧ら小妖怪がジャラジャラと麻雀している。楽しそうだな。
ちなみに、〈昼〉と〈夜〉を見分ける方法…それは目の色だ。〈昼〉の時はお父さん譲りのオレンジ色であるのに対し、アタシだと目の色が紅色になる。これは人間の姿でも妖怪の姿でも変わらない。
「にしてもこんな時間にどこに行くんです?」
『…別に。』
「もしや…彼氏の元ですか!?」
『彼氏いないから。じゃっ。』
永遠に続きそうな質疑応答に、明鏡止水で逃げる。
さて…どこに行こうか。
『……そういえば、アレって何処なんだろう。』
ある場所を探し、キョロキョロと周りを見渡す。
『…あそこ、かな』
めぼしい場所を見つけ、そこへと向かう。
『ビンゴ♪』
そこは東京を1面に見渡せる場所。
作中で、おじいちゃんと珱姫、そして鯉伴と山吹乙女さんがよくこの場に来ていた所だ。
…私がここに来たのは小さい時以来だ。
リクオが生まれ、家族四人でここに来たのを覚えている。
『…夜なのに明るいな』
キラキラとカラフルに輝く電飾。この時代だからこそ、見れる景色だろう。
『……あんまり好きじゃないけど、この景色も悪くはないかも』
「心外だな…何で好きじゃねぇんだ?」
『! 鯉伴…リクオ…』
「…何故に名前呼び。別にいいけどよォ、パパって呼んでみ?」
「…………親父」
『………………。』
ニッと素晴らしい笑顔で言う鯉伴を、リクオと一緒に遠い目で見守る。
『…2人で飲みにでも行ってたの?』
「いや、さっき偶然会っ…た………」
「? どぉしたリクオ。」
「……アンタ…もしかして〈夜〉の方か?」
気付くの遅くね?
「! 本当だ。だからお父さんじゃなくて名前呼びだったのか…」
お前も今更気づいたのか。
『……〈昼〉じゃなくて悪かったわね。』
眉を寄せて言えば、2人は慌てて弁解する。
「別に悪いだなんて言ってないだろっ」
「そぉだぜ? むしろゆっくりお前さんとも話したいって思ってたからな、ちょうどいいさ。」
『…ふぅーん…?』
別にどうでもいいけど…なんて思いながら、視線を2人から景色へと戻す。
「…本当、夜なのに明るいな。」
「あぁ。昔は月が出てないと、本当に闇って感じだったんだがねぇ…星も昔のように輝かなくなっちまったなぁ。
まぁ…これはこれで綺麗だがな。」
『確かにカラフルで綺麗だけど…アタシはこんな人工的な光、あんま好きじゃないな。…どうでもいいけど。』
「まっ、その気持ち…分からんでもないがな。」
「また何年か経てばもっと明るくなるんだろうなぁ」
カラフルに輝くネオン街を見ながら、3人でたわいない話をする。すると…
「…お前ら何やっとるんじゃ」
「! 親父…」
「じじいこそ何やってるんだよ」
ぬらりひょん登場。この人…だいぶ年寄りなのに全然元気だな。
「ちょっと目が覚めてな…寝付けんから散歩しとったんじゃ。
…ん? お前、〈夜〉の鯉菜か。」
『…皆アタシに異常反応するね。〈昼〉に変わった方がいいかしら』
「何を言うとる。皆が驚くんは当たり前じゃろ、お前は全くと言っていい程出らんからなぁ」
「そうだぜ? もう少し皆と絡めよ。」
カラカラと笑うぬらりひょんと鯉伴を見ていれば、後ろから羽織をかけられる。
…暖かい。
「そんな薄着してたら風邪ひくぜ?」
ニッとそう言ったのはリクオ。
正直助かる。ちょうど今少し肌寒かったのだ。
『…ありがとう。でもリクオは大丈夫? 寒くないの?』
「オレぁ大丈夫だ。体温たけぇしな。」
ケロッとして言うリクオに安心しつつ、お言葉に甘えて羽織を大人しく着る。そして、そのやり取りを見ていた鯉伴が口を開く。
「…お前、何でそんな色気ある格好してきたんだ?」
『色気あるって…。別に。
ただ着替えるのが面倒だったから、雑に着ただけよ。』
「お前…そこは女なんだからちゃんとしろよ」
『うるさいわね。別にいいじゃない。』
鯉伴が口煩くなってきたうえに、もうここには用はない。さっさと家に戻って寝よう…そう思って家の方向へと歩こうとするも、
『…なに。』
首根っこを鯉伴に掴まれ、前に進めない。
「つれねぇなぁ、もう帰るのかい?」
『うん。別に用ないし。帰って寝るわ。』
「…せっかくアンタが出てきたんだ。もっと話そうぜ? 姉貴」
『……遠慮するわ。何か面倒くさそうだし。』
そうやって何度も2人からのお誘いを断るが、なかなか解放してもらえない。挙句の果てに…
「そうじゃ!今から4人で飲みに行かんか。」
ぬらりひょんの提案に、鯉伴もリクオもいいアイデアだと賞賛する。
『私はいいから! もう帰るから!!』
「いいや、ダメだ!! ここにいる皆、強制参加だっ!!」
「そんじゃ、行こうぜジジイ。」
「おぅ!…さて、何を飲もうかのぅ」
楽しそうに化け猫屋へと向かう3人に強制的に連れられるアタシ。
この後、結局4人でお酒を飲みまくり、見事全員化け猫屋で寝落ちすることとなる…。
朝起きて…
(『…いつつ、頭が痛い』)
(「あれ、ボク何でここで寝て…?」)
(「…ふぁーあ。……あり?ここどこだ?」)
(「…む…?昨日の夜…何をしたかのう…」)
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