▽ 悪夢@ はじまり
※「悪夢」は、夢主が羽衣狐側にいく話です※
最近、夢見が悪い。
「おはようさん、鯉菜!
…顔色が悪いな。今日も夢見が悪かったのかぃ?」
『おはよ…今日もお陰で寝汗びっしょりー』
朝起きて、洗面所に向かえば父現る。今日もイケメンだなぁと目を癒していれば、さっきまで胸いっぱいにあった不快な気分が浄化されていく。
あぁ、本当、いつまで続くんだ。
「…まぁ、前みてぇに寝込んではねぇからなぁ。もしかしたらお婆ちゃんが守ってくれてるのかもな。」
『そーかも、また今日もお礼参りしとくね!』
前みたいというのは、先週のこと。
先週、私は3日間も寝込んでしまったのだ。原因は地獄にいる安倍さんと山本さん。彼等はあろうことか幼い私を地獄に召喚し、私を羽衣狐の器にしようとしたのだ。
それを何とか助けてくれたのが、お婆ちゃんこと珱姫(…と、私の内なる妖)。
「…何かあったら直ぐに言えよ?」
『分かってるって!』
心配そうに私の頭をなでるお父さんを安心させようと笑顔で返事をすれば、「何か方法はないかねぇ」と唸りながら去っていく。
方法があるなら是非とも教えてほしい。
でないと、私の身が持たない。
『(毎日毎日…地獄に召喚するとかどんだけ暇なんだよアイツら。)』
「お嬢! 朝御飯できてますが、食べれそうですか?」
『食べるー!! お腹すいたー!!』
やってきた首無の手を繋いでそのまま食卓へ。はっきり言って食欲ないが、食べないと余計に免疫落ちそうだしね。
『(今のところ何とか逃げれてるけど)
いつまで逃げれるかなぁ……』
「? 追いかけっこでもされてるので?」
『実を言うとリクオから今隠れてるの!』
「そうですか、では早く食べてまた隠れないとですね!」
『うん!』
私の夢見が悪いことは、お父さんとおじいちゃんと烏天狗しか今のところ知らない。何たって情報が無さすぎる。私が話してないからだけど、2人のオッサンが何かしようとしてるしか知らないのだから。
『……ふぁあ……眠い……』
「お姉ちゃん寝るのー? じゃあボクも寝るー!」
時刻は午前11時。
朝ごはん食べてダラダラしてたらもうこんな時間だ。
『お昼まで時間あるし、少し寝ようかぁ…』
夢見が悪いせいで寝不足気味な私。
特にすることもなく、リクオと一緒に少し早い昼寝を取ることにした私は直ぐに夢の世界へと落ちた。
*
*
*
……寒い。いや、暑い?
ゾクゾクと襲いかかる寒気と重苦しい空気に、デジャヴを感じる。
いや、デジャヴなんて久方ぶりなものじゃない。最近毎日味わってるものだ。
『(……、またか……)』
目を開ければ、最近ではもう見慣れた光景。
昼寝でもどうやら地獄に来てしまったようだ。
「う〜ん……」
『!?
な……で、リクオ……?』
「……ん、…お姉ちゃん?」
おはようと暢気に欠伸をしながら起きるリクオに、私は思考停止していた。
早く気付くべきだったのにー
早く動くべきだったのにー
「…息子の方が簡単だな」
「? 誰……?」
『リクオ!!』
いつの間にかリクオの背後にいた安倍晴明がリクオに手を伸ばす。何も分からないリクオは、ただ近づくその手を見るのみ。
刻一刻を争う中、どうしようなんて考える時間も余裕もないのは当たり前で…
「痛っ…お姉ちゃ…」
『 』
”逃げて”という言葉は、
声に出されることはなくー
「…お姉ちゃん……?
お姉ちゃんっ!!」
「フン…姉に助けられたか…」
「いっそのこと息子の方も、」
「……いや、放っておけ。
母の覚醒のためだ、餌はあった方がいい。」
『(あぁ…ごめんねリクオ…)』
私が突き飛ばしたせいで、尻餅をついたまま私を見て泣き叫ぶリクオの姿を最後に…
私は意識を失った。
*
*
*
「うわああぁぁぁぁぁんん!!」
「リクオ様…!! どうされたんですか!?」
「怖い夢を見たのでしょうか?」
「大丈夫ですよ〜! 夢ですからね〜!」
リクオのサイレンのような泣き声によって、戻る意識。そして次々聞こえてきた声に、リクオも怖い夢を見たんだなぁとぼんやりと思ったところ…
「お姉ちゃんがぁぁぁぁ!!」
『……うん? 私!?』
「お姉ちゃんが…突き飛ばしたぁぁぁぁ!!」
『(そっちかい!?)』
確かに私はリクオを突き飛ばした。
それは、安倍晴明がリクオに印を施そうと手を伸ばしていたから、反射的に突き飛ばしてしまったのだ。
決して悪意ではない!!
『……なんか、ごめん。』
「リ、リクオ様!
それも夢ですから!!」
「そ、そうですよ!! お嬢がリクオ様を突き飛ばす筈ないじゃないですか!!」
「リクオ様のことを大事に大事にしてる鯉菜様ですよ!?」
…皆、フォローありがとう!!
リクオを庇ったせいで私に術がきたからね!!
術で倒れた私を心配してリクオが泣いたと思ったのに、まさかの突き飛ばした方だったからね!! お姉ちゃんも泣きそう!!
『って、あれ……?』
「どうかしましたか?」
『いや、私、…変なところない?』
「? いつも通りかと…」
「えぇ、強いて言うなら涎が……」
『あ、本当だ。ジュルッ』
寝起きの涎を拭いてリクオを見れば、皆があやしてくれたことで泣き止んでいた。
それにしても、やっぱり先程の夢は夢ではなかったか。リクオが覚えてなければ、悪夢を見すぎた私の夢かなって思ってたけど…
『(でも、今のところ何も異変がない…)』
「おいおい、何の騒ぎだぃ?」
「2代目!!」
「若とお嬢がお昼寝をしてたら、若が怖い夢を見たそうで…」
「お父さぁぁぁぁん!!」
モグモグと口を動かしながら来たのはお父さんで、皆は現状を伝え、リクオはお父さんと飛びつく。
私はといえば…
『……ッ…』
「…鯉菜? 」
『…何でもない…』
リクオを抱き抱えてるお父さんを見た瞬間、心臓が握りしめられるような感覚がしたが…
直ぐに治まったし気のせいだろう。
「………そうかぃ?
じゃあ、二人とも起きたことだし、お昼でも食べるとするかねぇ。」
「ボクお腹すいたー!」
『そういえば今何時?』
「1時半。お前らがなかなか起きねぇからオレぁ先に食べ始めちまったぞ。」
『めんごり。』
「めんごりー!!」
もう片方の腕に抱えられ、親子3人でちょっと遅い昼食へ。ガヤガヤとしたこの平和な日常が終わる足音が、もう直ぐそこまで来ていることに私は気付いていなかった。
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