この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 呪われたアイツ(イタクside)

これは奴良組本家に行った時の話だ。

オレはいつも通り、リクオと鯉菜の修業のために来ただけだった。
…いや、いつもと違うことが1つある。
その時は偶然にも紫を連れて来ていたのだ。本当に、ただの偶然。その偶然がアイツを助けてくれるとは…当初、オレは思いもしなかったんだ。


「イタク!
それに紫も…来てくれたのか!!」

「テメェらが来ねぇから仕方なくな。
…アイツはどうした?」

「姉貴は今…」


寝込んでいる。
そう聞いた時、単純に風邪かと思った。
だが、話を聞けばそれは違うようで…


「おい、それ妖怪の仕業じゃねぇのか?」

「そう思って調べてんだが…まだ分からねぇんだ。」

「ケホケホ…リクオ、鯉菜に会えないの?」

「会えるが…多分、話はできねぇぞ。」


念のため、オレは紫と一緒に鯉菜へ会いに行った。そして部屋に入れば、布団の中でもがき苦しんでいるアイツを見つけた。

"痛い" "苦しい" "気持ち悪い"

オレ達が来ていることにも気付かない程に、鯉菜は苦痛の言葉を口にする。頭を抑えたかと思えば、胸を抑え、時には洗面器に血の入り雑じった胃液を吐いていた。


「もう何日もこの状態だ…
食べられねぇみてぇで水しか飲んでねぇし、かといって熱はねぇようだし。」

「…医者は。」

「鴆が云うには健康だとよ。こうなりゃ妖怪の仕業だとしか思えねぇんだが…まだ手掛かりが何も見つからねぇんだ。」


鯉菜は勿論、その看病をしてる側近らも疲労困憊している。原因も分からず、ただ心配ばかりしているようだ。
そして、
黙りこんだリクオにつられ、オレも黙って考え込んでいた時…


「ケホケホ…黒い靄がある。呪いじゃない?」

「黒い靄?」

「…そんなもん見えねぇけど、」

「あれ? 二人とも見えてないの?」

「…いや。紫の言う通りだ、リクオ。コイツは幸運をもたらす座敷わらしだ。普通なら感じ取れねぇような目に見えねぇものでも、紫なら見えてもおかしくねぇ!」

「ケホ…この靄、線で何処かへ繋がってるわ。」

「…お前らが来てくれて助かったぜ。
紫、案内してくれ!!」

「うん、あっち。」


こうして、オレは紫を肩に乗せ、リクオと共に呪いの元へと向かった。紫による案内で着いたのは、浮世絵高校近くの公園で…


カン カンッ

「…何の音だ…?」

「イタク、リクオ、あそこ…」

「!
あいつぁ…浮世絵高校の人間?」

「あんなところで何をして…っおい!!」


大きな木に、何かを打ち付けるその男。
その手には金槌が握られており、木の幹には釘で磔にされた藁人形があった。しかもその藁人形は鯉菜を模してあり、アイツの写真まで釘に刺されてある。


「な、何だお前らはっ!! あっち行け!!」

「…紫」

「うん…ケホケホ、コレが原因で間違いないみたい。あの藁人形、曰く付きの本物。」

「…テメェが姉貴を…!!」

「うるさい…アイツがオレを弄んだのが悪いんだ!! あんな奴、もっと苦しめばいいんだよ!!」


話を聞いたところ、どうやら鯉菜とこの男は同学年なようだ。先月まで仲良くしていたのに、先日のクラス替えでクラスが分かれ、それ以来仲良くする機会がなくなったらしい。
だからどうしたって話だが。


「しかもアイツ…オレが告白したら何て答えやがったと思う!?
"君のことは友達としか思えない"!
"忘れられない人がいる"!?
じゃあ何でオレに気があるような思わせ振りするんだよって普通思うだろ!! 普段あんま笑わないくせに、オレにだけはニコニコと笑顔で話し掛けて来やがって…!!」

「…ニコニコ?
…おい…それ、逆に警戒…」

「リクオ、言ってやるな。」

「ケホケホ…可哀想な勘違い。」


アイツは普段真顔で話す。勿論、面白い時や楽しい時は普通に笑うが…そうでない時は真顔で話す。それは決して不機嫌なわけではなく、相手に心を開き、リラックスしている証拠なのだそうだ。

冷麗や紫に「普段から笑顔で話せ」と度々叱られている姿を見てきたが、それでも直らないんだ。あれは鯉菜の癖というか、あれが素なのだ。
逆に普段から笑顔で話し掛けてる時は、
相手に心を開いてなく、警戒してるということ。


