この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 姉弟喧嘩(リクオside)

事の発展はボクが帰宅してから始まった。


「姉ちゃん! 今日も途中下校したでしょ!!」


ボクの姉は、成績優秀の素行不良だ。ボクが中学にあがって一緒に登校するようになり、姉の遅刻や欠席はかなり減ったらしい。でも…直らないのが、授業のサボりだ。


「相変わらず英語や日本史の授業はサボるし! そのままふらっと帰るなんて…何考えてんの!? ここ数日間ずっとそうじゃん!!」


それなのに、どういう思考回路をしているのか…自分は真面目だと言い張るのがこの姉。


『だって授業がつまんないんだもん。面白くするなら私も出るけどさ…あれじゃ自分で他の勉強しといた方が有意義な時間を過ごせるね。』


確かにそう言いたいのは分かる。分かるけど…!


「それでも受けなきゃダメっていつも言ってるじゃん!!ボクが必死に妖怪だとバレないよう色々やってんのに…姉ちゃんがそんなだといつかバレちゃうじゃん!!」

『…リクオのは異常だから。つぅか私は私。リクオはリクオでしょ。リクオの事情に私を巻き込まないでよ。』


そう言いながら、宿題だろうか…英語の問題をスラスラと解いていく姉ちゃん。言い返してくるものの、こちらを見る気配はない。まるでボクを相手にしないかのようなその態度に、ふつふつと怒りが沸いてくる。


「それはこっちのセリフだよ! ボクの努力を無駄にするようなことやめてくれない!? 日頃ボクが皆の為に色々とやってるの…知ってるでしょ!?」


そう言えば、姉ちゃんは書く手を止めてペンを置く。そして、立っているボクを見上げて言う… 


『…努力…ねぇ。確かにリクオは頑張ってるけどさ、それ全部自己満でしょ? 相手の為を思ってのことじゃない。』

「なっ…! 自己満って…どういうことだよ!! ボクがやること皆喜んでくれてるじゃん!!」

『そうね。
確かに…草むしりとか掃除とかするの偉いと思うよ。誰もやりたがらないことを率先してやるリクオは立派だと思う。
でも、他人の日直の仕事をやったり、宿題を代わりにやったりするのはただの自己満。それで皆が喜ぶ?
ハッ…当たり前じゃないそんなの。都合の良い人間だって皆アンタのこと良いように利用してるだけよ。』

「……ーっ!!」


普段見ることのない姉の鋭い目。その目に映るのは…ボクに対する非難だ。怒りで興奮しているボクとは逆に、姉は氷のような眼差しでボクを淡々と非難する。
…はっきり言って、ボクはその目が苦手だ。


「そんなことっ…ない!!
姉ちゃんだってさっき言ったじゃん!! やりたがらない事を率先してやるのはいいことだって! ボクは皆がやりたくないことを代わりにやってるんだよ!!」


姉にボク自身を否定されてる感じがして…嫌なのだ。


『…リクオが他の人の宿題をすることで、その人は学力が上がらなくなる。日直の仕事で身に付けられるのは…観察力や管理能力、協調力。リクオが代わりに仕事をすれば…その人にはその社会的スキルが身につかなくなる。』


そうやって…正論を突き付けてくるんだ。


『…リクオのやってることは人助けでもなんでもない。ただ、人をダメにしてるだけよ。』

「う、うるさいっ!! 大体…今はその話よりも、授業をサボってることの話でしょ!? 先生に失礼だろ!? 毎回毎回授業をサボって…!!」


姉ちゃんの元へ行き、机をバンと叩く。
しかし、少しも動じることなく、ボクをじっと見てる。


「…聴いてんの!?」

『…聴いてるよ。でもさ、それを言うなら…リクオに比べて私の方がまだマシじゃない?』

「どういうこと…。」 

『昼も夜も活動してたら眠いよね。授業なんか寝ちゃうよね。でも先生は君の事情を知らないよ? 先生からしたら不愉快なんじゃない? 堂々とうつ伏せして寝てるリクオは。
それに比べたら…もはや私は居ないんだから不愉快な思いをすることもないんじゃない?』


リクオの方がタチ悪い気がするけどなぁと鼻で笑う姉ちゃんに、ボクの今までの鬱憤が爆発する。


「ボクは…姉ちゃんのそういうところが大っ嫌いだ!! 自分のことを棚に上げてっ…! ボクの話も聴かないし!! 自己中でわがままで……ムカつくよ!!」

『……あっ、そう。…それで?』

「!! それでって…!」


悔しい。
ボクが何を言おうと、姉ちゃんは正論を返してくる。ボクがグウの音も出ない程に。そしてボクに興味無いかのように、そんなことを言うんだ。


「おいおい…お前さんら何してるんだ? お前らが喧嘩してるから見てみろ、皆困ってんじゃねぇか…。」

「! 父さん…」


突如現れたお父さんの言葉に周りを見渡せば、確かに皆こっちをソワソワして見ている。皆の戸惑った様な表情に少し申し訳なく感じる。


『…別に。大したことないから大丈夫よ』


それなのに、問題の元凶にそんなこと言われるとまた腹が立つのは致し方ないことで…


「なっ…大したことないって、ボクは真面目に言ってるんだぞ!? ボクが姉ちゃんのせいでどれだけ困ってるか知らないだろ!!」

『知らないわね。知りたいとも思わないわ。』

「姉ちゃんのせいでボクが時々怒られるんだぞ! 弟なら姉に授業に出るように言えって!!」

『へー大変だねそりゃ。
でも言わせてもらうけど、こっちだってアンタのせいで迷惑被ってるから。アンタの姉だからって、私をパシろうとする奴がよく来るし。授業中アンタがかなり爆睡してるけど家で何してんだって聞かれることもあったし。お互い様でしょ。』

