この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ


▽ 風邪の時くらい休ませろ!

冷たい…

頭に触れた冷たいそれは、私を眠りの世界から引き上げる。眠さと怠さで未だ頭はボーッとしているが、誰かの気配を傍に感じ、ゆっくりと目を開けた。


『……父…さ…?』

「!
悪ぃ、起こしたか?」

『ん…だいじょーぶ…』


そこにいたのはお父さんで…
私が目を覚ましたのに気付き、優しい手つきで頭を撫でてくれた。
オデコには冷たい濡れタオルが置かれてある。
ーそうだ、私は今、熱で寝込んでたんだった。


「もうすぐ鴆も来るし、大丈夫だからな。直ぐに熱なんか下がるだろうよ。」

『うん…』

「今はまだ熱が高ぇから安静にしてなきゃいけねぇが…治ったら看病した礼としてたくさん"パパ大好き♪"って抱き着いてきていいからな! それまでは我慢だ。」

『…いっそのこと熱引かなくても良くなってきたわっつーかアンタ看病しなくていいよ。』

「我が儘なやつだなぁ、仕方ねぇ。代わりと言っちゃあなんだが、今回は特別にオレが子守唄を…」

『あー…ただでさえ風邪のせいで寒気がするのに、どっかの誰かさんの戯れ言で余計に寒気がしてきた。ゲホッ』

「おいおい、誰だいその輩は。オレが退治…」

『アンタだよ! ゲホッ、ゴホッ!』


つい大きな声を出してしまったことで、咳が出る。私これでも病人なんだから休ませろよ。
でもお父さんもふざけすぎて悪いと思ったのだろう、大丈夫かと真面目な顔で声をかけてきた。最初からそうしとけよ。
そして咳がおさまってきた頃、部屋の外から二人の話し声が聞こえてきた。この声はリクオと…鴆かな?


「鯉菜、入るぞー」

「おぅ、鴆。よく来てくれたな、助かるぜ。」

「いえ、鴆一派として当たり前のことをしたまでですよ。それより鯉菜は調子どうなんだ?」

『怠い…』

「姉貴はいつもダリぃって言ってるけどな。」

『うるさい…それよりその手にあるお粥は私の?』

「あぁ、母さんがそろそろ姉貴が起きるだろうから持ってけってよ。」

『よく分かったな…流石お母さんだ。』


お父さんに身体を起こしてもらって、リクオが持ってきたお母さん特製・卵粥をまずは一口。温かくて美味しいそれは、私の身体を奥底からポカポカにさせてくれる。


「それ食ったら薬飲めよ、今作ってるからな。」

『えぇー…食中は駄目なの?』

「駄目だ。それに今作ってる最中だろうが。」

「苦くて飲めねぇならアレ買ってこようか? あの…ゼリーに薬を入れてのむやつ。」

「おい、親父は姉貴に甘過ぎんだろ。そんなのなくても薬くらい誰だって飲めるじゃねぇか。」


そう言うリクオは呆れたような顔をしている。
…いや、アレは不貞腐れてるのか…?
もしくは両方、か。
ふむ…ここは姉の私が一肌脱いであげよう!!