「とにかく、姉貴のことはとっとと忘れるんだな。弟のオレでさえ姉貴のことはお勧めしねぇ。他にもっといい女がいるって。」

「ケホケホ…鯉菜に後で告げ口しようかしら。」

「やめてやれ。リクオが可哀想だろ。」


できるだけ刺激しないように、リクオが優しくそう諭そうとするも…


「うるさい! オレはアイツが許せねぇんだよ!! オレを弄んだこと後悔させてやるし、その"忘れられない人"のことなんか思い出させねぇくらいに苦しめてやるんだ!!」

カンッ カンッ

「お、おいっ!! やめろ!!」

「…知っててやってんのか知らねぇが、その藁人形は本物だ。お前がアイツを呪いながらそんなことしてるせいで、鯉菜は今本当に苦しんでんだ。最悪死ぬぞ。」

「…死ぬ…?
…ハハッ! そりゃあいい!! オレのこと弄んだ罰として、死ねばいいんだよ!! 最期にオレのこと想いながら、後悔して、オレの手によって死ねばいいんだ!!」

「止めろ!!」

「…ケホケホ…(鯉菜は呪い主を知らないし、そもそも呪われてることに気づく余裕なんてないんだけどね)」


話が通用しない。そして何より腹が立つ。
そんなわけで、気がつけば殴っていた…
勿論、相手は人間なため加減はしてたが。


「イテェ…何だよ、邪魔すんじゃねぇよ!!
これ以上邪魔すんなら…弟だからって容赦しねぇぞ!!」

「オレは弟じゃねぇ、弟はそっちだ。
それと…好きな女にフラれたからって相手を呪ってんじゃねぇよ、カッコわりぃ。男なら相手の幸せを黙って願ってやれっての。」

「綺麗事言いやがって…大体、弟じゃねぇならテメェは関係ねーだろーが!」

「…関係ねぇ?」


あのバカを傷付けたことにも腹が立つし、(理不尽だが)こんな面倒事を起こしてるアイツにも腹が立つ。だが、何より…


「関係大有りだ、バーカ。
アイツはオレんだ。
次また鯉菜を泣かしたら…消すぞ。」

「ひっ…ひいぃぃいい!!!」


アイツが苦しんでるのに、何もやってやれねぇ自分にも腹が立つ。ただでさえ、アイツは信頼してたヤツを亡くして元気がねぇってのに…


「(くそっ…)…もうこれで大丈夫だろ、帰んべ。
…お前ら何ニヤニヤしてんだ。」

「ケホケホ…いつからかなって。ね?」

「本当、いつからなんだろうな。弟のオレでさえ知らなかったぜ。」

「…だから、何が言いてぇんだよ!?」

「「鯉菜はいつからイタクのものになったんだろうなって」」

「………あ、
ち、違ぇっ!! アレは…あの男を追い払うために仕方なくついた嘘だ!!」


やらかした。冷麗がここにいなかったのが不幸中の幸いだが、マジでやらかした。
しかもオレがなんと言おうと…コイツら聞く耳持たねぇし、ずっとニヤニヤしてやがるし!


「(数分前の自分を殴りてぇ!!)」

「ケホケホ…取り敢えずこの藁人形は清めて祓うとして…。イタクの誰かさんのために。」

「紫っ!!」

「んだな…じゃ、そろそろ帰るか。姉貴の、じゃねーや…イタクのもんの所に!」

「このっ…レラ・マキリ!!」

「お、おいっ!? 何でオレん時だけなんだよ!!」


この後鯉菜は元気になったものの…
オレは生気をしばらく失った。

そして、今回で身を以て学んだ。


『はぁ…やっと治った。本当なんだったんだろうなぁ、あの風邪。』

「…お前と関わるとろくな事がねぇ。」

『ぇ…、あ〜…あははっ!
そうだよね、ごめんね…?』

「! (しまった…)
そ、そういう意味じゃねぇ! その…」

「あーぁ、イタクが姉貴を傷付けた。」

「ケホケホ…いくら鯉菜がイタクがのも…」

「だーっ!! テメェらしつけぇぞ!!」

「おいおい…そんな生意気な口を効いていいのかぃ、師匠さんよ。」

「冷麗に早く会いたい…ケホッ」

「(頼むからやめてくれ…)」

『…?』


コイツも取り扱い注意だが…
コイツの身の回りにいる奴らはもっと別の意味で取り扱い注意だと分かったのだった。








(『さっきさ、私と関わるとろくな事がないってイタクに言われちゃった…。やっぱそうなのかな…』)
(「そんなことねぇぞ、鯉菜。オレも若菜もリクオだってお前がいねぇと寂しい。それに、そんなこと考えてるって知ったら、先生だって悲しむぞ。」)
(『…うん…そうだよね、ありがとうお父さん。』)
(「気にすんな。(イタク君は後で絞めあげよう☆)」)




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