「…じゃあボクも寝ないように気を付けるから、姉ちゃんも授業出てよ」

『イヤよ。』

「なっ…!」

『私は私のやり方でやるって決めたの。リクオだってやめろって言ってるのにパシリやめないじゃん。それと一緒!』


段々イライラしてきたのだろう…語尾が徐々に荒くなる。でもボクだって怒ってるんだ!


「なんで分かってくれないんだよ!! そんなことしてたら妖怪だってバレるだろ!?」

『バレねぇよ!! 素行不良が世の中にどれだけ溢れてると思ってんだよ!! 不良=妖怪だったら世の中の不良やヤンキーは皆妖怪だっての!! いい加減にしろよゴチャゴチャうっせーな!!』
 

バンと机を叩きながら立ち上がる姉。


「ゴチャゴチャうるさいのはどっちだよ!! 姉ちゃんが大人しく普通に授業に出ればいい話でしょ!? 変なプライドはって授業サボって、馬鹿じゃないの!?」

『そうね!! アンタには私のやってる事が馬鹿に見えるかもしれないけど、こっちとしては大真面目よ!! 私としては、妖怪なのバレないよう…自らパシリやりまくってるアンタの方が馬鹿に見えるけどね!!』

「!! 姉ちゃんなんか…
姉ちゃんなんか居なくな…!!」




「いい加減にしろお前ら!!!!」




『「!!」』


お互い本気になって口喧嘩し出すボクたちに、お父さんが怒鳴る。…姉ちゃんとこんな喧嘩するのも初めてだけど、お父さんにこうやって怒られるのも初めてかもしれない。


「リクオ…どんなに腹が立っても、それだけは言っちゃならねぇ。特に相手が家族なら尚更だ。」

「…っ、…ごめんなさい…」

「それと鯉菜。お前は言い過ぎだ。言葉を選べ、言い方がキツイぞ。」


ジロっと姉ちゃんを睨みつける父さん。
そんな父さんに姉は…


『…すんまっせんでしたぁー。』

「……。」

『痛ぁっ!! いはいいはいいはい!!
ごへんははいーっ!!(ごめんなさい)』


…バカだ。やっぱりバカだ。
口を尖らせて不満げに謝る姉ちゃんの態度に、父さんがギリギリギリッと頬を思い切り抓る。
…少しスッキリした。


「オメェらが何で喧嘩してんのか…大体は分かった。そして、2人の意見を聞いて、両方共一理あるとオレぁ思った。
鯉菜の授業をサボる癖は確かに悪いし、リクオのそのパシリ癖に苛立つ気持ちも分かる。だが2人とも結局はそれを直す気はねぇんだろ?」

『ない』


父さんの問いに、姉ちゃんはキッパリと清々しいほどに即答する。


「スゲェ即答だな。
…で? お前さんはどうなんだ、リクオ。」
「…ボクも直す気ない、ね」


そう言えば、父さんは苦笑いしながら言う…


「ハハッ…お前さんら本当に頑固だねぇ。結局は互いに譲らねぇんじゃねぇか。じゃあこれはもう喧嘩両成敗ってことでいいんじゃねぇか?」


ニッと笑いながら、ボクと姉ちゃんの頭を小突く父さん。


「いてッ…」

『アタッ…
…あれ? 私さっきもやられてたよね?』

「さっきのはノーカンだ。
いいか? これでもうおあいこだ。もう喧嘩すんなよ」


ワシャワシャとボクたちの頭を撫でるその姿は、まさに父親そのもので…少し照れくさい。


『……フフッ…』


姉ちゃんもボクと同じで照れくさいのだろう、照れくさそうに笑う。


「御三方…もうすぐ食事の用意ができますよ」
 

そこに首無が現れて言う…


「おぅ。じゃあ行くぞ、お二人さん」

『はーい』

「うん」


父さんに背を押されながら、居間へと向かう。


『リクオ』

「…なに?」


突然名前を呼ばれ、姉ちゃんの方を見れば…


『…今日は、リクオの好きなハンバーグだよ』


ニコッとしながらそう告げられる。


「? 何で分かるの?」


クンクンと匂いをかぐも、ハンバーグの匂いはしてこない。
ボクの鼻が悪いだけだろうか。


「…ハンバーグの匂いなんてしねぇぞ?」


…よかった。父さんの言葉に自分の鼻が悪いわけではないということが分かる。


『だって私もさっき作るの手伝ったもん。少しだけど。
リクオのハンバーグ…大きめにしといたから♪』


「…そうなんだ…。ありがとう……。
……楽しみだよ!」


ニヤッとして言う姉ちゃんに、ボクもニヤッとして返す。
時々腹立つこともあるけど…


「(前言撤回。やっぱり姉ちゃんが好きだ。)」





(「本当だ…リクオのハンバーグでけぇな」)
(「……姉ちゃん…サービスし過ぎだよ…」)
(『……てへぺろ♪』)




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