『錠剤だったら普通に飲めるけど粉薬だったらゼリー欲しいな…
それよりお父さん。リクオがオレも親父に甘えたいってご所望なようだけど?』

「およ…そうなのかぃ、リクオ。心配しなくともオレは鯉菜だけじゃなくてリクオのことも愛してるぞ!!」

「んなこと聞いてねぇ!!
つぅか何ぬかしてやがる、このバカ姉貴!!」

『照れんなって…、うぇっほ! うほぉ!』

「ゴリラみてぇな咳だな…
あと、元気が出てきたのは良いことだがあんまり騒いでるとぶり返すぞ。」


誰がゴリラだ、このやろー。
そう声に出したいのは山々だが、今の私にはその体力はない。というか、お父さん達を相手にしてエネルギーを既に消費してしまった。

そして、そんな私に気付いたのだろう。

お父さんは空になったお粥の器をさげて台所へ向かい、鴆は出来立ての薬を出してきた。やっと静かになった…


「ほらよ。コレ飲んで寝ろ。」

『…えっ、何この薬。色やばくない?』

「新種の薬か…?」

「ちげーよ!! リクオも鯉菜も、揃いも揃って毎度"不味い"だの"粉薬は嫌"だの言うから今回は液体にしてみたんじゃねぇか!!」

『いやいやいや、私は錠剤がいいって言ってたよね!! こんな泥々した液体なんざ粉薬と大して変わらないでしょ!!』

「あぁん!? ゼリーも液体も大して変わんねぇだろが!! それに錠剤は時間がかかるんだよ!! 文句言わずにさっさと飲みやがれ!!」

『ぇうっ!?』


ガッと顎を掴まれたかと思いきや上を向かされて、そのまま口に薬を流し込まれた。薬を突っ込まれなきゃ素敵なシチュエーションだったのに…ときめいてしまった今の一瞬を返せ。
それに何だこのクソ不味い薬は!!
分かりやすく言えば、この上なくクソ苦い泥々した青汁だろう。その苦味と舌触りの悪さに身体は拒絶反応を示す。
反射的に吐き出そうとするも…


「吐くなバカヤロー!! 飲め!!」

『ふむうぅぅ〜!!!』

「…………」


口を手で塞がれてしまって吐くことができない。そんな私をリクオは横で哀れむように見てくる。助けろよ、おい。大体鴆は私を殺すつもりなのか? 口だけでなく鼻も一緒に手で塞がれたら、私は一体どこで呼吸すればいいんだ。耳か? 耳から空気取り入れろってかコンニャロー。


『〜〜ぷはぁっ!!!』

「よし、飲んだな。後は大人しく寝とけ。」

『"よし"じゃねぇよ、羽むしりとって焼き鳥にするぞ!!』

「痛ぇっ!? 何で殴る…ゲボォ!!」

『あっ』

「…お前ら何やってんだよ…」


バシッと頭を叩いたら、鴆がいつもの如く勢いよく血を吹いた。そして鴆の目の前にいた私は、それをもろに浴びてしまったのだ。


「…悪ぃ。」

『…デジャヴ…何かこんなこと前にもあった気がするや。取り敢えずお風呂入ってくる。』

「おい鴆、姉貴はお風呂入っても大丈夫なのか?」

「あー…あんま入らねぇ方がいいが、仕方がねぇ。その代わり誰かと一緒に入ってもらえ。あがったら身体を冷やす前に布団に入れよ。」

『うっす。』


その後…
鴆に言われた通りに、毛倡妓に付き合ってもらってお風呂に入った。薬が効いてきたのか…少しはマシになったけれど、やっぱりまだ身体が怠くてキツイ。
早めにあがってまた寝ようと寝室に行くと…


『…何でいんの?』

「お前を看病するのはオレだが…オレも病人だから寝とけってリクオがきかねぇんだよ。」

『分かった。私を看病しつつも、自分も休むために鴆もここで寝るのね。
じゃあリクオは?』

「姉貴が鴆を襲わねぇように見張りだ。」

『おいコラ。普通逆じゃね? 何で私が鴆を襲うんだよ、襲っていいなら襲うけどさ!!』

「いいわけねぇだろ!!」


リクオ、私、鴆という順に並べてある布団。二人と同じ部屋で寝られるのは嬉しい、けど怖いな。まずリクオの寝相で私が死にはしないかが不安だ。そして鴆は一晩中薬を枕元でゴリゴリ作りやしないかが不安だ…頼むから臭い薬を嗅がせてくれるなよ。

正直、熱で騒ぐ元気はあまりないけれど…
それでも3人でこうして寝るのはとても懐かしくて、何だか嬉しかった。
ちなみに…
翌朝、



『…うぅ〜ん…! よく寝たぁー!』

「ん…ふぁ〜ぁ…起きたか、鯉菜。調子はどうだ?」

『バッチリ! 熱引いたと思う。』

「ゲホッ ゴホッ」

『あ、リクオも起きたのかな?』

「…ちょっと待て。おい、リクオ? お前…
熱あるじゃねぇか!!」

『えっ』


私が元気になった代わりに、今度はリクオが熱を出してしまった話はまたの機会にしよう。




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