この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 色気講座

「姉ちゃんはさぁ〜、せっかく可愛くて美人なのに…喋ると残念だよね〜。」

『えっ なにこの子。ニコニコして人のことディスってきたんですけど。』

「でもボクはそんな姉ちゃんが好きだよ! なんというか…そのギャップがまた可愛いと思うんだよね!!」

『お、おぅ…ありがとう…?』


ハロー、皆さん。いきなりですが、今目の前では奇妙なことが起きています。
あのリクオが…
私やお父さんをいつも叱ってくる母親的リクオが、私のことをあろうことかニコニコして褒めてくるのです。ぶっちゃけコワイ!


『リクオ…? なんというか、どうしたの?
もしかして今日も自主早退したから怒ってるの…?』

「え〜? いいんじゃない? 姉ちゃん可愛いから、何でも許されるよ!!」

『ごめん!! よく分かんないけどごめんねリクオ!!』

「…お前ら何騒いでんだぃ?」

『お父さん! 聞いて! リクオが超絶変なの!!』

「変って…酷いなぁ、ボク傷ついちゃうよ♪」

『ほら!!
見てこの100%ピュアな笑顔を!!』

「…あ、もしかしてようやく効いてきたのかぃ?」

『…よく分かんないけど原因はアンタかこの野郎!!』

「ぐへっ!?」

「アハハ! 父さんと姉ちゃんは仲が良いよね〜」


絞められてるお父さんを見て笑うリクオは相変わらずニコニコとしている。しかも顔が仄かに赤い。
…赤い?


『待って…リクオ、もしかして酔ってる?』

「へへっ バレた〜?」

「ちなみにリクオが飲んだのは反転酒だぜ」

「もぉ〜父さんばっかり姉ちゃんと話してズルいよ!!」

『……り、りっきゅん…!!』

「お前は何酔っぱらいの言葉にときめいてんだ、アホか。」


いやいや、いくら酔っぱらいとは言え…愛しの弟に抱き着かれてそんなこと言われたらねぇ。ときめくでしょ、誰だって。
それにしても…反転酒を飲んだらリクオは甘えん坊になるのか。クソ可愛いじゃないか、反転酒造った人マジでありがとう!!


『リクオ〜♪』

「アハッ くすぐったいよ姉ちゃん!」

「…あれ? おかしいな。オレが楽しむためにリクオに反転酒飲ましたのに、オレちっとも楽しくねぇぞ?」

『リクオまじ可愛い〜♪』

「何言ってるの、姉ちゃんの方が何千倍も可愛いよ!!」

『そんなぁ〜! へへ〜』

「へへへ〜」

「…別に寂しくなんかないもんね!!
でも鯉菜は今からオレと遊ぶんだもーん。リクオはいい加減オレに鯉菜ちゃんを返してくださーい!!」

『ガキかよ!!』

「嫌だ!! 姉ちゃんはボクの姉ちゃんだもん!!」

『当たり前のこと言ってるだけなのに可愛い!!』

「何この差!?」


致し方ない、これは致し方ない。
だってリクオが可愛いんだもの!! 普段甘えてこないリクオが私に抱きついて甘えてるんだよ!?


「お前さんはいつも鯉菜と一緒に学校行ったり遊んだりしてんだろ!?」

『ふわっ』

「学年違うからクラスも違うし!!」

『うぉっ』

「オレなんか学校一緒に行けねぇし!? 親離れしろって首無達によく注意されるしぃ!??」

『あわわっ、ちょ、落ち着けアンタら!!』


何が起きてるんだ!? 何で私は今リクオとお父さんに挟まれて引っ張り合いされてんだ!? 嬉しいけど地味に痛いし、何よりグイグイ引っ張られて酔いそう!!

そして何回2人の間を行き来しただろうか…

さっきまでとは別に、勢いよく、引っ張られた。
引っ張られたというか…これは最早抱き込まれたって感じ。
ちなみにリクオとお父さんのどっちかと言うと…


「…姉貴を取るな。取るなら地下に閉じ込めて監禁してやる…。」

『え"』

「…リクオ?」


正解は、夜リクオだ。
てゆうか今こいつ物騒なこと言わなかった?
なに? まさか夜リクオは反転酒を飲んだらヤンデレになるの!? コワイ、殺されそう!!
しかも、ちゃっかり私を後ろからガッチリホールドしているし。これは簡単に抜け出せないぞ!?


