この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ


▽ 悪夢A 始動

リクオと一緒に見た悪夢から数日経つが、あれから地獄に行くことはなくなった。用が済んだからなのか、もしくは諦めたのか…後者だったらいいんだけどなぁ。今のところ私には異変がでてないし。
まぁ、強いて気になる点と言えば…
時々心臓を握られるような痛みを感じるくらいだ。


『(まぁ直ぐに痛みも治まるし、気のせいだろうとは思うけど…)』

「あ、お父さんだ!」

『おっ、本当だ。何してるんだろ…
行ってみようか!』

「うん! 行こう!」


リクオと一緒にお風呂に行こうと廊下を歩いていたら、縁側に佇むお父さんを発見。驚かせようと二人でゆっくり忍び足で近付いてたのにバレバレだったようで、直ぐにこっちをふりかえる。


「おー、これからお風呂かぃ?」

『そんなとこ』

「お父さんは何してんのー?」

「オレはお月さん見てたんだよ、今日は月が綺麗だぜ」


ほらと言うお父さんの言葉に従って空を仰げば、確かに光輝く月があった。こんな月の下で月見酒したら最高だろうなぁ、まだできないけど。


「こんなに月が綺麗だと…あれだな。
一杯飲みたくなるなぁ。」

『(同じこと考えてるし…)』

「ボクもー! ジュース飲みたくなるー!」

「ハハッ! そうだよなぁ?」


ジュース飲みたいとせがむリクオに対して、ウンウンと頷くお父さん。これはあれだな、出かけるパターンだな。


「よしっ、じゃあ今から皆で夜の散歩と行くか!」

「やったー!!」

『…護衛は? つけなくていいの?』

「オレがついてるから大丈夫だ、安心しな!」


二ッと笑うお父さんに拒否権は無さそうだなと悟る。せめて準備をしようと、一旦部屋に戻って護身用の木刀を装備。
待ってるだろうお父さんとリクオの元へ戻ればー


『……っ! (また痛みが…)』

「お姉ちゃん! 遅いよー!」

「おーう、準備できたかー…って、
お前さん…具合悪いんじゃないか?」

『…………いや、大丈夫。行こう!』


直ぐに治まるこの痛みは何なのだろうか…?
そういえば、リクオとお父さんが仲良くしてるのを見かけるとよく起きる。無意識のうちに嫉妬しちゃってんのかなぁと考えながら、奴良組をあとにした。



家を出て、まず最初に向かったのは公園。
公園でジュースを買うためだ。
しかし、何かを見つけたのであろうリクオが方向転換。公園への道とは違う道を走り出す。


「…やっぱリクオは男の子だねぇ」

『暢気に言ってる場合か!
ちょっとリクオ! あまり一人で遠くに行っちゃダメで…』


はしゃいで一人先へと走るリクオを追いかければ、神社に着いた。そしてそこに居たのは、リクオと例の女の子…


「遊びましょう?」


今日かもしれないとは思ったけれど、まさか本当に今日だとは…。
その日が来てしまったショックと恐れで、いつの間にか私はボーッとしていたらしい。後ろから聞こえてきた声に、意識が現実へと引き戻された。


「リクオ…鯉菜…その娘は…」

「お父さん!
遊んでくれたの、このお姉さんが!」


その娘の姿に衝撃を受けていたお父さんだったけど…でもそれは最初だけ。あとは4人で楽しく遊んだ。


『(それにしても…安倍晴明は地獄で私を羽衣狐の器にしたんじゃなかったのか? )』


もしかしたら乙女さんは出てこないんじゃって思ってたが、どうやらそこは変わらないらしい。
……となると、一体私は何をされたんだ?


『(もしかして、術が失敗してたとか…?
異変がないのもそういうことか!? ざまぁ!!)』

「あ! 何だろうアレ」

「リクオ あまり遠くへ行くなよ。
鯉菜、一緒について行ってやれ。」

『…っ、分かった。』


ここに居るつもりだったのに、まさかそう言われるとは…予想外だった。
急がなければ。
その一心で、ダッシュでリクオの元に行き、口早でリクオに言う。


『リクオ、お願いがあるの。
今から急いで家に戻って、誰でもいいから助けを呼んで。』

「…おねーちゃんは?」

『おねーちゃんはお父さんを助けに行くの。
だから、リクオはおねーちゃんを助けるために、皆を呼んできてちょうだい。リクオにしかできないことなの、よろしくね!』


そう笑顔で言えば、リクオは困惑した表情のまま「うん」と頷いて走り出す。おそらくこれでこっちに来ることはないだろう…。


『お父さんっ…!』


リクオの次はお父さんだ。全力で来た道を走る。
目に入るのは満開な山吹。


『(間に合え…!!)』


腰にさしてある木刀に手を添える。
二人の元まで後少し。

刀がお父さんに届くまで…後少し。




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