「今はオレが姉貴を独り占めする時間なんだ、邪魔するなら親父といえども許さねぇぞ…」

「それはこっちのセリフだってんでぃ。お前さんは氷麗ちゃんや紀乃っぺのところにでも行ってみたらどうなんだい?」

「親父こそ母さんのところに行って相手してもらえばいいだろ。なぁ、姉貴?」

『は』

「んなことねぇよな? パパが行ったら寂しいでちゅもんねー?」

『何で赤ちゃん言葉? なめてんのか? あ?』


この状況をどうしてくれようか…
嬉しいような、面倒くさいような。てゆぅか、そもそもお父さんは私ばかりを構いすぎなのではなかろうか。ここはもっとリクオの方を構うべきなのでは…仕方ない、ここは私が一肌脱いでやろう。


『お父さん、せっかくなんだから仲良く3人で話そうよ。それに反転酒を飲んだリクオ…色々試したくない?』

「…それもそうだな。
…よぉし、リクオ! 父さんと語ろうぜ。最近学校の方はどうだ?」

「あ? まぁ…普通に楽しいが。」

「そうかそうか。にしてもお前さん…モテるんじゃねぇのか? 最近益々男前になってきてるしよぉ。」


おやおや…さっきまでの面倒くさい雰囲気は何処へ行ったのやら。今では普通に話している。
まっ、普通にと言っても…相変わらず私はリクオにガッチリホールドされてるけどね!


『(つぅか私はいつまでホールドされてるんだ)』

「んなことねぇよ。親父に比べたらオレなんかまだまだだ…」

「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇかぃ」

「親父なんか今でももて囃されてるんじゃねぇか? 飲み屋に行ったらいつも女に囲まれてる。」

『(それな)』

「つっても、まぁオレの心は若菜一筋だがな。
…それで、リクオはどこまでいったことあるんだ?」

「あ?」

「学校には可愛い娘が沢山いるし、化け猫屋に行っちゃあお前さんもいつも女に囲まれてるじゃねぇか。誰かと進んだことねぇのか?」

「…ねぇよ。なくて悪かったな。」


…何この二人。
私がここにいるの忘れてそんな話をしてるのか?
それとも、わざとそんな話をここでしてるのか?
何で弟のちょめちょめな話を聞かなくちゃならんのだ、一応私は女なんだからな!?

そんなことを内心思いつつも、残念ながら話は進んでいく。


「親父と違ってオレには色気がねぇからな…」

「そうか?」

『(そもそもお父さんは色気を常に発動してるのに対して、リクオの場合は無自覚で時々発動してるけどね。)』

「どうやったら親父みてぇに色気が出るんだろうな。…まぁ…どうせオレはダメなやつだよ…親父やジジイみてぇに男らしさなんざねぇダメなやつなんだ…」


何だこのクソ下らない人生相談は。
つぅかリクオ暗っ! 反転酒飲んだらこんなに自信ない暗い性格になんの!? 普段とのギャップが酷すぎて扱いに困るんですけど…。
しかも、だ。
お父さんは何やら閃いたようで、悪戯っ子のような笑みを浮かべてるし。もう嫌な予感しかしない、誰か私を助けてくれ!!


「…練習するか?」

「…練習?
…なぁ…なんか、顔近くねぇか?」

「おいおい、つれねぇなぁ。何で後ずさるんだよ、逃げんなって。」

「なっ…何で距離つめるんだよっ!?」


色っぽい雰囲気を醸しながら、お父さんがジリジリと距離を縮めてくる。それに対し、リクオは私を未だホールドしたまま後ずさった。

きっと隙を見てリクオが逃げ出すだろう…

そう楽観的に考えていた私だが、何事も思い通りにいかないのが現実だ。ドンという小さな衝撃に、リクオが壁に追いやられたのが分かった。
後ろに壁で、前にはお父さん。
横は空いているが…お父さん相手に抜けるのはかなり厳しいだろう。
そもそも、今のリクオは反転酒でいつもと性格が違う。普段なら蹴り飛ばしてでも逃げていただろうに、今じゃあスッゴい戸惑ってる。


「オレから逃げられるとでも思ってんのかぃ?」

「うっ…」

「さてと、それじゃあ楽しい楽しいお勉強の始まりとでもしようかねぇ…」

「ッ…耳元で喋んないでくれ…」

『(ふぉぉ!! 直視できないけど、色気全開なお父さんにリクオが攻められてるーっ!! てゆぅか弱ってる夜リクオ…案外いけるくね!?)』

「んな構えんなよ。オレが手取り足取り教えてやる…優しくな。」

「…っ」

『(ファーッ!!)』


アカン、これアカン。
何がアカンって、まずこの二人! 色気全開なお父さんにリクオがたじたじになって攻められてるのが滅茶苦茶エロい!! いつからここはBLの場になったんだ、ふざけんなよ、ありがとうございます。

そしてアカン2つ目。
あまりの恥ずかしさにリクオが私をギュッと抱き締めてくる。気持ちは分からなくもないが、でもお願いだから気付いてくれ。私のあばら骨はミシミシと鳴っているぞ!!

ラスト、アカン3つ目。
受け攻めの間にいる私は、いつ悶え死んでもおかしくないということ。父よ、頼むからその色気しまってくれ。それと、わざとだろうけど上半身肌けてるから整えて!!
リクオはリクオで少し落ち着け。何より…アンタの心拍数と体温が直に伝わってくる私の身を考えてくれ。緊張が伝染るんだよ! でもその困り顔超グッド、エロいぞ!!


「いいか、リクオ。
相手を落とす時はまず、相手の目をじっと見つめるんだ…」

「お、おお、親父っ!
ちょっと待…」

「目ぇ逸らすな…オレを見ろ。」

「っ」

『(顎クイいったあぁぁぁ!!
ヤバいヤバいヤバい、顔のにやけが止まらないし止められない!!)』

「ただ見るだけじゃ駄目だからな。ちゃんと熱い視線を送るのがコツだ…」

「お、親父! もう分かった! 分かったからもう止め…」

「ん? …まだ終わらせねぇぜ?」

ドン

「『(ヒィィイイ!!!)』」


リクオがせっかくお父さんから逃げようとするも、それは壁ドンで遮られてしまった。しかも両腕ドンだぞ、逃げ場がないじゃん。
そんなわけで…
"逃げられない"
そう感じた私達は、声なき悲鳴をあげながら無意識のうちに抱き合った。

あまりの恥ずかしさにこっちは死にそうなのだ。
決して笑い事ではない。
なのにー


「…ぶはっ!!」

「『…へ、』」

「ク…ハハハハハ!!
あー腹痛ぇー!! お前ら姉弟揃って顔が真っ赤だぞ!! ハハハ!!」

「『………』」


言われてリクオの顔を見れば、確かに顔が赤い。
自分の顔色は分からないけれど、顔が熱いのは自覚あるし、きっと赤いのだろう。


「ククッ…お前さんらには少し刺激が強かったか。」

「…少しじゃねぇよ。」

『失神するかと思ったわ…』

「純粋だねぇ。」


そんなこんなでようやく終わった、色気講座。
正直メンタルがかなり疲弊してるため、いつものようにお父さんを怒る気力もない。
そしてそれはリクオも同じなようで…


「…死ぬかと思った」

『…あれは…やばい…』

「やばいな…あれは。」

『お父さんにこんなに畏れを抱いたの初めてかもしれない…』

「親父のあの色気は殺人級だな…」


お父さんが何処かへ行った後…
お父さんの色気について、二人で赤い顔のまま語ったのであった。



(「お疲れさん、若菜。」)
(「あら鯉伴さん、何か良いことでもあった?」)
(「…まぁな。リクオと鯉菜と遊んできた。」)
(「そう! あの子達も喜んだでしょうね♪」)
(「ぷはっ! 違いねぇ!」)




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